ライフの小野君が出ている&何となく気になったので,
観に行ってきました。
永山則夫,名前だけは知っています。
1966年,連続ピストル射殺事件の犯人の
死刑執行前夜を描いた作品です。
スズナリの下にあるシアター711は,スズナリよりさらにコンパクトなので
舞台もかなり狭いです。
ほぼ,全面黒の舞台で,床に亀裂が入っています。
奥の壁面に,白いラインが斜めに1本。
小さいちゃぶ台,腕時計,帽子,手袋などが床に点在しています。
いつ,死刑執行されるか分からないという緊張感に恒にさらされながら,
哲学などの造詣を深め,小説も執筆した永山。
妄想の中で,被害者たちと交流を深める中で,
永山の生い立ちから事件までを描きます。
現在の永山を池下重大さん,事件当時の永山を深澤嵐さんが演じます。
実際の事件なので,ストーリーの詳細は割愛しますが,
みんな,ある意味被害者だったんだなぁ,と。
8人兄弟の7番目に生まれる永山は,
酒を飲み,博打を打ち,ほとんど家に寄りつかない父と,
生活費を稼ぐのに必死な母と,どちらにも愛された記憶がなく育ちます。
そのため,人のことが信用できず,
ちょっとした人の言動をマイナスに受け止め,
仕事を転々とし,事件を引き起こすに至ります。
舞台にも登場する母(水野あや)は,冷酷なようにも見えますが,
貧しいのに8人の子どもですからね。
明らかに夫からのDVと言っていいですよね。
老けメイクがお見事でした。
舞台には登場しない父親も,
かつてはハーモニカを吹いて遊んでくれる
優しい父親だったこともあるようですが,
戦地に赴いてから人が変わってしまったようで,
今はどうしようもない父親だけど,
戦争の被害者でもあるのかな,と。
深澤さんは高校生と言っても通りそうな初々しさがあり,
いくら何でも若すぎじゃ…と思ったら,
永山が事件を起こしたのは19歳だったのですね。
生きるのに必死な様子が伝わってきました。
4人の被害者(吉田テツタ,本間剛,小野健太郎,辻親八)は
息の合った演技で,ストーリーテラーの役割も果たしていました。
たまたま永山と居合わせたばかりに殺された方々は,
一番の被害者であることに変わりはないです。
母親代わりの姉(清水直子)は,
一見優しくて面倒見のよい姉ですが,
実は精神を病んでいるし,幸せな人が全く登場しません。。。
が,ことさらに重々しく描かれているわけではなく,
また,時間を行ったりきたりしたり,
永山の妄想が描かれていることがうかがえたりして,
どんよりした気持ちになることなく,
客観的に観ることができる作品でした。
途中で気になったのが,勤務先の社長に言われて
戸籍を送ってもらう場面。
「住所が網走無番地になっている。役所で番地を入れてもらって。」と
永山が母に頼むんですけどね。
戸籍に住所は書いてないよなぁ,と。
「~で生まれる」という記載があるから,
それが住所地である可能性は高いですが,
住所を証するのは住民票ですからねぇ。
本籍地なんて,好きなところに置けますし。
(多少の語弊はあるかもですが…)
実際,私の本籍地は行ったことも無い場所です。
1966年には既に住民票は存在してましたが,
住民票制度ができたのが1951年なので,
永山が生まれた時はまだなく,
彼の中では戸籍=住所を証するもの,
という認識だったのかもしれないですね。
終演後,15分程度のアナザーストーリーの上演がありました。
母編と姉編があって,私の行った時は姉編でした。
大学進学を目指して勉強する姉が,
妊娠,中絶を経て,婚約破棄,精神を病んでしまうまでが
姉の一人芝居で描かれていました。
病んだから婚約破棄されたのか,
婚約破棄されたから病んだのか,
そこらへんの前後関係はよくわかりませんでしたが,
痛々しかったです。
流氷に乗って遊んでいた男の子が,
流されていく様が語られる場面があったのですが,
舞台上にあった亀裂は,
網走にやってくる流氷の亀裂を表していたのだろうな,と。
シンプルながら,示唆に富んだセットだなと思いました。
また,いつもと雰囲気の違う作品を観られて良かったです。