tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

奈良の観光は「安い、浅い、狭い」って?/観光地奈良の勝ち残り戦略(138)

2024年05月19日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
奈良の観光について、〈「安い・浅い・狭い」脱却を 県観光戦略会議 初会合〉(毎日新聞奈良版 2024.5.16 付)という記事が各紙に出ていた。「安、近、短」は聞いたことがあるが、46年も奈良県に住んでいて、「安い、浅い、狭い」と聞いたのは初めてだ。
※トップ写真は、興福寺境内の桜(2024.3.31 撮影)

「どうもしっくり来ないな」と思っていると、「TBS NEWS DIG」というサイトに、〈『奈良の観光は、安い・浅い・狭い』マイナス面を三拍子で…こんな結論は誰が作った?奈良県観光戦略本部に聞くと〉という記事が出ていた(5/18付)。全文を引用すると、

以前から、“宿泊客が少ない”などの課題が挙げられている奈良県は、観光戦略本部を立ち上げて、15日に初会合を行った。そこで委員らに示された資料には、奈良観光のマイナス面をはっきり示す衝撃的なキーワードが並んでいる。結論『現在の奈良の観光は 安い 浅い 狭い』これはどういうことで、誰が作成したのか。資料を読みとき、県の担当者に話を聞いた。

◆安い=観光消費額が少ない
奈良県を訪れる観光客は、一定数いる。コロナ前の2019年は全国19位(4500万人)、インバウンド客に至っては2位大阪、4位京都に続く全国トップクラスの5位(350万人)。それにもかかわらず、1人あたりの観光消費額5308円は、全国平均の9931円に大きな開きがある。

日帰り客の消費額、6年間平均を見ると、飲食費は1344円。土産代は1156円。入場料は369円。飲食費はランチ代+飲み物程度か。こうしたデータから圧倒的に「奈良観光は安い」ことがわかる。入場料の平均369円といったところから、県は体験やアクティビティなどの消費額はほとんどない、と分析している。

◆浅い=滞在時間が短い
奈良県で宿泊する客は非常に少ない、これは昔から課題に挙げられている。過去9年はほぼ46位、最高は44位で、最低は47位だ。外国人訪問者数が全国5位に達した2019年も、外国人宿泊者となると全国24位に沈んでいる。奈良を訪れた観光客の94%は日帰りを選ぶ。宿泊者の割合は6%、これは和歌山県の半分の値だという。

◆狭い=奈良公園周辺ばかり
人流は、年間通じて奈良公園エリアに集中。桜シーズンの吉野には人流のピークがあるものの、飛鳥、橿原、平城宮跡などほかの地域にピークはほぼない。

インバウンド客に限ると、なんと85%が奈良公園周辺だ。県は誘客イベントをするにしても、奈良公園周辺以外には、飲食店や宿泊先の受け皿環境がないとした。また、観光客が来訪するのを待つ「大仏商法」の側面が否定できないとした。

◆結論を三拍子にしたのは奈良県自身だった
こうしたデータを基に、「現在の奈良の観光は 安い 浅い 狭い」の三拍子で結論づけられた。これを作ったのは、奈良県自身だった。県の担当者によると、原案は観光戦略課が作成し、その後上司に上がるなど、県として資料をまとめ上げていく中で、結論部分は『端的にまとまった、わかりやすい言葉が必要』という意見が出たという。

その結果、奈良県自らが『安い、浅い、狭い』の三拍子を打ちだした。『浅い』は『滞在時間が短く、深い魅力を知ってもらえていない』の意。ある意味自虐的にも聞こえるが、その心は、課題を明らかにしてテコ入れし、変えていこうとする姿勢のあらわれだという。

山下真知事「素材は良い、ポテンシャルはある」
初会合を終えた山下真知事は、奈良県について「素材は良い、ポテンシャルはある」と話した。観光戦略本部は、2030年度の数値目標を、宿泊者数500万人(273万人)、一人当たり観光消費額は6000円(4569円)などと定めて、これまでのように県全体を対象にしたプランニングではなく、各地の状況にあわせて、小さいところからはじめるという。

