マチンガのノート

読書、映画の感想など  

アメリカン・ソルジャー Thank You for Your Service/監督:ジェイソン・ホール 出演 マイルズ・テラー 感想

2020-02-17 00:07:50 | 日記

「帰還兵は何故自殺するのか」デビッド・フィンケル著に着想を得て制作された映画です。

ストーリー

下の画像の左から、アダム(マイルズ・テラー)とトーソロ(ポーラ・コール)、ビリー(ジョー・コール)は

イラクに派兵されて、任期を終えて本国に帰還しますが、それぞれ、戦闘体験に起因するPTSDによる

フラッシュバック症状や、簡易爆弾の爆発に巻き込まれた影響による認知機能や記憶力の低下などで帰国しても

普通に暮らすことができません。

アダムは帰国後も車に乗ると常に仕掛け爆弾を探して警戒することを止められず、予期しない所で

フラッシュバックの症状が出て、日常生活も困難で、ビリーは恋人に去られ自殺し、

トーソロは暴力の発作から、出産直前の奥さんに去られます。

アダムとトーソロの二人は退役軍人省に行きますが、医師との面談などは6~9か月待ちで、それまで

様々な補償金も治療も受けられません。

トーソロの障害のもとになった出来事も記録の不備から、自分で上官に証明してもらう書類を作成しなければ、

補償の対象にすらならないほど、サポートが欠けています。

アダムはビリーの母親の伝手で治療施設に入れることが決まりますが、トーソロは何の医療的ケアも受けられません。

エクスタシーという麻薬が症状に効くと他の退役兵に聞いたトーソロは密売人のところに行き、

手に入れようとしますが、上手くいかず、湾岸戦争の退役兵のギャングに運び屋の仕事をすれば、

エクスタシーをやると言われて、当然、違法な事と解りますが、それでも運び屋をやり、

エクスタシーを手に入れます。ここら辺のところは、薬物依存の臨床家の松本俊彦氏の言う、

依存症の患者さんは、快楽のために薬を摂取するのではなく、苦しさを麻痺させるために薬を摂取する、

という主張と重なっています。

しかしながら、2回目の仕事の最中に病院から奥さんのことですぐに来るように連絡があり、

そこでは奥さんが無事に赤ちゃんを出産していました。

しかしながら運び屋の仕事を勝手に中断したことで、ギャングに命を狙われたので、

アダムは自分の入るはずだった治療施設にトーソロを入所させます。

感想

制作はドリームワークスですが、このような重いテーマをメジャーな映画制作会社が映画化するというのも

アメリカの現状を表しているのでしょう。

米国では軍人の人は、日常の様々な所で敬意を示されるとのことですが、様々な障害を負った帰還兵の人は、

何か月も待たないと、治療を受けることすらできないというところに、米国社会の歪みを感じさせる

内容でした。

米国は多額の財政赤字を抱え、医療従事者も多額の奨学金を返さないとならないという現状を考えると、

米国政府は日本や韓国、NATO加盟国にさらに負担を求めるのではないだろうかと思わせる内容でした。

 

 


ポバティー・サファリ/ダレン・マクガーヴェイ 集英社 感想

2020-02-14 01:22:07 | 日記

母親がアルコール依存と薬物依存で貧困状態の労働者階級の家庭で育った著者の書いたものですが、

英国の政治、言論の世界では、左派は社会、経済構造が原因で労働者階級は貧しく

社会から疎外されていると主張していて、右派は貧しい労働者は学んだりちゃんと働かないから

貧しく社会の底辺にいると主張しているとの事です。

著者も長年左派の考えが正しいと思っていたとのことですが、様々な政治的なイベントに参加して

話したりしているうちに、左右両派の主張には、どちらも貧困当事者を置き去りにしているところがあると思ったため、

双方の主張に疑問を持つようになり、徐々に自分で主体的に考えるようになり、それが本書になったとの事です。

本書の副題には「イギリス最下層の怒り」とありますが、あくまでそれは導入部分であり、

本書では著者がそこから離れていき、独自の思索を巡らしていくところが書かれています。

イギリスは階級社会が長く続いており、さらに近年の緊縮政策で、左右両派の対立が深まっていますが、

著者は双方の主張に疑問を持ち、独自の思索を巡らしていくところが興味深かったです。

ポバティー・サファリ(貧困サファリ)という言葉が浮かんだきっかけとしては、

中産階級のアーティストが、1年間衰退した地方都市の、貧困地帯の中で暮らしてみて、

それによって多額の報酬の得るというプロジェクトが持ち上がった時、貧しいSNSユーザーから

バッシングを受けて、著者が討論するために会場に行くと、その善良そうなアーティストは憔悴していたので、

豊かで社会に関して無知で善良な人の、思慮を欠いた行いをバッシングすることに疑問を感じたことが

大きかったとのことです。

 

