六月の青い田
所用を済ませた帰り、時間があったので散歩がてら、気の赴くまま自転車を走らせた。
団地の中に入る。広い団地で、はじめて見る路地も多い。今日たまたま通りがかったところもはじめて来た。新しい発見がある。とは言え、この世界の広大無辺に比べれば、個人がその生涯の間に体験できる領域とは、きわめて限られている。私などは自慢ではないが、この狭い日本からすら出たこともない。
無限の多様性に満ちたこの世界を、自らの感覚によって捉えることのできるのは、そのごく一部だけである。哲学者カントなども、その生涯に生まれ故郷のケーニヒスベルクをほとんど出たことがないそうだ。井の中の蛙のように生涯を生きたということである。ただ、自らの棲息する井戸を深く掘ったということができるかもしれない。たとい全世界を回遊しようとも、ミーハーにはミーハーの世界しか映らない。
いまだ太平洋の深海を覗いたこともなければ、まして、銀河系の外がどのように成っているのかすら、厳密な意味ではわかってはいない。無限を前にしては、人間の寿命もカゲロウの寿命も差はない。人間もカエルも地球の表面に蟻のようにへばりついて生きている。
東海道自然歩道の途中で、淳和天皇陵、花の寺、金蔵寺への標識の立っている地点まできて、それを見て金蔵寺の方に進路を取る。
途中に見る田圃もすでにほとんどが田植えを済ませていた。稲田が夕日に映える。燕が群れをなして舞っている。今年もすでにそういう季節に入ったのだ。
菖蒲かアヤメか、遠くにその面影も見てもその盛りはすでに過ぎたようだ。葵のピンクの花が畦を飾っていたりする。
石作町に入る。その名の通り、奈良や平安の昔にはこのあたりには石工たちが住んでいたのかもしれない。竹取物語に登場する五人の貴公子の一人、石作皇子にゆかりのある土地柄である。昔から竹林で有名でかぐや姫の伝説もある。この石作皇子は、石の「鉢(恥)」を捨ててまで求婚したのにかなえられなかった。
所用を済ませた帰り、時間があったので散歩がてら、気の赴くまま自転車を走らせた。
団地の中に入る。広い団地で、はじめて見る路地も多い。今日たまたま通りがかったところもはじめて来た。新しい発見がある。とは言え、この世界の広大無辺に比べれば、個人がその生涯の間に体験できる領域とは、きわめて限られている。私などは自慢ではないが、この狭い日本からすら出たこともない。
無限の多様性に満ちたこの世界を、自らの感覚によって捉えることのできるのは、そのごく一部だけである。哲学者カントなども、その生涯に生まれ故郷のケーニヒスベルクをほとんど出たことがないそうだ。井の中の蛙のように生涯を生きたということである。ただ、自らの棲息する井戸を深く掘ったということができるかもしれない。たとい全世界を回遊しようとも、ミーハーにはミーハーの世界しか映らない。
いまだ太平洋の深海を覗いたこともなければ、まして、銀河系の外がどのように成っているのかすら、厳密な意味ではわかってはいない。無限を前にしては、人間の寿命もカゲロウの寿命も差はない。人間もカエルも地球の表面に蟻のようにへばりついて生きている。
東海道自然歩道の途中で、淳和天皇陵、花の寺、金蔵寺への標識の立っている地点まできて、それを見て金蔵寺の方に進路を取る。
途中に見る田圃もすでにほとんどが田植えを済ませていた。稲田が夕日に映える。燕が群れをなして舞っている。今年もすでにそういう季節に入ったのだ。
菖蒲かアヤメか、遠くにその面影も見てもその盛りはすでに過ぎたようだ。葵のピンクの花が畦を飾っていたりする。
石作町に入る。その名の通り、奈良や平安の昔にはこのあたりには石工たちが住んでいたのかもしれない。竹取物語に登場する五人の貴公子の一人、石作皇子にゆかりのある土地柄である。昔から竹林で有名でかぐや姫の伝説もある。この石作皇子は、石の「鉢(恥)」を捨ててまで求婚したのにかなえられなかった。