元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「JUNO ジュノ」

2008-06-27 06:35:03 | 映画の感想(英数)

 (原題:JUNO)観ている間はまあ退屈しないが、観賞後は釈然としないものが残る。ひとえにこれは、アメリカと日本との社会観の違いに起因するものであろう。16歳のジュノは同級生の子をうっかり身籠もってしまう。当然育てられるはずもなく、生まれてくる子供の里親を探すのだが、自分の腹を痛めてこの世に生を受けるはずの赤ん坊に対する思い入れが驚くほど希薄だ。

 少しは手放さなければならない子供を愛しく思ったらどうなんだと言いたいが、彼女だけではなく親も友人も感覚が実にドライだ。“ああ出来ちゃった。でも自分では手に余るので誰かに差し上げます”みたいな、不要品のバザーみたいなノリで子供を“流通”の場に出してしまう、その神経は理解できない。脳天気に新聞の里親希望の“広告”まで出す引き受け手の夫婦の態度も同様だ。この映画がアメリカで広範囲な支持を集めたという事実を見ると、米社会の荒廃ぶりが手に取るように分かる。

 病院でジュノを担当する超音波技師が“十代の出産と子育てはロクな結果に繋がらない”みたいなことを言ってジュノとその義母に罵倒されるシーンがあるが、私のスタンスはこの女性超音波技師と一緒だ。軽はずみなコギャルと身持ちの悪そうなオバサンに、カタギの人間を野次る資格なんてない。どう考えてもジュノとその義母には病院でちゃんと患者を扱えるだけのスキルを獲得できるようなオツムは持ち合わせていないのだから(暗然)。終盤の赤ん坊の父親である男子生徒との関係性も、説明不足の極みだ。

 かようにストーリー自体は感心しないが、ラストまで何とか観られたのはディアブロ・コディのシナリオによるセリフの面白さに尽きる。エレン・ペイジ扮するジュノの口から出る、悪態ともジョークともつかない言い回しの速射砲は、画面に玄妙なリズム感を与えて圧巻だ。里親候補夫婦のダンナ(ジェイソン・ベイトマン)との“ロック談義”にも大笑いさせられた。ジェイソン・ライトマンの演出は深みはないがフットワークが軽くて明るい。この点、父親のアイヴァン・ライトマンより上かもしれない。

 とはいえ、上記のような作劇上の不満点がある限り、とても評価するわけにはいかない。オスカー候補になったのは、他のノミネート作品がシリアス路線に過ぎるのでバランスを取ったのかもしれないと、穿った見方をしたくなる(^^;)。
コメント
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