元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「血と骨」

2005-11-22 21:32:37 | 映画の感想(た行)
 キャストが多彩で、しかも皆大熱演で画面は始終騒々しい。だが、中盤以降は眠気さえ覚えてしまった。理由はビートたけし扮する暴力極道オヤジの描き方が中途半端なためである。

 こういうキャラクターは内面を鋭くえぐって容赦なくアイデンティティーに迫るか、あるいは理解不能の怪物として徹底的に突き放すか、どちらかに専念するべきだ。ところが映画の主人公は見境なく暴れると思ったら身障者の愛人に対して優しい態度を取ったり、何やら一貫性に乏しい。中心人物がそんな調子だから、周りがいくら盛り上げようとしても、映画自体はバラエティ番組にしかならないのだ。

 これはたぶん長大な原作を2時間に収めようとした無理が祟っているのだと思う。映画の冒頭に希望に満ちた表情で大阪に辿り着く若き日の主人公(伊藤淳史)と、ヤクザな中年男とは全く結び付かない。彼が夢破れて絶望して結局“世の中カネや。女子供はモノと一緒や!”というニヒリズムに浸るようになる、そのプロセスこそを描くべきではなかったのか。

 当然そこには戦中・戦後の日本社会における在日朝鮮人の位置という、かなりデリケートかつハードな題材を扱う必要性が出てきて、製作側として二の足を踏んだ事は想像に難くない。だが、それにチャレンジしないと映画化する意味がないと思う。

 崔洋一の演出は大きな破綻はなく、この監督にしてはマシな方。時代考証に裏打ちされたセットは見事だ(まあ、最近の「ALWAYS 三丁目の夕日」には負けるけど)。出演者陣では前半呆気なく退場してしまうオダギリジョーと、薄幸の娘を演じた田畑智子が印象に残った。
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「レディ・ジョーカー」

2005-11-22 21:29:53 | 映画の感想(ら行)
 平山秀幸の演出は「OUT」などの頃より進歩しており、重厚なタッチを見せる。渡哲也や大杉漣、長塚京三らの演技も申し分ない。

 しかし、映画としては欠陥品だ。なぜなら犯人グループの動機が不十分で内面もほとんど描けていないから。だいたい、半世紀前の労使問題を今になって蒸し返そうとする主人公の行動からして理解困難である。そのへんを手練れのキャストの存在感で乗り切ろうとしたのだろうが、脚本のフォローがなければどうしようもない。徳重聡扮する刑事の扱いに至っては手抜きもいいとこ。

 たぶんそれらは「グリコ・森永事件」を発想のベースにした高村薫の長編(私は未読)を2時間に押し込めようとした無理が祟っているのだろう。だが、小説と映画とは別物である以上、映画では映画らしい思い切った脚色が必要になる。それを怠って(たぶん)愚直なまでに原作を追おうとするのは得策ではない。これは監督・演技陣の責任ではなく、プロデューサーの配慮不足と言うべきだろう。

 撮影や音楽は万全なだけに、惜しい出来である。
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「僕の彼女を紹介します」

2005-11-22 08:47:07 | 映画の感想(は行)
 同じ監督・主演女優のコンビによる「猟奇的な彼女」に続いて“前半はお笑い、後半で泣かせ”という二段構造を取っているが、相変わらず作劇は上手くない。

 冒頭のヒロインの“投身自殺(?)”のシーンをはじめ、普通の映画ではクライマックスになるような場面をずらっと並べすぎて(しかも、それぞれの撮り方は万全とは言い難い)、ラスト近くの本当の見せ場があんまり盛り上がらないのだ。そもそも、このネタで2時間を超えること自体が、脚本の不手際を如実にあらわしている。

 だが、やはり今回も主演女優の魅力は圧倒的で、ドラマ運びの難点など笑って許してしまいたくなるのだから世話はない(爆)。つくづくチョン・ジヒョンはアジア屈指の若手女優だと思ってしまった。キレイな黒髪と堂々とした体格。どんなに粗暴な外れ者の婦人警官を演じようが、品の良さは隠しようがない。全編プラトニックな関係を押し通しても全く不自然ではないところも大したものだ。この監督(クァク・ジェヨン)とのコンビ作がまた製作されたならば、やっぱり観に行きたくなる。

 あと、X-JAPANの曲が“泣かせどころ”で高らかに響くのは日本人の観客としては苦笑いしてしまった。
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「オールド・ボーイ」

2005-11-22 07:03:43 | 映画の感想(あ行)
 カンヌ映画祭で「華氏911」と大賞を争った韓国映画だというが、どうも私は好きになれない。まず、画面が汚い。そして出演者たちの演技が胸焼けを起こすほど過剰。15年ぶりにシャバに出た主人公が日本料理屋(?)で生ダコを食うシーンがあるが、たとえて言うなら食いたくないのに無理矢理にタコの活き作りを口に押し込められたような不快感を覚えてしまうのだ。

 まあ、以上は私の「感想」に過ぎないのだが、それを抜きにしても何とも釈然としない筋書きではある。前半、主人公がコツコツと穴を掘って外に出ようとするシークエンスが何の伏線にもなっていないのを始め、突然解放されたことをまったく疑問にも思わず、さっさと自分の「復讐」に専念してしまうのは脳天気に過ぎるのではないか。

 彼に絡む若い女の「正体」も中盤で観客に勘付かれてしまうし、さらに「監禁の理由」に至っては正直な話アホらしいとしか言いようがない。思わせぶりなエピローグも蛇足だ。

 パク・チャヌクの演出は粘着質に過ぎ、ウェルメイドに徹した前の「JSA」とは雲泥の差。主演のチェ・ミンシクを含め、キャストには個人的に何の魅力も感じなかった。ただし、この血の気の多さはカンヌ審査委員長のタランティーノ好みであった事だけは納得できる。
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