細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

学生による論文(149) 「高熱隧道を読み直して」 西浦 友教(2021年度の「土木史と文明」の講義より)

2022-01-28 09:14:58 | 教育のこと

「高熱隧道を読み直して」 西浦 友教

 今回、私は講義内で紹介されていた高熱隧道という本を読み直した。大学一年の春学期にある講義の課題図書として読んで以来であったため、読み直す前はあまり記憶が鮮明ではなかったが、読み直し始めるとすぐに内容に関する記憶と約一年前に初めて読んだ際に持った感想の記憶が次々に復活してきた。以下、初めて読んだ際に持った感想と今回読み直した際に持った感想を比較しながら、高熱隧道に関して思うところを述べたいと思う。

 まず、とにかくこの本に書かれている内容がフィクションではなく実際に起こったことであるということにとても驚かされる。初めて読んだ際にも、これが実際に起こったことであると多少は意識していたものの、その感覚が深く心に沁み込んでくることはなかった。一方、今回読み直した際には初めて読んだ当時より土木に関する知識が増え、土木という分野が持つ素晴らしさや残酷さなど、良い面も悪い面も含めた様々な側面に触れている最中であるため、内容がフィクションでないことが嫌と言うほどに心の中に沁み込んできた。特に今回の読み直しを終えて、特に印象深かったのが、技師と人夫の関係性である。技師は言うなれば監督の立場であり、基本的には現場に出ることはない。その分、人夫の人たちが過酷な現場に出ていくのだが、このパワーバランスの描かれ方によって過酷さと残酷さが増しているように感じた。普段は指示通り作業を進める人夫だが、ひとたび事故が起これば現場に不信感が湧き、その不信感は技師への反抗へとつながっていく。そこで重要になるのが、技師がどう行動するか、ということだが、爆発事故が起こり散らばった死体を回収するシーンには読み進める手を止めてしまいたくなるような気持にさせられた。

 また、国からの後押しもあり、工事は多くの屍を乗り越えて進んでゆくが、個人的にこうした状況は、今の社会の暗喩のようにも思える。現代でも多くの労働者は、厳しい条件下で働いている人が多いと思う。しかし、そうした状況を鑑みることなく、経営者や資本家は仕事を回し続ける。この話に出てくる戦中の技師と人夫の関係性が作り出す不気味さは、そのような環境で労働者たちが感じる違和感と怒りを表しているような気がする。偉大なる先人の偉業、努力を垣間見ることができると同時に、社会構造としての使う者、使われる者の現実は今も昔も大した差はないのではないかと考えさせられた。

 一度読んだ本を再び読むことはあまりしないが、今回、高熱隧道を読み直したことで前回読んだ時の自分と比較して、今の自分に成長を感じることができた。内容に関する記憶が薄れてきたころにまた読み直し、読んでいると自分も押しつぶされて息苦しくなるかのような重い内容に再び感情を染めたいと思う。


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