細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

学生による論文(86) 「自然災害の恐ろしさを蔑ろにする日本人の末路」 重里 友太 (2022年度の「土木史と文明」の講義より)

2022-11-25 06:18:28 | 教育のこと

「自然災害の恐ろしさを蔑ろにする日本人の末路」  重里 友太 

 今日本は世界でもTOP10に入るほどの平和な国であり、非常に安定した国家であるといえる。その反面、国民は平和ボケした人間が多く、日々を安定して暮らすことができていることに慢心してこの国をより発展させようという意識がなく、その証拠としてこの国の国内総生産は減少しているのである。そんな日本が50年前は世界屈指の経済成長率で発展していたということ、また一時期は世界最大の経済大国であったということは考えられない。なぜこのような違いが生まれてしまったのだろうか。その謎を解く鍵はやはり「平和」という状態にあるだろう。世界大戦後の日本はどうしようもない壊滅的状態に置かれており、いわばなにがなんでも都市インフラを整備するしかなかった。この時代に整備された代表的なインフラとして、黒部川第四発電所つまり黒部ダムが挙げられる。黒部ダムは1950年代の関西の電力不足が深刻であったために、黒部ダムを作ることによって電力不足を解消しようとした。黒部ダムの工事にあたっては厳しい自然条件の中、171名の犠牲者を伴いながらも7年という歳月を掛けて完成した。当時は安定な暮らしとはかけ離れており、人々は死というものと向き合いながらにして日本をよりよくするために必死に工事を行っていたのである。それに対し現在は技術の向上によって安全性が保証され、難しい工事でも工夫することで安全面が確保された施工が可能になったが、少しでも難工事だとお金を掛けて行うことが無駄だと言って必死に工事を行うことがなくなってしまった。今までずっと向き合ってきた死という危険から今の日本人は目を背けることができてしまうようになったことで、死という存在が遠ざかり、それにより人々を本気にさせる機会が少なくなってしまった。これが平和ボケと言われる所以であると思う。過去最大級の災害が来ると言われたとしても、人々は死ぬことはないと心の底では思っているだろう。それが自然災害の被害を抑えるための都市インフラを整備するのが無駄であると思っている原因である。近年様々な災害が起こっても犠牲者がほとんど出ないのは都市インフラを整備し続けていたおかげであるにも関わらず、死者が出ていないからとインフラを整備する必要がないと勘違いしてしまっている。講義内で述べていたように南海トラフ地震が起きた場合の経済損失が1200兆円と推定されているが、35兆円をインフラ整備に充てることによって経済損失が700兆円に抑えられると試算されている。30年以内に南海トラフ地震が起こる可能性が高いと言われているにもかかわらず何の対策もしないのは、どうせ自分には関係ない、自分は死なないと安心している人々が沢山居ると言うことと、人々を不安にさせる情報だけが先走りしているために対策を行うことで損失を抑えられるという事実を把握していないからだと考える。日本がまた本気になるためにはもしかしたらまた痛い目に遭わないといけないのかもしれない。もし痛い目に遭えば人々はまた本気を出すことができ、物事の本質を見ることができるようになることでまた50年前のような経済成長が期待できるかもしれないが、それは経済成長のためには経済損失を伴わなければならないということであるから、いわば自作自演の経済成長ということになり、非常に情けない。そうならないためにも、今一度今まで自然災害と闘ってきたという事実を再確認し、自然災害と向き合う必要があると思う。

 


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