転校した女生徒と周囲とのコミュニケーションを題材としているあたり、どうしても市川準監督の劇場用映画デビュー作「BU・SU」を思い出さずには居られない。しかし出来は「BU・SU」よりも落ちる。理由は明らかで、素材として携帯電話を使用しているからだ。
「BU・SU」が作られた87年には携帯メールなんて存在しない。相手の心に踏み込むには、実生活において相手にぶつかっていくしかない。もちろん“超えられない壁”が行く手を阻む。でも、その障害をひとつひとつ“具体的に”乗り越えていくことに説得力と観る者の感慨が生まれる。断っておくが、小道具としての携帯メールそのものを否定しているわけではない。ただ、こういう筋書きのドラマではテーマへのアプローチがどうしても一つ余分に手順を踏んでいるようで、もどかしいのだ。
新しい学校に不安を持っている転校生に匿名でアドバイスする主人公のメールの内容が“奇数人のグループを見つけて合流する”だの“登下校時はさりげなく真ん中をキープする”だのといった、はっきり言って“鼻で笑っちゃう”ような下世話なことばかり。それも当たり前で、そんなアドバイスをする主人公にしたところが、ネット上に書いてあるハウツー本の内容みたいな底の浅い事柄を得意満面で書き連ねているに過ぎない。
もちろん終盤には主人公のやり方の浅はかさが露呈するのだが、話がネットを介した“オンライン”ではなく最初から“オフライン”であれば段取りとして簡単に済むし、すぐさま次のステップに移れるはずだ。某携帯電話会社がスポンサーの映画であり、全編ケータイの機能の紹介みたいになっているところも閉口するが、逆にケータイでのコミュニケーションの不完全ぶりを明示しているのは皮肉だ。デジカムによる荒い映像も大いに盛り下がる。
それでも途中で席を立たずに最後まで観られたのは、ヒロイン役の成海璃子に尽きる。「神童」に続いての主役登板だが、14歳ながら小学生から高校生まで演じきるパフォーマンス能力、整ったアダルトな顔立ちと物腰で、ヘタをすると大学生やOLまで演じられそうな存在感。彼女に比べれば共演の前田敦子(彼女が成海より年上らしいが)が頼りないガキんちょに見えてしまう。それどころか大人の共演者さえも影が薄い。唯一タメを張っているのは田口トモロヲぐらいだ(笑)。
結論として、たぶん登場人物と同世代の若者にはアピールするが、手練れの映画ファンにすれば青臭さが気になるといったシャシンだろう。主演が成海じゃなかったらあまり観る価値はない。