細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

30代の総括(論文)

2015-02-21 16:18:43 | 研究のこと

30歳のときに横浜国立大学に助教授として赴任しました。その後、30代は同じ職場で大学の研究者として活動したことになります。10年後の40歳のときに、フランスのIFSTTARに1年間、留学させていただく機会を得、自分にとっても様々な意味で良い区切りになりました。

30代の10年間は、もちろん、私にとって初めてで最後の経験ですが、自立した研究者になるプロセスでした。「ポン」と大学に放り出されて、非常に不安を感じる状況からのスタートでしたが、多くの方々との出会いがあり、未熟な研究者でしたが、様々な観点で鍛えていただきました。

30代に取組んだ研究は、論文や解説文などで多く発表してきましたが、駄作も多く、それも含めてベストを尽くしてきた結果です。

私の30代の活動を総括する論文として、「ひび割れ抑制システムによるコンクリート構造物のひび割れ低減と表層品質の向上」が2014年の10月に土木学会論文集に掲載されました。これは、山口県のひび割れ抑制システムの効果を包括的に論じたもので、一つ、しっかりとまとめることができてほっとしています。

もう一つ、「施工状況把握チェックシートによるコンクリート構造物の品質確保と協働関係の構築」という論文を、社会技術論文集に投稿し、先ほど、査読修正を行った原稿を送付しました。この論文で論じている「施工状況把握チェックシート」は山口県で開発され、山口県のみならず復興道路等でも実際に活用されているツールであり、我々の品質確保プロジェクトにおける非常に重要な参考書にもなる論文と思っています。30代の終盤に、品質確保の同志の方々と徹底的に議論してきたエッセンスが詰まっているものです。査読修正を無事に通過できるか分かりませんが、これも形に残ることを願っています。以前、このブログでも書きましたが、この論文の目指すところは、実は私の駄作中の駄作、卒業論文「建設工事システムがコンクリート構造物の品質に及ぼす影響」で達成しようとしていた目標と通じており、私の卒業研究の19年越しのリベンジとも言えます。

論文、というものに対する考え方は様々なものがあると思います。

現在の世の中では、一般的に、論文の数が多い方がよい、論文が多く引用されるのがよい、英語の格の高いジャーナル論文に多く掲載されるのがよい、などの意見が非常に強いです。明らかなグローバリズムの影響かと思います。

本来は、様々な価値があり、分野によって求められるものも違うようにも思います。

私の師匠の岡村先生は、東大工学部の教授会にて、「論文は少ない方がよい。その代り、時間が経過しても変わらず価値の高いものを書いてほしい。」というニュアンスのことを言われたと聞いています。

私は未熟な研究者であると自覚していますが、私の論文や解説文は、私の分野のいわゆる「研究者」と比べると、多くの方に読まれる傾向にあるようです。目視評価法、施工状況把握チェックシート、現実の行政のひび割れ抑制システム・品質確保システム、表面吸水試験など、実務と深く関わった研究テーマが多いことがその最大の理由かと思います。

私の論文の中には、いわゆる研究者以外の、行政や技術者にも読まれるものがあることは自覚しており、よってそれらは英語の論文である意味はないし、難しい数式がこねくりまわされている必要もありません。論文の知見や哲学が、現実の世の中で活用され、応用され、問題解決に貢献することが目的です。

工学の分野に、そういうタイプの研究者がいてもよい。

多様な研究者がいた方がよい。よって、本来は評価も多様なファクターを考慮して行われるべきです。

30代で、自分なりの一つの軸を見つけたので、その軸での研究活動は今後も大事にしたいと思います。

40代に入ってもうすぐ2年が経過しますが、新たな軸を見つけられるよう、また40代の研究を総括することができるよう、創造的にチャレンジを重ねたいと思います。