(原題:Notes on a Scandal)実に不快だが、観る者をとらえて離さない、悪意に満ちた快作である。
舞台はロンドン郊外の中学校。気難しい皮肉屋で定年近くになっても伴侶に恵まれないオールドミスのベテラン教師の、奔放な新任の女教師に向ける暗い“欲望”を描く。とはいっても同性愛絡みではない。いわば“友情”の押し売り相手を追い回すという、タチの悪い欲求だ。
このオールドミスにとって、友情とは“双方向”ではなく、一方的な主張のはけ口や自分の都合の良いように動いてくれる人間をゲットすることである。基本的な人間関係構築のメソッドも知らずに年齢ばかりを重ねた初老の女の荒涼とした内面、そしてたぶん一度も他人から愛されたことがないであろう彼女のそれまでの人生を考えると、まるで映画館の空調温度が5度ばかり下がったような寒々とした雰囲気が漂う。
演じるジュディ・デンチが圧巻で、常軌を逸したキャラクターをまるで身の回りにいてもおかしくないような存在感を持ってスクリーン上に実体化させている。
トラブルに巻き込まれる相手の若い女教師もなかなか香ばしい人物で、年の離れた夫と“若気の至り”で結婚したものの、ちょいと気になる男子生徒と性的関係を持ってしまうウルトラ級の軽率度を披露している。しかも本人の反省はゼロ。悪いことに現場をくだんのオールドミスに目撃されてしまい、早々に“友情”の押し売り先になるように脅迫される。演じるケイト・ブランシェットがまた素晴らしく、どうしようもない愚かな女を嫌悪感たっぷりに表現。
映画はこの二人の“バカ比べ”を、皮肉っぽさ100%の斜に構えた視点で展開させるが、リチャード・エアーの演出には腰の強さがあり、途中にいささかの弛緩部分やリズムの乱れがない。さらに、観る者の中に二人の女のキャラクターが多少なりとも通じる部分があるように思わせる、大仰にならずタイトだが強靱なリアリズムを内包させているあたりが天晴れだ。楽曲の使い方も適切で、観る価値十分の佳篇だ。