老人が一人、広い道路を歩いている。何か事件を起こしたのだろうか。画面は淡いモノクロ。2年前「アーティスト」を見て以来だが、ひょっとして舞台は1950年代?!と思いきや、電気店で売られているTVが薄型なのを発見して、これは現代の話だということがすぐに判明する。何とも新鮮なオープニングだ。観客は見事に映画の世界に入っていく。
100万ドルの賞金に当たったと信じ込んだ父親。何と彼はその賞金を受け取りにモンタナからネブラスカまで高速道路を歩いて行こうとしていたのだ。その距離1500km。警察に保護された父を迎えに行った次男は、インチキだと知りつつ、助手席に父と父の夢を乗せ旅立つ。いざ、ネブラスカ!!実は、ネブラスカは父と母の故郷でもあった。“百万長者”になろうとしている男の久しぶりの帰郷に、親せきや知人たちがざわめく。はたして二人を待ち受けていたものとは…。
父親のウディを演じるのはブルース・ダーン。その50余年のキャリアの中では、アンチ・ヒーロー的な役が印象的だが、今回は最も感動的な役に巡り合ったといっても過言ではないだろう。その型破りな演技で、カンヌ国際映画祭をはじめ、多くの主演男優賞を受賞したのもうなずける。オーディオ・ショップに勤める心優しい次男ディビッドを演じるウィル・フォーテも好感が持てる。旅の途上で少しずつ父子のきずなが深まっていくのが何とも心地よい。でもこの二人、いい人なんだけど、ダメなところも・・・。それをうまく補っているのが母ケイトだ。思った通りのことをずけずけ口にしながらも、夫や息子のことをしっかりわかっていて、ちゃんと家族を守っている、男どもには恐ろしい存在。ジューン・スキップの痛快演技に拍手!!
アレクサンダー・ペイン監督はネブラスカ州のオマハ出身。よほど故郷への思い入れが強いのだろう。何と6本の監督作品のうち4本をネブラスカ州で撮影している。ハートランドと呼ばれる、時代から取り残されたようなここアメリカ中西部。その伝統的・保守的な雰囲気が、モノクロ画面にピッタリ合っている。
(HIRO)
監督:アレクサンダー・ペイン
脚本:ボブ・ネルソン
撮影:フェドン・パパマイケル
出演:ブルース・ダーン、ウィル・フォーテ、ジューン・スキップ、ステイシー・キーチ、ボブ・オデンカーク