元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

藤倉良「環境問題の杞憂」

2007-06-12 06:43:14 | 読書感想文
 新潮社新書の中の一冊だ。こりゃヒドい本である。環境問題が声高に叫ばれている現状だが、その中に“非・科学的”な見方が蔓延しているのではないか・・・・といったことを科学知識で冷静に捉え直そうという意図は大いに良い。しかし、論旨は終始蛇行運転で要領を得ないままの言い回しが延々と続くのみ。具体的な対策など、何も提示しない。いわば酒の席での与太話を採録したようなものだ。

 たとえば、日本は“健康的”な国だと筆者は言う。なるほど、データだけを見れば諸外国よりは“健康的”なのかもしれない。ところが作者の考察はそこで終わっている。我が国が今後どうあらねばならないか、全然提案していない。さらに彼はドイツとの比較において、環境対策に関しては日本はそうひけを取らないことを示し、“ドイツは環境大国だ”と持ち上げる人々(どの程度いるのか知らないが ^^;)を揶揄する。はっきり言って、読む側はどこの国が環境に優しいかどうかなんて興味はないし、そしてどの国が環境に“優しくない”のかは、とっくの昔に知っている。

 そして得意満面で披露する“環境問題は費用対効果が云々”という経済ネタも、たぶん経済学の文献なんて一冊も読んでいないであろう単なるドンブリ勘定に終始。環境問題に関心のある層は、現状の科学データばかり追っているわけではない。自分たちの住む場所がどうなっているのか、そして将来はどうなるのか、そんな不安を皮膚で感じているのである。少なくとも、地方が疲弊して山里が荒廃してゆく様子を見て“科学的には環境問題の範囲ではない”と無視する杓子定規な“学者バカ”の感覚とは対極にあるのが一般庶民の感情なのである。

 そもそも作者にとって誤算だったのは、アカデミー賞を賑わせた「不都合な真実」が全国公開され、かなりの支持を集めたことである。手持ちの知識を断片的にひけらかすだけの本書より、地球温暖化がどんなに深刻かを力業で説明するゴア元・副大統領の方が数段説得力がある。ヘタすりゃあの映画を観た者の方が、この本の作者より詳しくなったりして(笑)。とにかく“環境問題に取り組むことは経済成長を阻害しない!”というゴアの“正論”の前には、本書の作者の小賢しいドンブリ勘定など消し飛んでしまうのは確かだ。

 読み終わって感じるのは、元官僚でもある作者の“日本は環境は悪くないですよ”という現状に対する無定型な阿諛追従だ。本気でそう思っているのなら、環境庁にいたこともある自分のキャリアは“すべて無駄でした”という自己批判から始めるべきではないか。作者がこんな内容の講義を大学でやっているとすれば、聴講させられる学生はたまったものではないだろう。
コメント
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