奈良の観光は「高い、深い、広い」に変わることはできるだろうか。戦略本部は、各地で観光地としての「磨き上げ」などが必要だとしている。


なーんだ。観光消費額が少ない、滞在時間が短い、奈良公園周辺に集中、ということなら「少額、短時間、集中」とすれば良かったのではないか。もっと短くするなら「少、短、狭」か。これは要するに、以前から言われている1つの事象(観光客が奈良公園周辺に集中する)を3つにバラして言っているだけなのだ。

「大仏商法」を悪口のように使っているのも、気になる。これはもともと「東大寺の大仏という優れたコンテンツを持つ奈良には、自然と多くの参拝客・観光客が集まる」という羨望の言葉だった。

それが次第に「大仏があることにあぐらをかいて、観光振興の努力を怠った」という悪い意味に使われるようになった。そもそも他府県民は「大仏商法」という言葉をよく知らないから、この悪い意味での「大仏商法」は、県民の自虐の言葉だろう。

「少額、短時間、集中」なら、ずいぶん以前から続いてきた現象である。これにどのようなメスが入るのか、県観光戦略会議の今後の動向に、大いに期待している。
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観光事業者さん、「インバウンドに優しいおもてなし認定証」制度を利用されては?/観光地奈良の勝ち残り戦略(137)

2023年08月31日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
一般社団法人インバウンド全国推進協議会(大分市 会長 二宮謙児氏)は2023年3月から、「インバウンドに優しいおもてなし認定証」の申請受付および認定を開始した(同協議会は、インバウンド推進協議会OITAから名称変更)。さらに同年7月、訪日外国人向けメディアを運営する株式会社MATCHA(東京都中央区 代表取締役社長 青木優氏)と包括連携協定を締結した。
※トップ写真は、観光経済新聞(2023.8.23付)から拝借

1.インバウンドに優しいおもてなし認定証(同協議会のHPより)
海外を訪れるとき、最も大切なことは『安心』です。旅行者からみてひと目で安心を担保できるとすれば、それは何より大きな魅力となります。インバウンド推進協議会OITAは、インバウンドの受入体制として重要なサービスにおいて、様々な認定基準をクリアする事により獲得できる「インバウンドに優しいおもてなし認定証」の交付を開始しました。

海外から訪れる観光客にとって「インバウンドに優しいおもてなし認定証」をもつ観光施設は、意識の高い安心したサービスを受けられる証しとなるため、大いに活用いただけるよう願っています。

インバウンドの受入体制として重要な「多言語」、「案内」、「飲食」、「健康・安全」、「意識向上」、「設備」の6つの分野で、認定基準合計20条のうち、業務上該当する項目において70%以上を満たす場合は認定されます。是非この認定を通して、インバウンド対策の現状認識と更なる改善に取り組みましょう。

認定された事業者の方へは「認定証」及び「HAND BOOK」を交付します。「認定証」はインバウンド観光客にサービスの付加価値や細心の心配りがより伝わりやすいツールとしてご活用いただき、また、上記6つの分野における具体的な改善例やすぐに使えるアプリ等をたくさん紹介する「HANDBOOK」は常にお手元に置いて、現場対応に役立てられることをお勧めします。

認定料は1事業者あたり5,000円(認定証はB5サイズ、フレーム付き、ハンドブックはA4サイズ全14P)。当協議会会員の場合は税込3,000円となります。ご希望の方はこの機会に是非認定申請されることをお勧めします。認定証の詳細及び申請フォームはこちらへ 。

2.MATCHAとの包括連携協定(観光経済新聞より)
訪日外国人向けメディア「MATCHA」を運営する株式会社MATCHA(本社:東京都中央区、代表取締役社長:青木優)と、「インバウンドに優しいおもてなし認定証」制度を全国展開する一般社団法人インバウンド全国推進協議会(大分県、会長:二宮謙児)は、訪日外国人旅行者の受入体制と情報発信の強化を全国的に連携して取り組むための「包括連携協定」を締結しました。

訪日・在日外国人向けメディアを運営する株式会社MATCHAは、令和4年9月より、MATCHAに多言語で記事やスポットを無制限で投稿できる「MATCHA Contents Manager(MCM)」を自治体や観光事業者向けに全国展開し、地域の多言語情報発信を支援しています。

