「生態系との共生」 長谷部 颯真
砂防ダムは、山や谷が多い日本の土石流や土砂崩れを防ぐ、もしくは軽減するために考えられ、作られた、まさに先人の知恵である。講義中にもあるように、その被害を大きく抑えた恩恵は計り知れない。川の流れを遅らせたり、一度の土砂の流出量を減らしたりと、砂防ダムでなくては得られない効果ばかりだ。しかしながら、砂防ダムにはいい面だけではなく、欠点も存在している。それは、生態系の破壊につながってしまっていることだ。砂防ダムには生態系を破壊する三つの原因がある。一つは、川の生態、特に川魚の住処を奪ってしまうことだ。川魚は、下流から上流へと自由に移動できることが種の繁栄につながる。だが、砂防ダムが川を分断してしまうことで魚の移動を妨げてしまい、水生生物に悪影響を及ぼしてしまう。二つ目に、海岸線の浸食につながることである。川の砂防ダムが、海の問題に結びつくのも不思議かもしれないが、砂防ダムで上流の土砂を止めたり緩和したりするために結果海岸線まで影響を受けてしまうようだ。それと同時にミネラルや栄養素の供給も弱まり、海がやせてしまう。そのため海の魚や藻、貝といった生態系にも被害を与える。最後に、骨材の不足である。今まで建築用の骨材は川から流れてきていたものを使用していたそうだが、川から骨材がとりにくくなり、代わりとして山や海底を削って骨材を得ている。そのため山や海の環境を害する問題となっている。
生態系の破壊は砂防ダムに限らない。コンクリートの地表面の浸食やダムでの環境破壊など、人の暮らしを豊かにするものはほかの生命への悪影響となることが多いように思われる。土木が、自然と共生しながら活動していく営みであるのならば、私たちはこの事実とどのように向き合うべきなのか。
このように語っているが、私の意見としては別にもっと生態系を大事にしろとかダムとかの開発を自粛しろとかは考えておらず、むしろ人の安全や生活を守るためならいくらかの犠牲は仕方のないものだと思っている。しかし開発によって生態系が壊されることを許さない人がいるのも承知しているし、それが原因で開発が滞っていることも知っている。この問題は土木に携わるならば向き合わなければならないものだろう。そこで土木に関する人たちがどのような行動をとるべきかを考えてみる。
私は、地域と協力して守るべき生態系を定めて、焦点を当てて保全していくべきであると思う。地域ごとに特色ある生態系があり、優先して守るべき生態があるはずだ。ならば、それらに配慮した工事や、時期を選んで行うようにすればよい。例えば、石河内ダムではクマタカに配慮して、営巣期には工事を休止し、設備に目立つ色を使わないようにしていた。これは生態系と土木工事がうまく共生できている事例だと思う。ほかにも、その生態系が工事終了後にきちんと存続できているかを確認するのも必要だろう。先ほどの砂防ダムの話でも、川魚の移動を妨げる問題の解決策として、魚道が設けられている場所もある。しかし、管理が行き届いておらず、その魚道が落ち葉や土砂で埋まってしまって役割をなしていないものもある。工事期間に配慮しても、結局工事の後にはなじめずにその土地を去ってしまうものもあるかもしれない。よって、生育の確認もしていくべきだ。
土木を介して人の暮らしは豊かになり、それと同時に環境を守ることができたらどれだけいいだろうか。近年は建物の緑化やビオトープの制作によってさらに環境保全が進んでいる。今はもう、土木工学者も生態学を深めていく時代なのかもしれない。
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