 

 


映画ドリームガールズ 監督 ビル・コンドン NHK-BS

2020-02-10 23:06:42 | 日記

音楽映画とかミュージカル映画は観たことが無かったのですが、

何となくBSで「ドリームガールズ」を視聴。

「48時間」や「ビバリーヒルズコップ」の喋り中心のエディ・マーフィさんしか知りませんでしたが、

こちらの歌うエディ・マーフィさんが上手くて迫力があり意外でした。

そしてなんと言っても、ジェニファー・ハドソンさんの、ソロで歌うシーンの迫力に圧倒されました。

最近はCGなどの人工的に作られた視覚効果の発展が著しいですが、生身の人間の表現力のすごさが、

良く解るシーンでした。

それにしても、ダニー・グローバーさんは、刑事をやったり、プレデターと戦ったり、

いろいろとそつなくこなす俳優さんだな、と思いました。


心の傷を癒すということ NHKドラマ 感想2

2020-02-09 21:51:16 | 日記

中井久夫氏がジュディス・ハーマンの「心的外傷と回復」の訳者あとがきで書いているように、

トラウマに関する物の翻訳は、それを行う人にも様々な負担になるようです。

故・河合隼雄氏は、「なぜ日本には多重人格は少ないのか」という論考をどこかに書いていましたが、

多分、臨床で治療者として会っていても、気づかなかったからそう書いたのではないでしょうか。

ユング派の資格を持つ方も増えたようですが、重い症例の方と治療関係を築けるとは限らないようです。

「内省型の精神病理」(湯沢千尋著:金剛出版)の中で著者の湯沢氏が"自分が40代になり運命共感的になってから、

自分の患者さんにアンネ・ラウ(W・ブランケンブルク著「自明性の喪失」で取り上げられた症例の少女)

のような話をする人が出てきた"と述べているように、深い問題を抱えている方は、

その話の受け手に成り得る人が居ないと、それを言語化、思考化するところまで行かないのでしょう。

最近ではトラウマや虐待などに関しては、米国での先行する大量の研究と出版物があるので、

翻訳すればこれからいろいろと役立ちそうです。

イラク戦争での米軍の調査・研究の結果、PTSDに関しては、治療・サポートする側は、積極的に当事者に

聞こうとはせず、本人が治療・サポートを求めた際に対応するほうが予後が良いことが解ったことなども、

大規模な調査をできたから解ったことでしょう。

 


治療論からみた退行/マイケル・バリント 訳:中井久夫

2020-02-09 00:21:56 | 日記

本書では、患者さんのそれまでの人格構造が緩み、人格構造が無理なく主体的かつ柔軟に

組みなおされることの意義について書かれている。

そのためには、治療者が地下風水として受け身で患者さんを支え、固まっていて動いていなかった

主体性が動きだす環境を治療者が提供することが必要との事である。

判り易い症例として挙げられているのは、これまで一度もとんぼ返りができたことがないという

患者さんが、診察室でとんぼ返りをすることが挙げられている。

つまり、人格構造に柔軟性がなく固まっていた患者さんの、身体を含む人格構造が緩み、

主体的に構造が再構成した結果、身体を含む人格構造が柔軟に再構成され、

これまで出来なかったとんぼ返りができたのだろう。

柔軟性が増した分、患者さんが無理をすることが減り治療も進展し、様々な脆さや、

不器用さや、症状が減少するのだろう。

治療者が外側から何かをさせることより、あくまで受け身の姿勢を保つことの必要性が

判り易く書かれている。

そのようなことは、人格構造が未成立だったり、硬直していたり、曖昧である発達障害の人の治療には、

大きく役に立ちそうである。

知識と経験とセンスがあり、熟練した臨床家が言うには、この本を読んで解らないという人には

臨床の仕事は、向いていないとの事である。

近年、統合失調症になる患者さんが減少しているのも、社会の価値観が多様化して、

自分に合わない「こうあるべき」というものに、無理をして合わせようとするする人が減り、

それまでの人格構造が破綻する人が減少したことが大きいのだろう。

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