チエちゃんの昭和めもりーず

 昭和40年代 少女だったあの頃の物語
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第10話 にしゃばあちゃん

2006年11月15日 | チエちゃん
〝にしゃ〟というのは、この地方の方言で「おまえ」「あんた」という意味です。
お主の「ぬし」が訛ったのではないかと思われます。

 にしゃばあちゃんは、チエちゃんに話しかけるとき、必ず「にしゃなあ」と言ってから話し始めます。それで、いつの間にか〝にしゃばあちゃん〟というニックネームが付いたのです。

 にしゃばあちゃんは、おばあちゃんのお母さん、つまり、チエちゃんの曾おばあちゃんです。太った体に、垂れたおっぱいが大きかったことを覚えています。
にしゃばあちゃんの家は隣にあり、500m程でしたので、チエちゃんはおばあちゃんに連れられ、しょっちゅうお邪魔していました。

 ある時、にしゃばあちゃんは言いました。

 にしゃなあ、鼻水たらしてかぜでもひいだが?
 んぢゃ、にしゃばあちゃんのとっておぎの薬やっからな!

 よっこらしょと立ち上がり、台所から重そうに茶色のかめを持ってきました。よく梅干を入れておくあの瓶です。そうして、中からうやうやしく取り出したものは、ドロッとした黒い物体?

 そらっ、喰ってみろ!

チエちゃんは恐る恐る口の中に入れました。
すると、見た目とは違い、甘い、おいしい。
それは、干し柿の焼酎漬でした。もっと食べたいなあと思ったとき、

 これは薬だがんな、子どもはひとっつだげだぞ!

と言われてしまい、がっかりのチエちゃんでした。焼酎に酔っ払ってしまうといけないという、にしゃばあちゃんの配慮だったのでしょう。

 小学生になって、カナを習ったチエちゃんはにしゃばあちゃんの名まえが「テフ」であることを知りました。にしゃばあちゃん、へんな名まえ~。
それから、にしゃばあちゃんのニックネームは、テフばあちゃんに変わりました。

 そして、にしゃばあちゃんの名まえの読み方がマダム・バタフライと同じであることをチエちゃんが知るのは、にしゃばあちゃんが亡くなってからのことでした。
 もう一度、あのにしゃばあちゃんの干し柿の焼酎漬食べてみたいな~。