元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「夢がほんとに」

2008-06-22 06:45:38 | 映画の感想(や行)
 96年のアジアフォーカス福岡映画祭で観たイラン映画。マスコミ関係の会社に勤めるサデグ(パービズ・パラスラツイ)の妻は、ここ数日間“夫が沙漠で戦死してしまう”夢を見てうなされていた。折しもサデグは自宅の建設費用を調達するため、気の進まないイラン=イラク戦争の取材に出かけるハメになる。同行するベテラン戦場カメラマンのキャマリ(アームド・アジ)の御機嫌を取るため、あたかも前線に出て取材したくてたまらないような素振りをするサデグだが、本心はもちろん戦場なんてまっぴらで、テヘランに帰りたくてたまらない。

 ところが、自動車の部品を隠したり仮病を使ったりして前線から遠ざかろうとすればするほど、なぜか戦場へどんどん近づいていく。気がつけば妻の見る夢とまったく同じ状況に置かれてしまったサデグ。果たして夢の通り悲惨な最期を遂げてしまうのか。監督はドキュメンタリー出身で若手のキャマル・タブリジ。

 製作当時はイ・イ戦争が終わってまだ日が浅いにもかかわらず、あの戦争をネタにしたコメディが作られたことは驚きだ。しかも、単に戦争を笑い飛ばそうとするだけではなく、シリアスな戦争ものとは違った視点で戦争の真実を明らかにしようとする、けっこう野心的な作品でもある。たとえは悪いが岡本喜八の「独立愚連隊」あたりと近いものがあるかもしれない。

 偶然が重なって、主人公の意に反する境遇にズルズルと追い込まれていくブラックなギャグの盛り上げ方はうまい。特に、戦争嫌いなのに周囲から“戦場の危険を顧みない突撃リポーター”と思われて本人もそれを否定できない状況や、爆風で道路の立て札がムチャクチャになり、それを知らない主人公が道を間違えてヤバい場所に行き着くあたりはかなり笑えた。

 とうとう最前線どころか敵の領地の中に孤立するサデグ。押し寄せるイラク軍戦車を対戦車砲ひとつで何とか撃退した時、彼は初めて戦争の悲惨さを知る。また“戦場に行った”という事実だけで手の平を返したように態度を変える周囲の人々の浅はかさをも実感する。ラスト、今度は本気で戦争の取材に行って真実を伝えようと決心する主人公にはある種の感慨さえ覚えてしまう。

 ウディ・アレンにも通じるパラスツイの小心者演技は絶品。それにしても“アラーの御加護によって難を逃れた”と言う主人公だが、対するイラクだってイスラム教国。同じ宗教を信じる者同士が争う不条理さを感じずにはいられない。
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