元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「誰も知らない」

2007-06-01 06:51:37 | 映画の感想(た行)

 2004年製作。実際に起きた事件を元に、大人に見捨てられた4人の幼い兄妹をめぐる悲劇を描いた是枝裕和監督作品。

 「火垂るの墓」の低調な二番煎じという印象を持った。高畑勲と是枝裕和の違いは“世間”をちゃんと認識しているか否かである。私は「火垂るの墓」を戦時中の話ではなく“現代の話”だと思っている。社会的弱者に対する“世間”の冷たさを“戦時中(及び終戦直後)”という設定を借りて“一元化”することに成功。それによりドラマの普遍性・悲劇性が高まった。

 対して是枝は最初から“世間”を捨象している。学校へも行かず、ズタボロの服を着て公園で洗濯している子供達の周囲に存在しているはずの“世間”に対する考察は微塵もなく、単に“世間は何もしてくれない”とばかりに勝手に達観し、子供だけの危なっかしい世界を思い入れたっぷり(かつまた、お涙頂戴的)に描くこのスタンスは、断じて受け入れられない。

 映画のモデルとなった「西巣鴨子供置き去り事件」が起こった80年代ならいざ知らず、舞台を児童虐待が社会問題化した現代に漫然と持ってくる無神経ぶりに呆れるばかりである。実際の事件は映画よりも数段悲惨だというのに、何やら“子供たちだけの暮らしの中にも、幸せな時間が流れていたのだ”と言わんばかりの夜郎自大な態度を隠そうともしない。

 前作の「DISTANCE」もそうだったが、いい加減“自分の世界”ばかりに浸るのも止めてもらいたいものだ。

 それでも、今までの是枝作品の中で一番マシなのは確かで、それは身持ちの悪い母親に扮するYOUの好演、そして子役の素晴らしさによる。特に柳楽優弥は評判通りの存在感だった。
コメント
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