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作雨作晴


日々の記憶..... 哲学研究者、赤尾秀一の日記。

 

ヘーゲル『哲学入門』第二章 国家社会 第二十八節 [国家体制(憲法)について]

2021年06月02日 | 哲学一般

 

§28[国家体制(憲法)について]


Die allgemeine Staatsgewalt  enthält verschiedene besondere Ge­walten unter sich subsumiert: 1) die gesetzgebende  überhaupt; 2) die  administrative  und finanzielle, sich die Mittel zur Ver­wirklichung der Freiheit zu schaffen; 3) die (unabhängige)  richterliche  und  polizeiliche;  4) die  militärische  und die Gewalt,  Krieg zu führen  und  Frieden zu schließen.

普遍的な国家権力は自らの下にさまざまな特殊な権力を従属させて含んでいる。

1)法制定権力一般
2)行政上および財政上の権力、自由を実現するための手段を作り出すもの、
3)(独立した)司法 と警察の権力
4)軍事的な権力。および 戦争を開始し、かつ和平を締結する 権力。


Erläuterung.    

Die Art der Verfassung(※1)hängt vornehmlich davon ab, ob diese besonderen Gewalten unmittelbar von dem Mittelpunkt der Regierung ausgeübt werden; ferner, ob mehrere da­von in einer Autorität vereinigt oder aber ob sie getrennt sind; z. B. ob der Fürst oder Regent selbst unmittelbar Recht spricht oder ob eigene, besondere Gerichtshöfe angeordnet sind; 

説明

憲法(国家体制)の種類は、主として以下のような事柄によって区別される。つまり、
これらの特殊な権力が政府の中枢によって直接行使されるかどうか、さらにいえば、それら多くの権力が一つの権威に統一されているかどうか、あるいはしかし、それらが分割されているかどうか、などによって区別される。たとえば、領主もしくは支配者自身が直接に裁定するかどうか、あるいはまた、別個に特別法廷が命じられているのかどうか、

ferner, ob der Regent auch die kirchliche Gewalt in sich vereinigt u. s. f. Es ist auch wichtig, ob in einer Verfassung der oberste Mittelpunkt der Regierung die Finanzgewalt in unbeschränktem Sinne in Händen hat, dass er Steuern ganz nach seiner Willkür sowohl auflegen als verwenden kann. Ferner, ob mehrere Autoritäten in Einer vereinigt sind, z. B. ob in Einem Beamten die richterliche und die militärische Gewalt vereint sind. 

さらには、また支配者が教会権をも自らの手中にしているか、等々。一つの国家体制(憲法)において、政府の最高の中枢が徴税権を無制限に手中にしているかどうかもまた重要である。そうであれば、政府はまったくその思うままに税金を徴収することも使用することもできる。さらには、さまざまな官庁が一つに統合されているかどうか、たとえば、司法権と軍事権が一つの官職に統合されているかどうか、といったこともまた重要である。

Die Art einer Verfas­sung ist ferner dadurch bestimmt, ob alle Bürger, insofern sie Bürger sind, Anteil an der Regierung haben. Eine solche Ver­fassung ist eine  Demokratie.  Die Ausartung derselben ist die Ochlokratie   oder die Herrschaft des Pöbels, wenn nämlich der­jenige Teil des Volkes, der kein Eigentum hat und von un­rechtlichen Gesinnungen ist, die rechtlichen Bürger mit Gewalt von Staatsgeschäften abhält. Nur bei einfachen, unverdorbenen Sitten und einem kleinen Umfange des Staates kann eine Demo­kratie stattfinden und sich erhalten.

国家体制(憲法)の種類は、すべての市民が、市民である限りにおいて政府に参画するかどうか、によっても決定される。そのような国家体制(憲法)は 民主政体 である。民主政体の劣化したものが 衆愚政治 でありの独裁である。すなわちそれらは、なんら財産を持たず、また不逞な心情をもつ人々たちの一部の者が、暴力をもって合法的な市民を国政から排除するような場合である。民主政体は、質朴でいまだ堕落していない風紀のもとで、国家の小さな領域においてのみ行なわれ、また維持することができる。

 — Die  Aristokratie  ist die Verfassung, in welcher nur einige gewisse privilegierte Familien das ausschließende Recht zur Regierung haben. Die Ausartung derselben ist die Oligarchie,  wenn nämlich die Anzahl der Fami­lien, die das Recht zur Regierung haben, von kleiner Anzahl ist. Ein solcher Zustand ist deswegen gefährlich, weil in einer Oli­garchie alle besonderen Gewalten unmittelbar von einem Rath ausgeübt werden.

貴族政体 とは、若干の特定の特権をもつ家柄だけが独占的な支配権をもつような国家体制である。その変種が寡頭政体 である。すなわち、いくつかのわずかな家柄だけが支配権をもつような場合である。こうした状況はしたがって危険である。というのも、寡頭政体においては、すべての特殊な権力は一つの評議のみで直接に行使されるからである。


 — Die Monarchie  ist die Verfassung, in wel­cher die Regierung in den Händen eines Einzelnen ist und erb­lich in einer Familie bleibt. In einer  Erbmonarchie  fallen die Streitigkeiten und bürgerlichen Kriege weg, die in einem  Wahl­reich  bei einer Thronveränderung stattfinden können, weil der Ehrgeiz mächtiger Individuen sich keine Hoffnung zum Thron machen kann. Auch kann der Monarch die ganze Regierungs­gewalt nicht unmittelbar ausüben, sondern vertraut einen Teil der Ausübung der besondern Gewalten Kollegien oder auch Reichsständen an, die im Namen des Königs, unter seiner Auf­sicht und Leitung, die ihnen übertragene Gewalt nach Gesetzen ausüben. 

