エリクソンの小部屋

エリクソンの著作の私訳を載せたいと思います。また、心理学やカウンセリングをベースに、社会や世相なども話題にします。

遊びの治癒力

2013-06-24 01:06:28 | エリクソンの発達臨床心理

 

 自分の過去を正面から捉えることが、見当識の意識的選択と表裏一体であることが分かりました。すなわち、自分の過去を振り返ることによって、はじめて人生の選択ができる、と言っても過言ではないのです。

 今日は、こどもの遊びの治癒力です。

 

 

 

 

 フロイトは、臨床では一度も子ども達と仕事をしたことはありませんが、日常生活では、子どもとの関わりをとても大事にしましたし、発達する過程によって、彼が「die strablende Intelligenz des Kindes」、すなわち、子どもの輝く知性と呼んだものから、何をもたらすかを、非常に悲しんで記している。そして、私どものように、子ども達の遊び(その遊びには、急性期の情緒的な葛藤で苦しんでいる子どもの患者のものも含まれていますが)を観察してきた者は、子ども達が、独創性と完成度を備えて、ものを見、話し、遊び、活動するのを見ると、心の根っこから湧き上がるような喜びを隠そうと思っても隠し切れないものです。その独創性と完全度は、後々の人生においては、創造的な瞬間にしか回復できないものなのです。そこで、私が認めるべきなのは、子ども達と仕事をすると、一種の創造的な信念を強めることがある、ということです。その信念とは、すなわち、子ども達の遊びの本質には、最も深い意味で治癒力がある、ということです

 

 

 

 

 子どもの遊びの治癒力を証明するには、笑いの治癒力の証明同様、学際的な研究が必要でしょう。しかし、子どもの遊びを臨床でしていると、「これはほんとだ」と思う瞬間に、繰り返し繰り返し出くわすことになるので、「子どもの遊びには、最も深い意味で、治癒力がある」という信念がそのたびに強まるのです。子どもにとってのみならず、臨床に関わる私どもにとっても、こんなに幸せな時はありません。

 

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子どもの頃のイメージと世界の見方を変えること 見当識を意識すること

2013-06-23 06:28:27 | エリクソンの発達臨床心理

 

 子どもの頃の問題を解決することが大事である、こういうと、「精神分析だな」と早わかりの人が出てくるかもしれませんね。

 しかしそれだけではないのです。つまり、これは見当識の問題でもあるのです。見当識とは、心にある時間と空間であると同時に、その時空の中で、自分をどう位置づけて、しかも、何を、命を懸けられる夢や目的として、どういう方向性を選択して生きていくか、という指針でもあるのです

 「過去」という時間が、振り返る「背後」という空間に置き換えて捉えられる文化もあるでしょう。日本もその範疇かもしれません。「目の前」にあると信じられている将来を占う占いは、大流行りなのが日本の文化の現状でしょう。しかし、私どもは日頃、時間を特定の空間に置き換えていることを意識していません。しかし、たとえば、古代ユダヤや古代ギリシャでは、過去は「目の前」のあり、未来が「背後」にあると考えられていました。古代ユダヤや古代ギリシャでは、「目の前」にある過去は大事にして、よく見ることが習慣にもなりました。見当識はもちろん文化の影響が大きいのですが、それでも、いったんそれを意識すれば、どういう見当識を持つかを選択できるのです。ですから、「過去」を「目の前」において、意識していくことが、見当識を選択する上で欠かせないのです。

 最近この見当識の好例が注目されました。それは冒険家の三浦雄一郎さんです。エベレスト登頂という命懸けの夢を、不退転の覚悟でハッキリ意識して、その夢の実現のためにあれだけ、厳しいトレーニングを日々行いながら、アクティヴに、しかも、あらゆる英知を駆使して、しかも、陽気に明るく行動して、夢を実現しましたね。そこにあるのは、夢というイメージであり、それをハッキリとさせる話し言葉であり、夢の実現を果たすための日々の習慣英知と、なによりも、気な明るさです。 

 

 

