元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「メゾン・ド・ヒミコ」

2005-11-19 15:19:54 | 映画の感想(ま行)
 監督・犬童一心、脚本・渡辺あやという「ジョゼと虎と魚たち」のコンビによる新作は、ゲイのための老人ホーム「メゾン・ド・ヒミコ」を舞台にした父と娘の葛藤劇だ。

 前作と同様、登場人物達の心のひだを無理なく掬い取る犬童演出に感心する。“余命いくばくもない父の看病をする娘”と書けば聞こえは良いが、同性愛をカミングアウトして家族を捨てた父親とその仲間たちは、娘にとって嫌悪の対象でしかない。彼女にしたところで田舎の中小企業で働く事務員に過ぎず、やるせない日常を漫然と送るだけだ。しかし、父の“恋人”に対するほのかな想いが、ヒロインをして徐々に他者に向き合わせてゆく、そのプロセスの丁寧な描写には好感が持てる。

 前回の身障者にしろ今回のゲイの老人にしろ、社会のアウトサイダー達とのコミュニケーションの可能性と共に、それでも微妙な屈託を捨てられない“弱さ”まで丹念にフォローする作劇を見るにつけ、作者の人間に対するポジティヴな視線を感じて快い。

 キャラクターもすべて“立って”おり、柴咲コウがすっぴんで演じる主人公、オダギリジョーの海千山千の外見の内に秘めた純情さ、山田洋次監督作とはうって変わった役柄にチャレンジした田中泯のカリスマ的な存在感、そして波瀾万丈の人生を笑い飛ばすかのように明るく日々を送る老いたゲイの面々には泣けてきた。

 細野晴臣の音楽も素晴らしい。犬童監督と渡辺あやはこれからもタッグを組んで作品を世に問うて欲しい。
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「ターミナル」

2005-11-19 15:12:06 | 映画の感想(た行)
 フランス映画「パリ空港の人々」と同じ題材だが、こちらは本国のクーデターにより主人公が国籍を喪失するという点がドラマに切迫感を与えている。だからこそ、単なる“人情もの”とも思われる中盤以降の展開が巧みに“中和”されて違和感の少ないものになっている点は納得だ。

 キャサリン=ゼタ・ジョーンズ扮するスチュワーデスの描き方は不十分で(まあ、大人の女性の扱いが下手なスピルバーグだから仕方がないけど)、彼女との恋もあまり必然性がないが、その分二人を盛り上げようとするインド人掃除夫はじめ周囲の“空港内亡命者たち”の奮闘ぶりには泣けてきた(笑)。

 上映時間が少々長く、その割には主人公がニューヨークに来た“目的”に関する終盤の展開が薄味に過ぎるのが気になるものの、まずはウェルメイドのヒューマン・コメディとして評価して良い。

 まるで本物かと思うほどの見事なターミナルのセットと、久しぶりのフィジカル・ギャグで芸人根性を見せるトム・ハンクスにも拍手だ。
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「ニュースの天才」

2005-11-19 15:06:15 | 映画の感想(な行)
 (原題:Shattered Glass)アメリカの一流誌で実際起きた記事捏造事件の映画化だが、物語の持って行き方に無理がある。

 まず、ヘイデン・クリステンセン扮するデッチあげの作成者を糾弾する以前に、こういう徹頭徹尾ウソだらけで、しかも調べれば内容の怪しさが直ちに判明するような記事をチェックもせずに載せてしまう“一流ジャーナリズム誌”とは何なのかと思ってしまうのだ。

 編集長こそ40代だが、編集委員は全員学生に毛の生えたような若造ばかりで、30代の中堅や50代のベテランの顔はない。トラブルが起きても馴れ合いのまんまで乗り切ろうとする。そんな彼らがただ勢いのままに書き殴った文章が活字になり、それを政治家まで愛読しているという実状。そのあたりを映画は“撃つ”べきではなかったのか。かといって捏造記者のプロフィールもうまく描けておらず、これを見る限りはただ“アホな奴がヘタ打った”としか思えない。

 本当はいろんな事情があったのだろう。だが、この映画は表面を薄くなぞっただけだ。結果“現実”に完全に負けている。

 これがデビュー作となるビリー・レイの演出は丁寧だが、脚本に問題がある以上大した成果には結び付いていない。「大統領の陰謀」などの足元にも及ばない出来に終わっている。
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「コラテラル」

2005-11-19 15:03:29 | 映画の感想(か行)
 うーん、どちらかといえば凡作の部類ですな。何より、一晩で5人も始末しなきゃならない殺し屋が、行きずりのタクシーを使うという設定自体がダメ。

 そして、決して顔を見られない伝説の仕事人という触れ込みながら、真夜中とはいえサイレンサーも付けずに街中で銃をぶっ放すほど無神経だし、そのせいか所轄の刑事さえその名を知っている事実は噴飯もの。さらに、前半出番が多かった麻薬課の刑事の行動が何の伏線にもなっていないお粗末さ。

 マイケル・マンの演出は対象を突き放したクールなタッチが身上で、使用楽曲のセンスの良さも併せて観ている間はまあ退屈しないレベルには仕上げているが、脚本がこうも穴だらけだとマジメに感想を書く気も失せてくる。