君主政体 とは、政府が一つの個別者の手中にあり、一つの家柄によって世襲される国家体制である。世襲君主制 においては、たとい有力な一個人のどのような野心においても王位を手にする希望をもてないために、選挙公国 において王位の変更にともなって発生する可能性のある紛争や内戦が起こらない。むしろ君主は政府の全権限を直接に行使することはできないのであり、特殊な権力の行使はその一部は国会議員や政府官僚に委託され、彼らは自分たちに委託された権力を君主の名の下において、君主の監督と指揮のもとに法律にしたがって行使する。

In einer Monarchie ist die bürgerliche Freiheit mehr geschützt, als in andern Verfassungen. Die Ausartung der Mon­archie ist der  Despotismus, wenn nämlich der Regent nach sei­ner Willkür die Regierung unmittelbar ausübt. Der Monarchie ist es wesentlich, dass die Regierung gegen das Privatinteresse der Einzelnen Nachdruck und gehörige Gewalt hat. 
Aber auf der andern Seite müssen auch die Rechte der Bürger durch Ge­setze geschützt sein.
(※2)

君主政体においては、他の国家体制(憲法)よりも、市民の自由がはるかに多く保護されている。君主政体の劣化した形が 専制政治 であって、すなわち、権力者が彼の恣意にしたがって直接に統治するような場合である。君主政体においては、政府が個人の私的利益を抑制する正当な権力をもっていることは本質的であるけれども、しかし、その他方でまた、市民の権利は法律によって保護されていなければならない。

 Eine despotische Regierung hat zwar die höchste Gewalt, aber in einer solchen Verfassung werden die Rechte der Bürger aufgeopfert. Der Despot hat zwar die größte Gewalt und kann die Kräfte seines Reichs nach Willkür gebrau­chen. Aber dieser Standpunkt ist auch der  gefährlichste

独裁政権はたしかに最高権力をもってはいるが、しかし、そのような国家体制においては、市民の権利が犠牲にされることになる。
独裁者はたしかに最大の権力をもっており、かつ彼は自分の帝国の力を自由に使うこともできる。しかし、この状況はまた もっとも危険なもの である


— Die Regierungsverfassung eines Volkes ist nicht bloß eine äußerliche Einrichtung. Ein Volk kann eben so gut diese als eine andere Verfassung haben. Sie hängt wesentlich von dem Charakter, den Sitten, dem Grade der Bildung, seiner Lebensart und seinem Umfange ab.

⎯ 民族の統治体制は単なる外的な制度ではない。民族はある国家体制(憲法)をもつことのできるように、同じく他の国家体制(憲法)も選ぶこともできる。民族がどのような国家体制(憲法)を選ぶかは、その民族の性格、習俗、教育の程度、その生活様式、そして、その領土によって根本的に左右される。

 

 

(※1)
die Verfassung ふつう「憲法」と訳される場合が多い。ここでは「国家体制」「国体」の意に訳した。
 verfassen verb 書く、作る、作成する、綴る、起草する

Konstitution  法規、憲法

憲法の性格を考える上で、die Verfassung と die  Konstitution   の概念のちがいを認識しておくことは重要だと思われる。以前に論考で、大日本帝国憲法は die Verfassung に近く、現行日本国憲法は die  Konstitution   の概念に近いものとして論じたことがある。真実の憲法は「理性的な憲法」すなわち「自然憲法 die Verfassung」でなければならない。

自然憲法(Verfassung)と実定憲法(Konstitution)


(※2)
この第二十八節において、ヘーゲルは国家権力の行使形態のちがいを、国家体制(憲法)の類別として論じるなかで、「立憲君主国家体制」こそが他の国家体制と比べても「市民の自由」をもっとも保護するものであると述べている。
「立憲君主国家体制」の歴史的意義とその理念についての詳細な説明は、もちろん『法の哲学』の「第三章 国家」以下の記述を参考にしなければならない。

『哲学入門』の第28節に該当する個所は、『法の哲学』においては「第272節 国内国家体制」以降であり、さらに「第275節  a 君主権」についても詳細に論じられている。

それら該当する個所のいくつかの節については、これまでにも翻訳と註解を試みたことがある。

『法の哲学』ノート§272(国家体制、憲法)
http://anowl.exblog.jp/8428820

『法の哲学』ノート§273(国家体制、憲法2)

http://anowl.exblog.jp/8437531/

法の哲学

いずれにしても、ヘーゲルの所説に賛成するにせよ反対するにせよ、政治や官僚、憲法学を志す者すべてにとって、ヘーゲル『法の哲学』の根本的な理論的素養は不可欠の前提でなければならないだろう。

 

ヘーゲル『哲学入門』第二章 国家社会 第二十八節 [国家体制(憲法)について] - 夕暮れのフクロウ https://is.gd/gvK0wx

 

 

 


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