宮内庁の羽毛田信吾長官は10月5日、野田佳彦首相に直接、「女性宮家」創設により皇族方の減少を食い止めることが喫緊の課題だと伝えたという。これを受けて11月25日、藤村修官房長官は「政府としても今後検討していく必要がある」と発言し、その後、政府内に勉強会が設置された。
≪「有識者会議」の焼き直し≫
「女性宮家」の創設が提唱されるのは、現行の皇室典範12条で女性皇族は結婚すれば皇籍を離れなければならないが、結婚後も皇籍に留まるようにすることで、皇族の減少を防ぎ、これによって天皇陛下の公務のご負担を軽減するためだとされる。
しかし、皇族の減少を防いで、天皇陛下の公務のご負担を軽減するためという理由は直ちに、「女性宮家」創設という結論に結び付かないはずである。何よりも、天皇陛下の公務のご負担の軽減は公務自体のあり方を見直し、数を減らせばよいのであって、年々公務を肥大させ、陛下にご負担を強いているのは宮内庁の責任である。また、皇族の減少を防ぐには、後述するように別の方法もあるのであり、「女性宮家」の創設は順序としてそれを検討した後でなければならない。
端的に言えば、この度の「女性宮家」創設の提案は、6年前の「皇室典範に関する有識者会議」の報告書の焼き直しである。同報告書は主として、(1)女性天皇・女系天皇の容認(2)皇位継承順位の長子優先(3)女性宮家の創設-の3点を提唱した。今回の提案は、6年前に議論が集中した(1)と(2)を避けて、(3)だけを持ち出したものである。しかし、「女性宮家」の創設は、宮内庁や政府関係者が考えているほど簡単なものではない。
≪前途に立ちはだかる9の難問≫
第一に、女性宮には皇位継承権があるのかが検討されなければならない。継承権があるとすれば、これは「女性天皇」容認と同じことになる。皇位継承権とは皇位に就く法的権限だからである。逆に継承権がなければ、女性宮は単なる皇室の公務の分担者という位置づけになる。
第二に、皇位継承順位をどうするのかが問題となる。男子優先とするのか、長子優先なのかということである。
第三に、いっそう本質的な問題であるが、「女性宮家」は一代限りなのか、それとも世襲とするかが検討されなければならない。世襲ということになれば、女性宮のお子様は男子であれ女子であれ、「女系」の皇族ということになり、この方々が皇位継承権を持つならば、それはそのまま「女系天皇」容認を意味する。そして、それは神武天皇以来125代にわたって一貫して「男系」で継承されてきた皇位継承原理に、一大変革をもたらすものとなる。
第四に、女性宮の配偶者は皇族とするのか、公務に携わるのか、敬称はどうするのかが検討されなければならない。また、「女性宮家」を一代限りとし、配偶者は皇族でないとした場合、配偶者はその氏を名乗り続けるのか、夫婦別姓とならないかも問題となる。
第五に、第三の点とも関連するが、世襲を避けて「女性宮家」を一代限りとした場合に、お子様は皇族とするのか否か、敬称はどうするのか、氏はどうするかも問題となる。
第六に、皇族に支給される皇族費はどなたを対象にするのか。一代限りの場合、配偶者やお子様にも支給されるのか。
≪女系天皇に道開く一大変革≫
第七に、女性宮の候補者としてどなたを想定しているのか。例えば、遡及(そきゅう)して天皇陛下のご長女の黒田清子さんも想定しているのか。天皇陛下から見れば、いとこのお子様という関係になる寛仁親王家や高円宮家の女王殿下も対象とするのか。政府内の勉強会では「天皇の子と孫」という案が出ている。
第八に、対象者全員に「女性宮家」創設を強制できるのか。ご自身はそのつもりで育っていない、ということにならないのか。
第九に、強制ではなく、ご本人の意思を尊重するとした場合、逆に恣意(しい)や政治的意思が働かないかといったことが問題となる。
かつて慶応大学教授の笠原英彦氏は女性天皇容認を「荊(いばら)の道の始まり」(『女帝誕生』)と述べたが、「女性宮家」創設にも同じ厄介な問題が続出する。それは「女性宮家」が皇室の歴史にはない全く新しい存在だからである。
羽毛田長官は野田首相に現在の皇族の範囲の図を示して説明したという。初めに結論あってのことと思われる。だが、皇族の数を増やすに際して歴史的に用いられたのは、神武天皇以来の男系の血を継承した方々に皇籍に戻っていただくという方法である。今日で言えば、戦後まもなく皇籍離脱を余儀なくされた旧11宮家の方々に皇籍に戻っていただくことも検討されてよいが、有識者会議も真面目に検討した形跡はない。
政府は、「女性宮家」創設という「荊の道」ではなく、「男系継承」という歴史的に踏み固められた道を選ぶべきであろう。(やぎ ひでつぐ)