大分県を本拠地とする一般社団法人インバウンド全国推進協議会(旧:インバウンド推進協議会OITA)は、令和5年3月より訪日外国人客の受入体制の成熟度を測る「インバウンドに優しいおもてなし認定証」の申請受付を始めました。その後、大分県内のみならず、他県からも申請者が現れたため、組織と名称変更を行い本格的な全国展開を目指しています。

今回、両者の強みである「受入体制の強化」と「多言語情報発信」を相乗効果的に促進することを主たる目的として、インバウンドに関する包括連携協定を締結することになりました。具体的には、協議会が認定した施設を「MATCHA」で紹介し、外国人客の誘致促進を図ります。また、併せて、認定施設にはMATCHAの自動多言語化投稿システム「MCM」を無料で提供し、利用者数の拡大を図ります。


これはよく考えられたスキームだ。インバウンドに長じた事業者が認定を受け、しかもその事業者の情報が多言語に自動翻訳され、世界に発信される。外国人観光客は、安心してその事業者のサービスを受けられるのだ。

二宮謙児氏は大分県由布市の温泉旅館「山城屋」のご主人で、当ブログでも紹介させていただいたことがあるし、2019年に開催された南都銀行主催の「第12回観光力創造塾」の講師も務めていただいた。

一昨日(8/29)、当ブログで「インバウンド再燃!適正価格で高付加価値サービスの提供を」という話を紹介した。奈良県内の観光事業者さん、この円安で予想される外国人観光客の増加に合わせて、このようなスキームを利用されてはいかがですか?



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インバウンド再燃!適正価格で高付加価値サービスの提供を/観光地奈良の勝ち残り戦略(136)

2023年08月29日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
今回も、NPO 法人「スマート観光推進機構」理事長の星乃勝さんからいただいた情報を紹介する。観光経済新聞(2023.8.15付)「VOICE」欄に掲載された「観光は物見遊山かーコロナを経て思うこと」で、執筆者はJR東日本企画常勤監査役・日本観光振興協会顧問 の久保田穣氏である。星乃さんは、

日本は「気候」「自然」「文化・歴史」「食」に恵まれた国だ。これらの資源を活かし、日本の観光はGDPの5%を占め、「訪日外国人旅行消費額」は自動車産業、化学産業に次ぐ第3位の輸出産業となった。しかし日本の観光は、国内旅行をターゲットとしてきたため、団体旅行などマス経済から脱却できていない。ドル高、ユーロ高を背景とする中、インバウンドが欲する観光の姿が多様化しているので、高付加価値、高単価を目指さなければならない。

とコメントされている。奈良県のGDPに占める観光業の割合は5%までは行かないだろうが(観光消費単価が低いため)、新しい宿泊施設が続々と誕生している今、高価格で高付加価値の観光サービスの提供が求められている。では、久保田氏の記事全文を紹介する。

価格見直しの最良のチャンス
観光資源は「気候」「自然」「文化(歴史)」「食」の4要素からなるといわれています。これらは、日本に、各地に固有(天賦)であったり、先人たちが守り育ててきたもので、観光産業側からは利用対象であるとともにビジネスの元手でもあり、産業全体でとらえれば「資本」(無形もありますが)と位置付けることもできます。

故宇沢弘文教授は「ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を安定的に維持する」社会的装置を「社会的共通資本」としましたが、観光資源はまさにそのようなものだと思います。

実際、4つの観光資源を元手にインバウンドを誘致し、効率的経営で地域を豊かにすることによって、日本の観光はGDPの約5%を占めるに至り、外国人が日本のサービスを購入するので経済的には輸出と同列で、「訪日外国人の観光消費」は「自動車産業」「化学産業」に次いで第3位の輸出産業となって日本経済の一翼を担ってきました。昨今の円安下では、さらにその重要性は高まっています。

コロナ禍を経て、借入金の増大によるバランスシートの悪化、人手不足による収益機会の逸失、エネルギーコストをはじめとする原価高騰などにより、引き続き厳しい経営を強いられている中、売価の適正化(値上げ)に取り組んでおられる企業も多いと思います。現下においては、売価の適正化(値上げ)は喫緊のテーマだと思います。

