マチンガのノート

読書、映画の感想など  

「恐怖の権力―<アブジェクシオン>試論」 ジュリア・クリステヴァ その2

2015-05-25 01:47:40 | 日記
ソ連の衛星国出身者にとっては、自国の共産党政府や、
ソ連が様々な媒体で主張していることなど、どうせ実体のない嘘ばかりで、
さらに武力を背景に自国を支配しているソ連の主張を
嘘と知りつつ庇っている自国政府のもと、その様なことを公的に指摘しようとすると、
適当に罪を押し付けられ投獄される、事故に見せかけ抹殺される、
人知れずソ連の辺境に送られて二度と戻ってこれない、などは
普通に予測していただろう。
さらに西側に来ても、当時のソ連や社会主義がいいと言う人の多い、
無知で無邪気で傲慢な西側知識人と何かを話しても、
何を話せば、どのように伝わり、相手がどう受け取るかを
常に考えて話したり、書いたりせざるを得なかっただろう。
その様な状況の下、自分を持つ、保つ、というのは、
西側の人間と違って、とても困難だっただろう。

「恐怖の権力―<アブジェクシオン>試論」 ジュリア・クリステヴァ その1

2015-05-25 00:22:08 | 日記
大阪府立大学の心理臨床の博士論文でこれについて扱ったものの概略をネットで
見たので、本書を読み始めた。
ジュリア・クリステヴァはブルガリアで1941年に産まれたとのことだが、当時は戦争中で
戦後は混乱期があり、そしてソ連軍が来て居座り、衛星国にされた国なので、
米国施政下の沖縄よりはるかに、ソ連、ソ連軍に不当に扱われたことは
想像に難くない。
ソ連兵がブルガリア国民に様々な犯罪行為を行って、それを仮にブルガリア人が
訴え出たとしても、犯罪事件として取り上げてすらもらえない事は、
相当多かっただろう。
ソ連国内ですら、1932年、33年の飢饉の際、ウクライナは、食料を取り上げられ、
250万~1450万人が死亡したのだから、衛星国であるブルガリアは
いつ何をされるか判らないという状況だったのではないだろうか。
その様な、圧倒的に無力で不利な状況下の国からフランスへ行き、様々なものを
学んだのだろう。
日本には、豊かで平和なスイスの臨床家などはよく紹介されてきたが、
ソ連の衛星国で貧しい国の出身者は、考える基盤自体が違うのだろう。