元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「キラー・インサイド・ミー」

2011-05-17 06:40:47 | 映画の感想(か行)

 (原題:The Killer Inside Me)やはりマイケル・ウィンターボトムは三流の監督だ。この作品も実に底が浅く、薄っぺらで、羽根のように軽い。どうしてこんな出来の悪い演出家の元にコンスタントに仕事が回ってくるのか理解出来ないが、まあ、そこは業界の事情というものがあるのだろう(暗然)。

 1950年代の西テキサス。セントラルシティなる田舎町で保安官助手をしているルー・フォードは、真面目な人物として通っていた。ある日、若い売春婦を現行犯で検挙しようと現場に向かった彼は、粗暴で口の悪い彼女の態度にカッとなり、荒々しくレイプしてしまう。これがきっかけで彼の心の中にあった暴力衝動が目を覚まし、歯止めの効かないバイオレンスの嵐に巻き込まれていくという筋書きである。

 要するに、いくら物腰が柔らかく誰からも親しまれている人間でも、腹の中ではロクなことを考えていないという、ありがちなパターンを踏襲しているわけだ。もちろんそれがイケナイというわけではなく、うまく段取りを整えればそれなりの成果は上がる。しかし、この映画は何の工夫もされていない。陳腐で図式的な内面変化のスキームが、これまた退屈な主人公のモノローグによって語られるのみ。

 ここがこうだからこのように殺意を抱きました・・・・という、まるで小学生の作文のような低レベルの叙述が淡々と続くだけだ。申し訳程度にルーの子供の頃のトラウマも紹介されるが、その程度ではまるで物足りない。

 それでも演じる側のヴォルテージが高ければ観客は納得出来るのだが、ルーに扮するケイシー・アフレックをはじめキャストには十分な演技指導が成されていない。どいつもこいつも表面的な小芝居に終始し、ピカレスク映画らしい凄味もドス黒さも皆無だ。こんな調子で映画が続いた挙げ句、作劇を放り投げたような終幕を見せられるに及んでは、出るのは溜め息だけである。

 若い娼婦を演じるジェシカ・アルバは、もう少し大胆なシーンがあってもいいと思うのだが、まるで煮え切らない演技に終始。ルーの恋人役のケイト・ハドソンに至っては、しばらく見ないうちに不用意に太っていて、おまけに妙にオバサン臭くなっているのには脱力した(たとえそういう役柄だからと言われても、萎えてしまう ^^;)。ビル・プルマンやネッド・ビーティなど他のキャストも精彩を欠く。

 原作はノワール小説の代表作と言われるジム・トンプソンの「おれの中の殺し屋」だが、私は読んでいない。ひょっとしたら原作は主人公のキャラクターが良く描けているのかもしれないが、少なくともこの映画版はダメだ。観なくても良い映画である。

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