元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「スパイダー 少年は蜘蛛にキスをする」

2007-06-05 06:45:24 | 映画の感想(さ行)

 (原題:Spider )2002年作品。精神を病んだ男が、母親の死についての記憶をたどっていくうち、意外な真実が浮かび上がっていくという怪異譚。デイヴィッド・クローネンバーグ監督作品としては「戦慄の絆」や「M・バタフライ」と同様“非・ドロドロ系”に属する映画ながら、屈折度は「イグヂステンス」などを凌ぐ。

 何よりレイフ・ファインズの筋金入りの異常演技が素晴らしい。完全にイッちゃってる目つきといい、意味不明の文字(らしきもの)を一心不乱に小さなノートに書き付けている様子といい、常人とは思えない服装といい、誰が見ても立派なキチ○イだ。「レッド・ドラゴン」でのパフォーマンスなど、彼にとっては“朝飯前”の仕事でしかなかったことが良くわかる。

 主人公が劇中で振り返る“自分の半生”とやらの疑わしさは、それが彼自身の回想というフィルターを通して描かれること自体で早々と底が割れてしまうが、軽症の精神病患者専用のドミトリーになぜか主人公みたいな“凶悪な過去を持つ者”がいるという、このドラマの設定自体も怪しいものだ。要するに、何が本当で何がウソなのか、観客自身も迷路に迷い込んでマゾヒスティックな隔靴掻痒感を味わおうという、そういう映画なのである。

 主人公の母役にミランダ・リチャードソン、父はガブリエル・バーンという配役も実にウサン臭くて良い。観て楽しい映画ではないが、好事家には受け入れられよう。
コメント
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