マチンガのノート

読書、映画の感想など  

心の傷を癒すということ NHKドラマ 感想2

2020-02-09 21:51:16 | 日記

中井久夫氏がジュディス・ハーマンの「心的外傷と回復」の訳者あとがきで書いているように、

トラウマに関する物の翻訳は、それを行う人にも様々な負担になるようです。

故・河合隼雄氏は、「なぜ日本には多重人格は少ないのか」という論考をどこかに書いていましたが、

多分、臨床で治療者として会っていても、気づかなかったからそう書いたのではないでしょうか。

ユング派の資格を持つ方も増えたようですが、重い症例の方と治療関係を築けるとは限らないようです。

「内省型の精神病理」(湯沢千尋著:金剛出版)の中で著者の湯沢氏が"自分が40代になり運命共感的になってから、

自分の患者さんにアンネ・ラウ(W・ブランケンブルク著「自明性の喪失」で取り上げられた症例の少女)

のような話をする人が出てきた"と述べているように、深い問題を抱えている方は、

その話の受け手に成り得る人が居ないと、それを言語化、思考化するところまで行かないのでしょう。

最近ではトラウマや虐待などに関しては、米国での先行する大量の研究と出版物があるので、

翻訳すればこれからいろいろと役立ちそうです。

イラク戦争での米軍の調査・研究の結果、PTSDに関しては、治療・サポートする側は、積極的に当事者に

聞こうとはせず、本人が治療・サポートを求めた際に対応するほうが予後が良いことが解ったことなども、

大規模な調査をできたから解ったことでしょう。

 


治療論からみた退行/マイケル・バリント 訳:中井久夫

2020-02-09 00:21:56 | 日記

本書では、患者さんのそれまでの人格構造が緩み、人格構造が無理なく主体的かつ柔軟に

組みなおされることの意義について書かれている。

そのためには、治療者が地下風水として受け身で患者さんを支え、固まっていて動いていなかった

主体性が動きだす環境を治療者が提供することが必要との事である。

判り易い症例として挙げられているのは、これまで一度もとんぼ返りができたことがないという

患者さんが、診察室でとんぼ返りをすることが挙げられている。

つまり、人格構造に柔軟性がなく固まっていた患者さんの、身体を含む人格構造が緩み、

主体的に構造が再構成した結果、身体を含む人格構造が柔軟に再構成され、

これまで出来なかったとんぼ返りができたのだろう。

柔軟性が増した分、患者さんが無理をすることが減り治療も進展し、様々な脆さや、

不器用さや、症状が減少するのだろう。

治療者が外側から何かをさせることより、あくまで受け身の姿勢を保つことの必要性が

判り易く書かれている。

そのようなことは、人格構造が未成立だったり、硬直していたり、曖昧である発達障害の人の治療には、

大きく役に立ちそうである。

知識と経験とセンスがあり、熟練した臨床家が言うには、この本を読んで解らないという人には

臨床の仕事は、向いていないとの事である。

近年、統合失調症になる患者さんが減少しているのも、社会の価値観が多様化して、

自分に合わない「こうあるべき」というものに、無理をして合わせようとするする人が減り、

それまでの人格構造が破綻する人が減少したことが大きいのだろう。

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