細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

学生による論文(144) 「身近に迫る領土問題」 北 拓豊 (2021年度の「土木史と文明」の講義より)

2022-01-28 09:08:58 | 教育のこと

「身近に迫る領土問題」 北 拓豊 

 2021年6月16日、「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律」、通称「土地利用規制法」が通常国会で成立した。この法律は、国の防衛施設、原発,空港などの重要なインフラの周辺部、国境やその周囲の離島などといった日本にとって特に重要なエリアを「注視区域」及び「特別注視区域」として定め、日本の安全保障を脅かす土地の利用を防ぐことを目的としている。この法律の制定の背景には、外国資本による日本国内の土地の買い占めの進行という問題が存在している。近年、特に北海道において中国資本によって土地が大量に買い漁られている。もちろん、別荘やホテルの建設といった観光客向けのリゾート開発などを行う分にはそこまで大きな問題にはならないだろう。急激な人口減少や高齢化に悩まされている地域にとっては、街が活性化するという点でむしろありがたい話にもなり得る。一方で、外国資本による土地の買い漁りが大きな問題となってくる地域も当然存在する。それが、街から離れた地域や山間部、要するに第一次産業を主とする地域である。(空港付近の土地の買い占めなど、日本の安全保障を直接脅かす可能性のある事例も存在するが、そのような事例の危険性は明白で話すまでもないため、ここでは割愛する。)またしても北海道の話となってしまうが、高齢化や過疎化が進行している北海道では広大な農地や牧場地などが手放される事例が相次いで発生している。帯広市の西側に位置する新得町の狩勝牧場は、施設の老朽化に伴い2018年に閉鎖された。狩勝牧場の敷地は370haを超える広大なものであり、中国などの外国資本による買い上げの話も浮上していた。このような広大な土地が外国資本の所有地となることは、国土の侵害という点や周囲の環境の面からも非常に大きなリスクを伴う。新得町は「第一次産業に必要な土地は地元の人が所有すべき」との考えのもと、町農地利用集積円滑化事業を活用して狩勝牧場を2億円で取得し、現在は酪農を目的とした国内企業への貸し付けを行うための協議が進められている。この事例は外国資本への土地の流出を阻止できた例であるが、財政の状況がよろしくない自治体が所有者から土地を買い取ることは困難なため、残念ながら既に多くの農地や林地が外国資本の手に渡ってしまっている。2006年から2018年までの13年間に外国法人や外国人と思われる者によって買収された森林は、北海道内だけで1577haにもなる。無秩序に森林が開発されると、斜面の崩壊や水源地が汚染されることによる水質悪化など、大きな環境問題にも繋がるリスクがある。しかしながら、農地や森林は「土地利用規制法」の対象から外れてしまっている。小此木八郎領土問題担当大臣は「農地、森林が外れているのではないかという話だが、大きな意味では含まれていると認識している」と述べているが、国民の安全・安心な生活を守るため、農地や森林についても明確に言及して対象に含めた法令の一刻も早い制定が必要だと私は考えている。

 


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