これまで、観光分野に限らず価格競争、薄利多売、非正規労働者によるコスト削減等によって経営を維持してきたわけですが、観光の政策目標である高付加価値化の方向に照準を合わせる意味でも、高価格化は必然でしょう。

特に、昨今の円安下では円ベースで50%値上げしてもドルベースでみればコロナ前と大差なく、逆に値上げしないならば円安による利益を海外に流出させる結果になるわけです。今こそが、価格見直し(値上げ)の最良のチャンスでしょう。

日本は世界に十分通用する観光資源を備えているので、中長期的なインバウンド需要は十分確保できると思います。そのうえで、観光産業の経営の安定(高付加価値なサービスと価格、良い雇用環境、適正な利益と納税、健全な財務状況で必要な再投資など)を図り、その経済効果を、観光の「資本」である観光資源(社会的共通資本)の維持・整備、投資による拡充・魅力アップに反映させていく、といった国内側の大きな経済循環を確実にしていくことこそが持続可能な観光振興ではないでしょうか。
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「御墳印」で、奈良の古墳をPRしよう!/観光地奈良の勝ち残り戦略(135)

2023年08月27日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
NPO 法人「スマート観光推進機構」理事長の星乃勝さんから、こんな情報をいただいた。「御朱印」や「御城印(ごじょういん)」は聞いたことがあるが、最近は「御墳印(ごふんいん)」なるものも登場したそうだ。星乃さんは、
※トップ写真は、河合町が発行する「御墳印」

私が「御墳印帖」を見たのは、埼玉県行田市のブラタモリ(2023年7月15日)だった。今や〇〇印帳がブームだが、古墳を巡る「御墳印帖」のブームもじわりと始まっているようだ。全国の古墳が連携すれば大きな可能性に繋がる。著名な古墳は行ったことがあっても、著名ではない古墳は訪れる人も少ない。これをきっかけに大きなブームになって欲しいものだ。

奈良県内では河合町が2021年6月に4種類の「御墳印」と、地域の古墳を表紙にデザインした「御墳印帖」を製作、現在は御墳印を20種類まで増やしたそうだ。また上牧町、王寺町、広陵町にも呼びかけ、今年4月からは3町でも独自の御墳印を発行しているという。これについては、産経新聞(8/23付)が詳しく報じている。記事全文を紹介すると、

古墳めぐりで「御墳印」ブームじわり 郷土愛も育み全国へ波及
寺社を巡り授かる「御朱印」ならぬ、古墳を訪れて集める「御墳印」が広がりを見せている。名古屋市内の古墳紹介施設が令和2年に始めた取り組みだが、人気ぶりを受け、独自の御墳印を発行する自治体も出てきた。新たな観光誘客とともに、地域住民らに地元の歴史遺産を再認識してもらうことで、郷土愛の育成にもつなげたい考えだ。

御墳印を初めて発行したのは、名古屋市の「体感!しだみ古墳群ミュージアム」。令和2年9月、「尾張三大古墳」と呼ばれる白鳥塚(名古屋市守山区)と断夫山(だんぷさん)(同市熱田区)、青塚(愛知県犬山市)の各古墳の管理者と協力し、それぞれの古墳の御墳印を出した。松井致也子館長らが、御朱印と並び全国の城好きたちの間でブームになっていた「御城印」をヒントに、思いついた。

屋外で楽しめる古墳巡り
はがきサイズで、古墳名ともに各古墳の形状や出土品などをイメージした印をプリントし、ミュージアムと各古墳近くで1枚300円で販売。松井館長は「新型コロナウイルス禍で観光客が減る中で、古墳巡りは屋外で楽しめるため、たちまち評判になりました」と振り返る。

これに着目したのが、奈良県河合町だ。町内には4~6世紀の古墳が約60基点在し、有力豪族が被葬者とみられる大塚山やナガレ山など全長100メートル以上の古墳も8基ある。

3年6月に第1弾として4種類の御墳印と、地域の古墳を表紙にデザインした御墳印帖を製作。町内の書家や篆刻(てんこく)家も協力し、現在は御墳印を20種類まで増やした。対象となる町内の古墳を訪れて写真に撮影し、画像を町中央公民館で提示すると1枚100円で交付される。



