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技術革新と不平等の1000年史(ダロン・アセモグル、サイモン・ジョンソン):MITの碩学が常識を覆す

2024-05-01 02:25:20 | マクロ経済

 MIT Sloanの教授2人の共作、知らないと思ったら当方より10歳は若い。Sloan留学当時はいなかった訳だ。素晴らしい著作になっている。

 技術発展が搾取につながった不平等な事例など、技術と社会構造、政策の関連からの新しい観点を提示している。知見は:

・過去千年の新発明は繁栄の共有をもたらさなかった、特に中世と産業革命後のイギリス

・250年前のイギリスと現在はイノヴェーションとエリート主義が似ている

・本書の3つの観点

①生産性向上と賃金上昇の時期は何によってきまるか

②よりよい未来へのテクノロジーの方向性は

③AIへの熱狂と気がかりな別の方向への進展

 

・生産性バンドワゴン:生産性が高まると、更なる生産増強により多くの労働者が必要、賃金が上がる はずだがそうでもない事例もある

・労働者の需要増大と賃金上昇の阻害要因

①雇用者と被雇用者の間の強制的な関係:強制労働

②地域への縛り付けと競争の欠如

③賃金は交渉により決定、市場の力だけではない、レント・シェアリング

・スエズ運河の成功体験がパナマ運河の悲劇を生んだ

・説得する力:支配力、自己強化の力学(悪循環)

・中世は宗教が金食い虫、大聖堂ブーム、修道院の運営と土地支配、社会的な配分が不均衡:エリートが搾取、農民が貧しい

・マルサスの罠:貧者は無能、エリート保護、人口抑制(指数関数)は生産(等差数列)が追い付かない(誤謬だった)

・農業:狩猟の倍は働き、身長は低く、寿命は短かった、格差・階級を生んだ

・テクノロジーの哀しみの収穫:アメリカの黒人奴隷、ポリシェヴィキ・ロシアの飢えと恐怖支配(強制収容所)

・1700年半ばに中間層(Middling Sort:著作  https://uppsala.academia.edu/MargaretHunt/CurriculumVitae )の立身出世がプロジェクトの時代と社会・制度変化につながる、次に来るアメリカの発展も

・イギリスは1750年頃(産業革命)から労働の搾取により長時間労働と時間当たり賃金の低下が発生した:週65時間労働

・ラッダイトの機械破壊は工業化による労働者の生活破壊が原因

・生産高の向上に比して、賃金の増加が低い「所得の分配」問題は労働組合の未組織もあった

・アメリカ的生産システムの優位性がイギリスの産業生産性と労働者の交渉権を改革に影響した→Chartism(人民憲章運動 https://en.wikipedia.org/wiki/Chartism )

・フォードの生産システムは労働者をくたくたに、賃金を上げるで解決「生産力は購買力を創出する」

・北欧SAPはレント・シェアリング(超過利益の共有)として公平な分配を規定、協調的組合主義的モデルで成功と成長、富の偏在を修正する

・アメリカ戦後、テクノロジーが同じだったため成長と格差縮小(1960年の「大圧縮」)、テクノロジーによる雇用排除があったが代替の雇用創出があり、スキル習得と賃金上昇につながった(雇用と賃金の好循環)

・第二次オイルショック以降、成長鈍化、教育格差、人種格差が発生、労働分配率も67~70%だったのが、2019年には60%を割る(オートメーションによるレント・シェアリングの崩壊)、さらに労働組合が衰退(一部の組織のマフィアとの絆もあり自滅)、テクノロジーに労働者の発言権がない

・オフショアリングによる生産移転も雇用を減らし、賃金低下に、失業は「絶望死」となり大卒ではないコミュニティ崩壊

・フリードマン・ドクトリン「企業の社会的責任は利益を増やすこと」、ビジネス・ラウンドテーブルは金儲けのあらゆる試みを正当化(エンロン事件になる)と労使で分け合う「厚生資本主義」ではなく、企業は株主への責任

・1970年代から経営のプロ化、CEOのMBA率も80年25%、2020年43%

・GAFAMでトップ企業の市場支配

・産業レベルから企業レベルの労働組合にアメリカでは1947年タフト=ハトレー法、ワグナー法、1980年は20%の組織率が2021年には10%

・規制や誘導などの信号機を取り去ってみると「裸の道路」、テクノロジーが邪魔になっているケースもある

・人間の知能は社会的

①情報はコミュニティにある

②推論は社会的コミュニケーションに基づく

③他者への共感と共有がある

・テクノロジーによる労働管理・監視は「レント・シフティング行為」、労働者の生産性低下と賃金低下を引き起こす、一定勤務がなくなり需要のAIの都合で働かされる「ゼロ時間契約(基本時間がない)」と会社からのスケジュール変更

・AIベースでは作業の自動化と人間監視になり経営者と労働者の二層構造となるディストピア

・中国などのAI活用の監視と情報規制

・Googleは関連性のあるウエブサイトの優先順付け(再帰)と広告収入・広告送り付けの関連

・フェイスブック(「素早く動き、(今までの慣習を)破壊せよ」)のAIでのカスタム・オーディエンスは興味のまとめ、「いいね!」は心理的悪影響、情報を取りに行くAIも問題

 

デジタル技術の補完

①労働者の現在の仕事の生産性を高める

②AIによって新たなタスクを作る

③人間の意思決定により有用な情報を提供する

④異なるスキルとニーズを持つ人々を結ぶプラットフォームを新たに構築

・対抗手段としては、労働組合、市民行動(コミュニティとフォリーライダーの参加)

・テクノロジーの方向転換には、補助金、大手テクノロジー会社の解体、設備・ソフトウエアの低率税(5%、同じタスクで労働者は25%以上)の見直し、労働者への訓練投資、政府のリーダーシップ(社会への恩恵で評価)、プライバシーの保護とデータ活用の承認、通信品位法230条の撤廃:ユーザー発言についてプロバイダーの責任、デジタル広告税

・その他の政策として、富裕税、再分配とセーフティ・ネットの整備、教育、最低賃金(州の格差是正)、学術界の改革(御用学者の追放と基礎研究への出資)

 テクノロジーが必ずしも賃金を増やさない、政策・制度による搾取、今後のAIによる監視の危険性、富裕と労働者内部の格差など幅広い観点で俯瞰している。コミュニティの教え、共感し、共有するとうのは重要だ。

 誠に分かりやすく、示唆に富む


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