駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

耳と耳の間に

2017年12月09日 | 人生

 

 T氏御年九十歳、だいぶん耳が遠くなられた。しかし、会話が楽しい。断片の言葉に当意即妙の返事が返ってくる。   

 「調子はどうですか?」。

 「胃を切ってから飯が旨いよ」。

 六年前に胃がんの手術をされている。手術する時も「やってくれ」と平気の平左だった。ちょっと変わったことを言うと怪訝な顔をされ手を耳にかざされる。「庭に(夏)蜜柑がなりましたねえ」、「?」もう一度繰り返す「!」広い庭に実のなる木が一杯植わっており、通りかかった時に目についたのでついそう言ってしまった。午後、息子さんが段ボール一杯の夏蜜柑を届けてくれ、あちゃーと思ったこともある。

 K氏八十二歳、耳もよく聞こえ足も達者なのだが、いつも受付を困らせる。「保険証を返してもらっていない」「薬手帳を返してくれ」と患者さんが一杯居る待合室に響く大声で怒り出す。普通に会話できるので、まるで受付の落ち度のように聞こえてしまう。昼休み「あった」ガチャンと電話が来る。まだ電話が来るだけ良いというか、そこまでは進行していないというか、診察室内では神妙な優等生なのだが。

 お二人がどうなってゆくか、数多い経験から私には予想できる。人間はよほどのことがない限り平生往生する。勿論、自分も例外ではないだろう。

 今を大切に生きねば。

コメント (2)
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