「御墳印」の収集で古墳を巡る親子=奈良県河合町のナガレ山古墳

町の担当者は「見過ごされがちな歴史遺産を地域の人に再認識してもらい、郷土愛を育む目的もある」と説明。同町山坊(やまのぼう)の主婦、服部和揮子さん(46)も「御墳印の収集が趣味となり、小学生の子供2人と町内の古墳巡りを楽しんでいます。町の成り立ちに思いをはせるきっかけにもなった」と笑顔を見せる。

岡山や埼玉でも
河合町は、同じ北葛城郡内の上牧、王寺、広陵の各町に呼びかけ、今年4月からは3町でも独自の御墳印を発行。御墳印に関連する郡内の古墳や史跡を紹介する共通の「ほっかつ(北葛)御墳印帖マップ」も作製した。さらに各町のイメージキャラクターを表紙にあしらったオリジナルの御墳印帖も発行し、王寺町の担当者は「周辺エリアが協力して御墳印の普及を盛り上げていきたい」と意気込む。

一方、岡山県では「桃太郎伝説」ゆかりの岡山、倉敷、総社、赤磐の4市でつくる協議会が、全長350メートルで全国4位の規模を誇る造山(つくりやま)古墳(岡山市)や、墳丘の円状列石が有名な楯築(たてつき)遺跡(倉敷市)など県内7古墳(遺跡)にちなんだ御墳印を作り、各古墳に近い5施設で無料で押せるようにした。埼玉県では6月から行田市を中心に県内7市町で22種類の御墳印を1枚300円で販売している。

松井館長は「愛知から広がった取り組みが全国に普及するのは大歓迎。今後は各地で連携して古墳の周遊観光の拡大につながれば」と期待を寄せた。(西家尚彦)
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ポストコロナの観光は奈良・和歌山・三重の「広域周遊観光」! by 秋山利隆さん(南都経済研究所 主任研究員)/観光地奈良の勝ち残り戦略(134)

2022年08月17日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
久々の「観光地奈良の勝ち残り戦略」である。一般財団法人「南都経済研究所」の『ナント経済月報』(2022年8月号)に、主任研究員・秋山利隆さんの「奈良県の広域周遊観光促進に向けた提言」が掲載されていた。
※トップ写真は熊野古道・大門坂。写真はすべて私が撮影した

これは副題に「計量テキスト分析を活用したアプローチ」とあるとおり、秋山さんお得意の緻密なデータ分析に裏付けされた県観光振興のための貴重な提言である。全文は、こちら(PDF)に掲載されている。10ページにもわたる提言書を安易に要約して紹介することは避けたいが、私の感想を交えてざっくり言い換えると、以下のようなこととなろう。


十津川村・果無(はてなし)集落

これまで奈良市など県北部エリアは「近すぎて泊まってくれない」「お土産を買ってくれない(観光消費単価が低い)」、県南部は「遠いので観光客が来てくれない」と嘆いていた。北部は大阪や京都に近いので、「大阪・京都に泊まり、奈良は日帰りする」という人が多いのである。日帰りだから、お土産もあまり買ってくれない。そこで秋山さんが提案するのは、「奈良県中南部と和歌山県・三重県との周遊観光の促進」だ。秋山さんによると、

(P18)県中南部地域および隣接する和歌山県、三重県は奈良市とは異なる観光資源にあふれており、観光のバリエーションは広がる。さらに和歌山県、三重県を含む広域周遊観光は、奈良県の地方創生・地域活性化という面でも、奈良市周辺部の観光に比べて宿泊を伴う可能性が高い分、経済効果が大きい。


十津川村・玉置山からの眺望

世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」(2004年7月登録)を考えてみよう。「吉野・大峯」、「熊野三山」、「高野山」という3つの「霊場」とそれらを結ぶ「参詣道」が世界遺産登録されたものだ。この世界遺産登録は、和歌山県や三重県の入込客数増加に大きく貢献しているが、残念ながら奈良県では、目に見えた効果は上がっていない。

