「『ダミアン神父』をハシゴ(前編)」のつづき。
練馬区立美術館に出かけるのは、こちらで書いた「野口哲哉展―野口哲哉の武者分類図鑑―」のとき以来ですから、約1年半ぶりだったのですが、美術館周辺の雰囲気が前回とはずいぶん違います
その辺りの事情の追究は後回しにしまして、まずは「舟越保武彫刻展 まなざしの向こうに」
を観ねば
と、美術館の入り口に着きますと、館内に異様な人だかりが
いったい何事か と思ったら、小池ちとせさん(Pf)と河野めぐみさん(メゾソプラノ)による記念コンサート
の真っ最中でした。
私は、記念コンサートはほったらかして(何しろ心の準備がまったくできていなかった)、「舟越保武彫刻展 まなざしの向こうに」
を見始めたのですが、すべての展示室にピアノの音と歌声が響き渡り、常識外れの美術鑑賞になってしまいました。
幸か不幸か、2ヶ月弱の会期のうちでたった1日、それも1時間だけのイベントにぶち当たってしまうとは・・・
ところで、舟越保武さん、練馬区立美術館の開館30周年記念と銘打って展覧会が開催されているわけですが、
舟越保武は1912年(大正元)に岩手県に生まれ、盛岡中学時代にロダンに憧れて彫刻家を志しました。大理石や砂岩などの石による清楚な女性像で知られる舟越がはじめて石彫に取り組んだのは練馬に在住していた1940年(昭和15)のことであり、舟越は練馬ゆかりの作家でもあります。
だそうです。
なるほどねぇ~
「なるほどねぇ~」といえば、会場内に兵庫県立美術館(一度行きましたなぁ
)で開催中の「舟越桂 私の中のスフィンクス」展のフライヤー
が置かれていて、あれっ
と思いました。
舟越桂さんはもともと私にとって気になる彫刻家だったんですが、この「舟越保武彫刻展 まなざしの向こうに」を通じて、舟越桂さんが、舟越保武さんの次男でいらっしゃったことを思い出しました
(2011年10月30日放送のNHK日曜美術館「やさしさ、静けさ、そして強さ ~彫刻家・舟越保武の世界~」には桂さんも登場されていました)
同じ彫刻家でも、保武さんと桂さんとでは作風がまるで違うんですよねぇ・・・
それはともかく、私はこれまであちこちで舟越保武さんの作品を拝見してきました。
「前編」に載せた埼玉県立近代美術館の「ダミアン神父」、幼少のみぎりに父が運転するクルマで何度も田沢湖に出かけて観たたつこ像、初めて「舟越保武」の名前を知った宮城県美術館の「原の城」、
そして、長崎市西坂公園の「長崎26殉教者記念像」。
ブロンズの作品は、複製ができますから、あちこちで観ることができるものですが、舟越保武さんの真骨頂ともいえる石彫は、オリジナルが1点しかありません。
まさしく、舟越さんの石彫作品を観たくて、私は「舟越保武彫刻展 まなざしの向こうに」に出かけたわけでありますよ。
そして、もっとも拝見したかった作品にお目にかかれました
「聖ベロニカ」(1986年 砂岩>)です。
エルサレムの敬虔な女性ベロニカは、十字架を背負ってゴルゴタの丘へと歩くイエスを憐れみ、その場の物々しく緊張した空気のなか勇気を出して進み出て、イエスに額の汗を拭くよう身につけていたベールを差し出す。イエスが申し出を受けて汗を拭ってベールを返すと、そこにイエスの顔が浮かび上がっていたと伝えられる。
というベロニカの像は、NHK日曜美術館「やさしさ、静けさ、そして強さ ~彫刻家・舟越保武の世界~」で見て、是非とも実際に拝見したいと思い続けていた作品
そして、初めて拝見した「聖ベロニカ」は、期待に背かない、いや、期待を遙かに上回るステキな作品
でした
会場内に鳴り響くピアノと歌声が、この作品を観ている間だけはなりをひそめていたような気持ちになるほど、引き込まれました
大理石がキラキラと輝く「夢の女」も良かったのですが、やはり「聖ベロニカ」がお持ち帰りしたい作品No.1でした。
また、他の彫刻作品の素晴らしさはもちろんでしたけれど、舟越さんのデッサンがまた見事
でした。デッサン
が彫刻作品の制作過程の一部であったことが感じ取れましたです。
というわけで、非常にステキな鑑賞となった「舟越保武彫刻展 まなざしの向こうに」
でありましたが、つくづく「記念コンサート
」と被さってしまったことが惜しまれます
観客の靴音と、ひそひそ声だけが聞こえてくるような環境(普通の展覧会の環境)で鑑賞したら、また違った印象が残ったかもしれません。
また、もうひとつ難を挙げれば、図録の写真
がイマイチ
です
絵画作品と異なり、彫刻は写真に撮る角度でずいぶん違って見えるものですが、この図録の写真の多くは実際に観た印象と結構違います。
そんなことから、上に載せた「聖ベロニカ」の写真は図録をスキャンしたものではなく、岩手県立美術館のサイト
から拝借
した次第です。
こうして練馬区立美術館を出て駅に戻る前に、美術館周辺をちょいと探訪しました。
前回来たときにはなかったPOPな彫刻がたくさん設置されていたのですよ。
まず、美術館入り口に向かう階段の両脇に獅子・狛犬よろしく展示されていたトンボ。
左側(さしずめ吽形)は普通のトンボ(尋常ではなくデカい)なのですが、
右側(阿形?)は、、、、
「トンボ・マシーン」(頭部にはプロペラがついている)でした
今年4月、美術館の前の公園が「練馬区立美術の森緑地」としてリニューアルオープンしたのだそうです(リリース)。
「20種類・32体のファンタジーな彫刻群」が園内に佇んでおりました。
フライヤーを飾る緑地入り口の「クマ立像」は、横から観た方が魅力的
かも・・・
ところで、この緑地のある練馬区、その区名の由来は何なんでしょうか?
勝手に想像すれば、乗馬訓練を行ったか、馬の調教を行ったかとなるわけですが、練馬区のHPによれば、
「ねりま」という地名の由来には、
・関東ローム層の赤土をねったところを「ねり場」といった
・石神井川流域の低地の奥まったところに「沼」=「根沼」が多かった
・奈良時代、武蔵国に「のりぬま」という宿駅があった
・中世、豊島氏の家臣に馬術の名人がおり、馬を馴らすことを「ねる」といった
などの諸説があり、定説はありません。
だそうです。残念・・・
で、「練馬区立美術の森緑地」の「ウマ」(「ネリマーマ」だそうな)の彫刻はこちら
脚も胴体も頭も大根
大根といえば練馬、練馬といえば大根
ということなんでしょ。
練馬区のHPにも、練馬大根が大々的に取り上げられています
それにしても「ネリマーマ」のシュールさときたら、筆舌に尽くしがたい・・・