八時過ぎ ― 私としては珍しく早い時間に庵を出ました。
三日後、大腸の内視鏡検査を受けて(もしポリープ等があれば、切除した上で)入院、ということになっているので、新型コロナウイルスのPCR検査を受けたのです。
庵を出るとすぐいくつかの幼稚園や保育園が送迎バスの停車ポイントにしている場所を通ります。「おはようございます」「おはよう」
「信じらんなーい、よね」
三人いたママグループの中で、一人のママの叫ぶ声が聞こえました。通り過ぎて行く瞬間、耳にしただけですが、そのあとの相槌からして、福岡県で置きた幼児の死亡事故だとわかりました。
幼稚園の送迎バスですから、何十人も乗れるような大型ではなく、十数人しか乗れないマイクロバスでしょう。そんな小さなスペースなのに、取り残されている幼児がいるかいないか、気づかないはずがない。
受付を済ませたのは八時四十五分。いつも通っている病院ですが、こんなに早い時間にきたことはありません。待合室にいる人影もまばらです。
内視鏡検査室。
「どうぞこちらへ……」。看護師に促されて入ったのは二十日ほど前、上部消化器の検査のために入らされた診察室です。
このベッドに横たわって胃カメラを咽んだのです。右に写っているのがファイバーの機器です。
PCR検査を受けるのは初めてですが、唾液による検査だと聞いていたので、こんなところへ通されて、どのように大がかりなことが待ち受けているのかと危ぶんだら……。
たんに人のいないところで、という配慮だったようです。
この容器 ― 看護師に確かめたところ特別な呼び名はないようです ― に、親指で押さえているあたり、5ccの目盛りのところまで唾液を溜めて、「溜まったら呼んで下さい」。そういって看護師は出ていってしまいました。「うん」と自分に頷いて唾液を吐こうとしましたが、緊張しているのか、緊張すると唾液は出ないものか、なかなか思うようになりません。
眠っているとき、気づくと枕を濡らしていることがあります。涙ではありません。恐らくだらしなく口を開けて、涎を垂らしているのです。
5ccまで溜まりませんでしたが、これ以上は無理だと思えたので、通りがかりの別の看護師に声をかけました。その看護師は「はい」といって受け取って立ち去りました。
最初の看護師がくるものと思って待っていたら、女子事務員がきて、「今日は会計はありません」といいながら、私の診察券を返してくれました。
内視鏡検査室やレントゲン室などは病院の奥のほうにあります。
「お帰りになって結構です」
そう事務員がいって、私がいた内視鏡検査室とは廊下を挟んだ反対側の扉を開けてくれると、道路の向こうに見たことのあるような石塀がありました。見たことがあるのは道理、この病院の出入口の直前にある家の塀で、つい何十分か前、今日はどうなるのだろうかと(恐らく)心配顔の私が通り、病院に入るときに見たばかりだったのです。
外に出たときに振り返ってみると、救急搬入口でした。ときたま救急車が停まっているのを見たことがあります。人目を憚って通常の出口を示さなかったのはなく、たんに近かっただけなのかもしれませんが……。
見上げると、今日も眩しいような空でした。カッと照りつけてくる陽射しはとても敵いませんが、雲は気持ちがいいほどの白さです。
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