私(鉄田)は以前、奈良市→京奈和自動車道・紀北かつらぎIC→高野山→野迫川村(泊)→龍神温泉(田辺市龍神村)、というルートをマイカーで往復したことがあるが、北部に住む奈良県民は、あまりこのようなルートを思いつかないようだ。田辺市まで来れば、そこから熊野三山をめざすという手もあるし、ここには日本最古級の温泉・湯の峰温泉もある。熊野からは伊勢神宮を経由して奈良に戻るのも良い。秋山さんによれば、


おはらい町(伊勢内宮周辺)

(P25)交通アクセスに関する情報発信
広域周遊観光の交通手段は主に自家用車やレンタカーであるが、遠方からの観光客にとって紀伊半島の山道運転への心理的抵抗は大きい。実際はこの3県を周遊する主要道路はほとんどが片側1車線以上に整備されており、冬場を除き運転には支障がない。その点を広くPRすることが、旅行先として選ばれる意外な要素になるかもしれない。


参詣道周辺エリアにおける民間企業の取り組みとして、秋山さんが注目するのは町宿「SEN.RETREAT」を展開する株式会社日本ユニスト(大阪市)のプロジェクトだ。

(同)自治体の垣根を越えた取組み
民間企業の取組みとしては、株式会社日本ユニスト(大阪市)が熊野古道の参詣道「中辺路」沿いに地方創生を理念とした町宿「SEN.RETREAT」をつくるプロジェクトが興味深い。中辺路は巡礼に4~5日間を要する長距離ルートで、宿泊施設の不足が課題となっていたが、同ブランドの宿が道中に4か所できることで、巡礼者の利便性は改善される。宿はすべて和歌山県内であるが、熊野古道(熊野参詣道)沿いを意識したもので和歌山県に限定した取組みではない。

また、同社の取組みで特筆すべきは地方創生へのこだわりであろう。地元食材の提供や地域雇用の推進は、過疎地域で事業を継続していく上で重要な要素で、地域の観光拠点としての役割が期待される。民間企業のこのような取組みが、広域周遊観光促進の起爆剤になると思われる。


全10ページの論文は、秋山さんのこんな言葉で締めくくられている。

広域周遊観光はポストコロナの観光のキーワードの一つで、奈良県観光の質を高める重要なコンテンツである。本稿がこれまでの観光振興に一石を投じる提言になれば幸甚である。

国も自治体も民間も、奈良県を北から眺めているから、なかなかこのような発想が出てこない。野迫川村は田辺市と境を接している。十津川村は新宮市と、下北山村は熊野市と、上北山村は尾鷲市とそれぞれ境を接している。県境を越えた柔軟な発想で、質の高い観光プランを考えよう!

(追記1.)8/17この記事をアップしたあと、どうも「(図表3)奈良県来訪者の発地割合(2019年)」(P18)の数字が気になった。これは奈良県内で1泊以上宿泊した観光客がどこから来たかを調べたものである(2019年 奈良県観光客動態調査)。そこには〈発地割合は、関東(36%)、中部(25%)、近畿(15%)の順で、関東からが最も多い〉とある。



私は来月(2022年9月)東京圏の奈良ファン向けに、東京・新橋の「奈良まほろば館」で、「吉野山の謎」と「お伊勢参りと熊野詣」という各90分の講演をする予定であるが(東京都民の発地割合は16%と全国で最高だ)、気になったのは奈良県民の発地割合がわずか「1%」だったことだ。

県は過去に、十津川村に宿泊すれば路線バス運賃が半額になるというキャンペーンをしたことがあるし、今も「いまなら。キャンペーン2022プラス」(旅行商品の50%割引)を展開中だが、これはもっと県民にアピールして、県民には率先して県南部に泊まってもらわないといけない。

(追記2.)8/18「追記1.」をお読みになった読者から、こんなコメントをいただいた〈最後の追記の部分ですが、2019年に比べていまは県内の方が県内宿泊をして、リピーターも増えている話をよく伺っています。コロナ禍前と後ではまた県内の方の状況も変わってきてるかもしれないですね。いまならが県民の県内再発見に及ぼしたデータが出るのはまだ先かもしれませんが、リアルに実感するので、気になります〉。「いまなら。」の好影響が出ているのならそれは嬉しいことではあるが、一過性のもので終わらないことを祈りたい。
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