可もなく不可も無しの時代劇アクションである・・・・と言いたいが、かなり“不可”の部分が多い。最大の問題点は今回主人公に据えた山の民の武蔵に扮する松本潤である。
ジャニーズ事務所の人気者であり観客動員に貢献できると踏んでの起用だろうが、これが全然サマになっていない。役柄上、直接殺陣を演じる場面は少ないものの、身体のキレがイマイチのように見える。まあそれは立ち回りの指導やカメラワークが練り上げられていなかったという見方もできるが、最悪なのは御面相だ。ひげ面がまったく似合わない。これじゃそのへんのチンピラである。しかも外見が低調なのにヘンに“二の線”を狙っているおかげで、セリフと演技が浮きまくりだ。
相棒の新八を演じる宮川大輔の方がはるかに違和感が少ない。六郎太役の阿部寛は三船敏郎を意識してか目を剥いた力演で健闘しているし、雪姫に扮する長澤まさみは初の“汚れ役(のようなもの)”に挑戦して、そこそこの成果は上げていると思うのだが、主役がこれでは気勢が上がらない。
樋口真嗣の演出はいつも通り大味で特筆されるべき点はない。CGの使い方だけは上手いが、活劇の段取りはどうにも素人臭い。カメラは腰高で、時代劇らしい奥行きや重量感とはまったく縁がない。六郎太と敵の首魁(椎名桔平)との斬り合いにしても、あり得ない展開が目立つし、クライマックスの脱出シーンなんかちゃんとした説明もないままに終わっている。要するに、観た後は大して印象にも残らない凡庸なシャシンだ。
で、本作に言及する上でどうしても避けて通れないのが、どうして黒澤明監督の名作を今になってリメイクしなければならないか・・・・ということだ。日本映画の過去の実績におんぶに抱っこで、まずはオールドファンを取り込もうという意図しか感じられない。ついでにアイドル起用で若いファンも動員させようという魂胆だ。現代に通じる何かを表現しようなどという殊勝な製作動機など微塵も存在しない。人気キャストを揃えての時代劇製作は大いに結構だが、どうしてもっとオリジナルな企画で勝負できないのか。今の日本映画が置かれている閉塞的な状況を如実に表現しているような体たらくではないか。
なお、一般観客にそのあたりを見透かされたのか、封切り当初は興収第3位とスタートダッシュに失敗し、その後は動員数もダラ下がり。いい加減、古いネタに不細工な化粧を施したインチキ商売に見切りを付けた方が良いと思う。