もちろん、生育歴をじっくり考えることには、世間で認められている理論的根拠があります。というのも、生育歴の最初の場面は、人類の進化の本質に本来備わっている、いつくかの理由から、人生のかなりの割合を占めるからです。しかも、歴史を通じて運命を決することが、同じ理由から、無視され、抑圧され、神話化されてきたからです。そこで、人が自分自身に対するピジョンの、生育歴上の源を研究したいと私どもが願う時に、私どもが意識しなくてはならないことは、子どもの頃のあらゆるイメージと、そのイメージを長年抑圧していることが、世界に対する見方を変える上で重要な場面ですし、これまでも重要な場面であり続けてきた、ということです。初めを調べるだけでは、なくした無邪気さを意識するビジョンと、対処すべき隠れた呪いを意識するビジョンとを隠してしまいます。しかも、無邪気さを失うことも、呪いが隠れていることも、いずれもある意味では避けられない運命なのですが。

 

 

 

 

 子どもの頃のイメージは、世界をどのように見るのか、その見方を変える上で重要なことだといいます。それは、見当識と関係していることは、冒頭で記したとおりです。エリクソンは、この議論をどのように展開していくでしょうか?

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過去は目の前に置くべきもの: 子どもの頃の課題と正面から向き合うこと

2013-06-22 04:25:53 | エリクソンの発達臨床心理

 「遊びの舞台」の章では、激しい怒りも、社会福祉・社会教育の仕事に生かせるケースがあったこと、積み木遊びに現れた子どもの心の時間と空間が、その子の社会の文化における時間と空間をも示すことを教えられましたね。

 今日からは「遊びの目的 (Play's End)」の章に入ります。

 

 

 

 

 私どもはいまや、精神分析を発表するのに特有な重要な時に近づきつつあります。喜びに満ちた想像力にある視覚的な面と展望を開く面の、生育歴上の始まりを大づかみにしようとする私の試みは、人生最初の段階をなかなか「離陸する」ことができません。それに、私はその後のいくつかの段階に、幅広く急ぎ足の筆遣いで近づきつつあります。私どもが初めに拘る、考えうる情緒的理由は、「ピーナッツ(チャーリー・ブラウンとスヌーピー)」の中でうまく表現されています。ルーシーは、医者ですが、「流行って」いて、ルーシーの診察はインフレになる以前から5セントでした。ちびちゃんのライナスは、自分は子どもの頃のいくつかの問題を解決しているところだと感じる、との主張に、セラピーをしていて出合いました。ルーシーは力強く認めてこういいました。「それはいいね、ライナス。だって、そうすれば、準備okだもの。10台の問題にも、青年の問題にも、結婚問題にも、中年の問題にも、衰える時期と老人の問題にもね」。一瞬、息を呑む瞬間と沈黙がありました。それから、ライナスは、振り返りたい願いと前を見なくてはならない必要性との板挟みを示す、謎のような表現で、こう言いました 「自分の子どもの頃の問題に立ち返ろう」と。

 

 

 

 

 過去は、「振り返る」ものと考えられがちです。しかし、医者になったルーシーが言うように、子どもの頃の問題群はその後の人生の様々な問題を解くカギになっているのですね。ですから、「自分の子どもの頃の問題に立ち返ろう」ということにもなるのでしょう。その意味では、過去は後ろにあるのではありません。過去は目の前に置くべきものなのです

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激しい怒りも、活かせば宝!

2013-06-21 03:55:32 | エリクソンの発達臨床心理

 

 子どもの頃の作った積み木遊びの音色と、大人になってからついた仕事の音色とが、響きあうことは実に驚くべきことです。“積み木遊びの不思議” とでも言いたいくらいです。

 また、暴力に関わりそうな10代の黒人グループの支援をしているこの人の言葉と心的態度は、今の日本で教育に関わる人すべてに参考になるのではないでしょうか。なぜなら、この人と同じくらいの激しい怒りを抱え込んでいる子ども(そして、大人)が非常に多いからです。また、課題を抱えた人を支援するためには、この男性のように、自分の心にある課題をまずは“よく”見つめて、それから、その課題と“よく”折り合いを付けなくてはなりません。こういうと、すぐには納得できない人、抵抗を感じる人がいるかもしれませんね。

 前回翻訳したところにも出てきたことですが、この激しい怒りが自分に向かえば、自己破壊的になるわけでしょう? そうすると、今の日本で1998年以降、自殺者が毎年3万人以上15年間も続いていることも、激しい怒りをいかに多くの人が抱え込んでいるかを示しています。よく考えていただきたいと思います。これは実弾が飛んでいるアフガニスタンでの米兵の死者数をはるかに超えているのです。日本とアフガニスタンとどちらが危険な「戦場」なのでしょうか?

 また、尼崎事件の角田美代子ほどではなくても、あるいは、直接人を殺すほどではなくても、どこぞの電力会社や「振り込め」詐欺のように、様々な「企業」活動などを隠れ蓑にして、悪いことを平気でやる人間が、少なくないのではないでしょうか?

