中井久夫氏がジュディス・ハーマンの「心的外傷と回復」の訳者あとがきで書いているように、
トラウマに関する物の翻訳は、それを行う人にも様々な負担になるようです。
故・河合隼雄氏は、「なぜ日本には多重人格は少ないのか」という論考をどこかに書いていましたが、
多分、臨床で治療者として会っていても、気づかなかったからそう書いたのではないでしょうか。
ユング派の資格を持つ方も増えたようですが、重い症例の方と治療関係を築けるとは限らないようです。
「内省型の精神病理」(湯沢千尋著:金剛出版)の中で著者の湯沢氏が"自分が40代になり運命共感的になってから、
自分の患者さんにアンネ・ラウ(W・ブランケンブルク著「自明性の喪失」で取り上げられた症例の少女)
のような話をする人が出てきた"と述べているように、深い問題を抱えている方は、
その話の受け手に成り得る人が居ないと、それを言語化、思考化するところまで行かないのでしょう。
最近ではトラウマや虐待などに関しては、米国での先行する大量の研究と出版物があるので、
翻訳すればこれからいろいろと役立ちそうです。
イラク戦争での米軍の調査・研究の結果、PTSDに関しては、治療・サポートする側は、積極的に当事者に
聞こうとはせず、本人が治療・サポートを求めた際に対応するほうが予後が良いことが解ったことなども、
大規模な調査をできたから解ったことでしょう。