元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「山のあなた 徳市の恋」

2008-06-09 06:31:13 | 映画の感想(や行)

 製作意図がさっぱり見えない映画である。本作の“元ネタ”になる清水宏監督による昭和13年製作の「按摩と女」には某映画祭で接したことがあるが、正直言ってあまり上等なシャシンではない。今ではお目にかかれない身体障害者をネタにしたギャグが興味深かった程度で、出来としては水準の人情コメディである。これをなぜ今になってリメイクしなければならないのか、最後まで納得できるようなモチーフにはお目にかかれなかった。

 山の温泉場で仕事に励む徳市という盲目の按摩が、東京から来た何やら訳ありの若い女を気にかけるうちに、淡い恋心を覚えてしまうという設定だが、ストーリーは典型的プログラム・ピクチュアであった原作をなぞっているため、筋書きでの面白味はない。ならば斬新な演出が成されているかといえば、まったくそうではない。あくまでも“元ネタ”に準拠しているだけだ。

 キャスト陣が目を見張るような快演を披露しているわけでもない。徳市に扮する草なぎ剛をはじめ、加瀬亮や堤真一、三浦友和といった脇を固める面々も、まあ予想通りの仕事ぶりである。ヒロイン役のマイコとかいう新人に至っては、見かけこそ純和風の美人で絵にはなるが、演技面では“脚本通りやりました”というレベルで話にならないし、もちろん魅力なんて感じられない。

 監督は石井克人である。彼は怪作「鮫肌男と桃尻女」(99年)で大いに観客を湧かせたものの、続く「PARTY7」(00年)は「鮫肌~」の二番煎じみたいなスタイルで何とか場を保たせた感が強かった。そして2003年に撮った「茶の味」は打って変わった静かな田園劇(?)で驚かせたが、内容の薄さは如何ともし難かった。この「山のあなた 徳市の恋」はもちろん外見面では「茶の味」の路線を踏襲したものだが、昔の映画の忠実なリメイクである以上、作家性を出す余地は限りなく小さい。

 あえて言えば彼の作家性なんて「鮫肌~」で見せたドタバタ劇以上のものは(今のところ)存在しないと思う。かなり意地悪な見方をすれば、彼は自分の作家表現の“引き出し”が小さいことに気づき、でもそれを見透かされないように旧作の再映画化という題材でこの場を凌いだのでは・・・・とも思える。

 ホメるべき点を一つだけあげるとすれば、映像の美しさだろう。初夏の伊豆の風景は、森林浴でもしたくなるほど清々しい。環境ビデオみたいな楽しみ方は、あると言えるかもしれない。
コメント (2)
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