 トム・クルーズには珍しい敵役も“何をやっても、しょせんトム君”という具合に凄味も危うさも全く感じられないのは致命的だ。運転手役のジェイミー・フォックスは可もなく不可もなし。終盤の活劇場面もアイデア不足。

 唯一良かったのがライブハウスでのジャズ演奏と、それに続くウンチクの披露。たぶん監督の趣味だとは思うが、ジャズがアメリカでは滅びかけているジャンルだということを切々と訴えている。いっそのことジャズ関係のドキュメンタリーでも作っていれば良かったのだと思う。
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「ブラザーズ・グリム」

2005-11-19 07:44:40 | 映画の感想(は行)
 ダークで、しかも盛り上がりに欠ける展開。脳天気なファンタジー・アクション物を期待すると裏切られる。かといって、テリー・ギリアム監督らしいブラックでひねくれた世界観を堪能出来るかというと、それも不十分。何とも中途半端な映画なのだ。

 そもそもギリアムは今でも“カルト的人気を誇る作家”なのだろうか。彼の才気がほとばしっていたのは「フィッシャー・キング」(91年)までではないか。意地悪な言い方をすれば、満を持して臨んだはずの「The Man Who Killed Don Quixote」が未完に終わり、それと共に彼の“先鋭的作家”としてのキャリアもエンドマークを迎えたのではないかと思う。

 もっとも、この映画の美術セットだけは優秀だ。19世紀ドイツの雰囲気、不気味な森の描写は特筆もの。しかし、グリム兄弟を演じるマット・デイモンとヒース・レジャーは、まるで個性を封じられたかのように精彩がない。唯一モニカ・ベルッチ扮する敵の首魁だけは目立っていたが、それが作者の狙いだとしても、主役の軽すぎる存在感との「差」が目立つばかりだ。

 どうせなら「赤ずきん」や「ヘンゼルとグレーテル」などの“ギリアム解釈版”のオムニバスものでも作ってくれた方が良かった(まあ、客は呼べないだろうが ^^;)。
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「運命を分けたザイル」

2005-11-19 07:41:50 | 映画の感想(あ行)
 (原題:TOUTCHING THE VOID)85年、実在の登山家ジョー・シンプソンとサイモン・イェーツが史上初めてペルーのシウラ・グランデ峰西壁を制覇した際に起こった遭難劇の真相を描くドキュメント・ドラマ。

 とにかく、事件を忠実に“再現”しようとするスタッフ・キャストの姿勢に驚嘆する。ベースキャンプでさえ富士山より標高が上で、薄い空気と極低温にもめげず困難な撮影に邁進した彼らには敢闘賞を送りたい。一方が助かるためにザイルを切断した事実については正直言ってさほど衝撃的ではない。断腸の思いであることは確かだが、あの局面では仕方がないと言える。それよりも印象的なのは、こんな修羅場を経験してもなお、主人公たちが現在も山登りを止めていないことだ。

 映画は遭難の危険性を帳消しにするぐらいに山の魅力を映し出す。特に新雪が積もって頂上付近に思わぬフォルムを作り出す映像は、この世の物とも思えぬ美しさだ。主人公の“山は日々の雑事をすべて忘れさせてくれる。身体の隅々までリフレッシュできる”という意味のモノローグが真実味を帯びて伝わってくる。危険を冒してまで山に惹かれる“懲りない人間性”を活写できたことが映画の成功の理由だろう。

 ケヴィン・マクドナルドの演出は力強く、ラスト近くの展開は“助かる”と分かっていても手に汗握る。英アカデミー賞の最優秀英国映画賞受賞作でもあり、誰にでも薦めたい映画だ。
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「火火(ひび)」

2005-11-19 07:40:16 | 映画の感想(は行)
 信楽焼の女性陶芸家・神山清子と、白血病のため若くして世を去った息子・賢一の実話の映画化。

 これは役者を見る映画だ。まず、ヒロインを演じる田中裕子が素晴らしい。飄々とマイペースを貫いているようでいて、芸術に対する執念は人一倍。自分に厳しい分、息子にも甘さは見せない。しかし誰よりも息子を愛している。峻厳な父性をも持ち合わせた一種理想的な母親像を何と見事に表現していたことか。

 息子役の窪塚俊介も好演だ。ワンパターンの演技しか出来ない兄・洋介とは違い、役作りを一から積み上げてゆく真摯な態度が嬉しい。今年度の新人賞レースを賑わせることだろう。

 思い込みの激しい弟子に扮する黒沢あすかや甥想いの叔母役の石田えりなど、キャストのほぼ全員が“語るに足る仕事”をしている。役者を徹底的に追い込む高橋伴明の演出スタンスの賜物だと思う。

 映画は後半“骨髄バンクの重要性”という社会的PRに重きを置いた啓蒙的展開になってゆくのがいささか鼻につく。たぶん製作母体に“その筋の団体”が関与していたのだろう。主張自体には文句はないが、その部分だけが強調されているため映画全体のバランスを崩している。必要最小限に抑えた方が逆にメッセージ性も色濃く出たはずだ。

 とはいえ作品自体のヴォルテージは高く、十分観る価値はある。劇中に登場する窯は本物で、作品もほとんどが神山親子の手による。梅林茂の音楽も良かった。
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