元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「イースタン・プロミス」

2008-06-23 06:36:19 | 映画の感想(あ行)

 (原題:EASTERN PROMISES)デイヴィッド・クローネンバーグ監督作品にしては“鬼畜度”が不足しているように思えるが(爆)、これはこれで良くまとまった暗黒街映画の佳作である。英国におけるトルコ移民の問題を描いた「堕天使のパスポート」の脚本担当スティーヴ・ナイトが今回はロンドンの闇社会に暗躍するロシアンマフィアの生態を浮き彫りにする。

 病院に運び込まれ、出産の後に死亡したロシア人少女の身元を調べるうちに、助産婦であるヒロインは裏の世界に踏み込んでしまう。少女の遺したメモにより彼女が最初に足を運ぶのは、表向きは単なるロシア料理店(しかも出てくる料理は美味そうだ ^^;)、だが実は暴力団のアジトだという、このギャップがまず凄い。日本のヤクザならば表に金融屋か何かの看板は掲げても、高級料亭や三つ星レストランの体裁はまず取らないだろう(爆)。

 イタリア系や中国系とは違うロシア人による闇組織の生態が紹介されているのも実に興味深く、特に“入会希望者”に対する面接風景や、シンジケートの一員であることを示す入れ墨などは、今まであまり映画で取り上げられたことがないせいか面白く見た。

 組織の性格を代表する二人、ボスの専属運転手(ヴィゴ・モーテンセン)と親分の息子(ヴァンサン・カッセル)のキャラクターが立っている。いつもニヒルで沈着冷静、理詰めの行動を取りながらどこか謎めいたところのある運転手は、ビッグな父の元でコンプレックスを抱えて自暴自棄のように振る舞うボスの倅と名コンビを形成する。両者の掛け合いは娯楽映画らしい軽妙さを装いつつも、内面の深淵を窺うような筆致の確かさを感じさせる。二人が地下室で語り合う場面やラストの処理は味わいがある。

 カッセルの演技も素晴らしいが(まあ、ロシア系には見えないけど ^^;)、モーテンセンの捨て身の演技には圧倒される。一部で評判になっているフ○チンでの大立ち回りは切れ味抜群で、この俳優が新時代のアクションスターであることを如実に示している。ストーリー面はテンポの良さよりも個々の描写をじっくり推し進めていこうという方向性だ。

 ロシアン・コネクションが人身売買の黒幕になっており、それが社会問題化していることも盛り込まれており、その点でも見応えはある。ヒロイン役のナオミ・ワッツは(ちょいと老けたものの)相変わらずイイ女だ。ロシア製の年代物のバイクに跨って走る姿と、最後に見せる母性的な表情とのコントラストも悪くない。
コメント
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