 今日は「遊びの舞台」の最終回です。

 

 

 

 

 歴史的発展と新しい政治的ビジョンのおかげで、この男性は、笑って従うという、子どもの頃の解決策を乗り越えることができたのでした。すなわち、この男性は自分の怒りに気付いただけではなく、その怒りを社会的活動の中で活かせるようにもなったのでした。よくあることですが、彼の人生は、子どもの頃の観察に比べれば、予測を超えて守られた一つの約束の実例でしたし、彼の積み木遊びは、積み木遊びの生活史の中で、見覚えのあるひとつの場を得たのでした。

 

 

 

 

 これで、「遊びの舞台」は翻訳完了です。

 ところで、この「一つの約束」って、何なのでしょうか?これを理解するためには、このブログに以前翻訳した部分 <「新しい人」になれた! 子どもの笑顔  大江健三郎> を参照していただければと思います。

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ある黒人少年の積み木の音色 ⇔ 彼が大人になってからの仕事の音色

2013-06-20 00:43:04 | エリクソンの発達臨床心理

 

 エリクソンは難しいことを優しく教えてくれていると思いませんか?頭脳明晰な人が、難しいことを易しく教えてくれる典型だと私は常々考えています。その点でも似ているのが、加藤周一であり、井上ひさしです。

 今日のところでは、『子どものころと社会』(みすず版のタイトルは『幼児期と社会』)で取り上げた黒人の少年の積み木遊びと、彼が大人になってからの仕事について語られます。

 

 

 

 

 

 一つの事例を、読者の中には馴染みのある文脈から選んでみたいと思います。『子どもの頃と社会』で触れた黒人の少年を取り上げてみましょう。その子は「寝る前にときどき『ローン レンジャー』を聞くのが好きなんだ。でも気が付くと、急にその番組のスイッチを自分で切っちゃうんだ。だって、ローン レンジャーは僕自身(黒人)なんだもん(と間違って想像しました)」と告白しました。当時彼はニッコリ笑ってこう報告してくれました。それはまるで、彼が問題と上手に折り合えている感じでした。彼も、いつくか積み木遊びを私のために10台の初めにしてくれました。彼のブロックの積み木のうち2回は、特に独創的で、形もよくできていました。すべては、制服を着た人々と犬たちが見張っている、野生動物を入れた檻を表していたのです。「動物園」と彼はお話では言うだけでした。この抑制の効いた音色と形全体が、悲しいほど、彼の目立って「抑制的な」外観とピッタリしている感じでした。しかし、彼の遊びの質を見ると、彼がとても有能であることも分かりました。

 最近になって、それ以来30年以上たってから、私はこの男性を、彼が転居したとある街に訪ねることがありました。彼は自分自身、特別な名前を名乗っていましたが、それは、彼が最も困難な状況下で、破壊的(自己破壊的)活動に関わりそうな10代の黒人グループの味方になって、その相談に乗ることができる力があったからなのです。私は、彼が強い印象を与えるくらい知的で、力強い男性であることが見て分かりました。彼は私と逢ったことは覚えていましたが、私のために積み木遊びをしたことは、(よくあることですが)朧気にしか覚えていませんでした。また、彼は何を作ったのかも私に訊きませんでした。ところが、私が、「暴力に関わりそうな雰囲気のある若者たちの、相談に乗る力の源泉は、いったい何だと思いますか」と尋ねると、おおよそ次のようなことを言いました。「こういった少年たちは、私が力強いことは見て分かりますし、私自身が内心、暴力的だと分かっていることも、感じてもいるのです。しかし、彼らは私が自分の怒りとうまく折り合っていることも分かるし、自分たちが私を怒らせて、私の価値に逆らって私を行動させることもできないことも分かっているのです。ですから、彼らは私の話を聞くのです」。これは、私がこれまでに耳にした中で、非暴力に関する最も優れた言葉なのです。しかし、この言葉はまた、彼が10代の初めに作った積み木遊びに繰り返し現れた音色とよく響きあっているようでもありました。すなわち、感情の爆発をコントロールし、規律と自己表現によって、その感情の高まりを乗り越える、という音色です。

 

 

 

 

 積み木遊びに現れた音色と、その少年が大人になって仕事をしている際に奏でる音色は、響きあっているのです。それは、交響曲ではないかもしれませんが、美しいデュエットではあるはずです。

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