作雨作晴


日々の記憶..... 哲学研究者、赤尾秀一の日記。

 

ヘーゲル『哲学入門』第三章 宗教論 第七十八節[個別の本性について]

2023年02月25日 | 哲学一般

 

ヘーゲル『哲学入門』第三章 宗教論 第七十八節[個別の本性について]

§78

Das Böse ist die Entfremdung (※1)von Gott, insofern das Einzelne nach seiner Freiheit sich von dem Allgemeinen trennt und in der Ausschließung von demselben absolut für sich zu sein strebt. Insofern es die Natur des endlichen freien Wesens ist, in diese Einzelheit sich zu reflektieren, (※2)ist sie als böse zu betrachten. (※3)

 

§78[個別の本性について]

個別が自らの自由によって、自己を普遍から分離するという点において、そして普遍を排除して絶対的に自立してあろうとする点において、とは神から離反することである。この個別性のうちに自らを映し出すことが、有限で自由な存在の本性である点において、その本性は悪とみなされなければならない。

※1
Ent-fremd-ung は、ふつう「疎外」と訳される場合が多い。
要するに「(自己から分離して)他者、他人になること」である。
人間と異なり、動物はこの離反、分離  Entfremdung の自由をもたない。
fremd = foreign
よそよそしい、 見知らぬ、居心地の悪い、外国の、得体の知れない、なじみのない、などの訳語が当てられる。
マルクス主義で、労働者とその労働の生産物との関係を「Entfremdung 疎外」として使うようになって一般化した。

※2
die Natur des endlichen freien Wesens 
「有限で自由な存在」とは、もちろん「人間」のことである。
in diese Einzelheit sich zu reflektieren
自己を個別性に映し出すこと。個別性に固執すること。

※3
マルクス主義やその他多くのユートピア学説、人権論は、この個別の本性を見落としている。

 

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ヘーゲル『哲学入門』第三章 宗教論 第七十七節[神の性質について]

2023年02月18日 | 哲学一般

 

ヘーゲル『哲学入門』第三章 宗教論 第七十七節[神の性質について]

 

§77

Gott ist, nach den Momenten seines Wesens, (※1)1) absolut heilig, (※2)insofern er das schlechthin in sich allgemeine Wesen ist. Er ist: 2) absolute Macht, (※3)insofern er das Allgemeine verwirklicht und das Einzelne im Allgemeinen erhält oder ewiger Schöpfer des Universums. Er ist 3) Weisheit, (※4)insofern seine Macht nur hei­lige Macht ist; 4) Güte,(※5) insofern er das Einzelne in seiner Wirk­lichkeit gewähren lässt und 5) Gerechtigkeit, (※6)insofern er es zum| Allgemeinen ewig zurückbringt.

 

第七十七節[神の性質について]

神は、その存在の契機からみれば 、 1) 神は自らのうちにおいて全く普遍的な存在であるから、絶対に 神聖 である。神は、2) 絶対的な威力 である。神は普遍を実現し、そうして普遍のうちに個別を保存し、永遠の 宇宙の創造者 であるから。神は、3)  知恵 である。彼の威力はひとえに聖なる力に他ならないから。神は4) 善なるもの である。神は個別をその現実にあるがままにさせておくから。そして、神は 5) である。神は個別を普遍へと永遠に取り戻すから。

※1
den Momenten seines Wesens  
神の存在(本質)の契機
Wesen
実体、存在、性質、本質、実質、実体
Moment
要素、要因、因子、構成要素、動因、 因数

ヘーゲルにとって宗教とはキリスト教のことであったから、神の存在の本質的な性質を聖書の中から具体例を取り上げた。

※2
heilig
神聖、尊い、聖なる、神々しい

というのも、世界が創造されてからこの方、目に見えない神の性質は、すなわち神の永遠の力と神聖な霊性は、神の働きからも理解され、はっきりと見えるものであったから、人々には弁解の余地はない。(ロマ書1:20)
 
※3
die Macht
威力、力、強力、暴力、実力

ある日のこと、イエスは教えていた。そしてパリサイ人と律法師たちがそこに座っていた。この人たちはエルサレムから、ガリラヤやユダのすべての村から来ていた。病を癒す主の力が彼のうちにあった。(ルカ書5:17)

※4
Weisheit
wisdom
知恵、叡智、智識、才気、聡明

ああ、神の智恵と知識の富の深さよ。神の裁きはなんと計りがたく、神の道は辿りがたいことか。(ロマ書11:33)

※5
Güte
goodness
良さ、善、 善良

「なぜ私を善いと呼ぶのか。」イエスはお答えになった。「神お一人をのぞいて善い者は誰もいない。」(ルカ書18:19)

※6
Gerechtigkeit
正義、 公正、 裁判、 公平、義、正直

そして、キリスト・イエスにあるあがないを通して、神の恵みによって無償で義とされる。(ロマ書3:24)

 

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ヘーゲル『哲学入門』第三章 宗教論 第七十六節[絶対的な精神について]

2023年02月01日 | 哲学一般

 

ヘーゲル『哲学入門』第三章 宗教論 第七十六節[絶対的な精神について]

§76

Gott ist der absolute Geist(※1), d. h. er ist das reine Wesen(※2), das sich zum Gegenstande macht, aber darin nur sich selbst anschaut; oder in seinem Anderswerden schlechthin in sich selbst zurück­kehrt und sich selbst gleich ist.

第七十六節[絶対的な精神について]

神は絶対的な精神である。すなわち、神は純粋な存在である。純粋な存在とは自己を対象とするが、しかし、その中でただ自分自身を直観をするだけであり、あるいは、自身がもっぱら他のものへと変化する中で自分自身へと還り、かつ自分自身と等しくあるものである。

 

※1
der absolute Geist(絶対的な精神)は、先の第七十二節の、Dies absolute Wesen と同じ。第二教課の「精神現象論」の第四節においては、Das Subjekt ist der Geist.(主観は精神である)として説明されている。

※2
das reine Wesen
reine
「純粋な」というのは、神は自ら以外を含まない存在だからである。また神を精神(der absolute Geist)として捉えていること、この核心を精確に解明することは註解の目的の一つである。
Wesen (存在、本質)
第七十二節の註解※1参照。「時間を超越した本質的な存在」。少しこなれないかもしれないが「質在」という訳語を当ててもいいかもしれない。

 

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