「北のカナリアたち」から2年、サユリスト待望の新作。映画出演118本目となる本作では、初めて企画も手掛け、モントリオール世界映画祭で「審査員特別賞グランプリ」と「エキュメニカル審査員賞」の2冠受賞という快挙を遂げる。劇中でカフェに集う人々同様、審査員たちも格別の小百合マジックに心が癒された感あり。
美しい海を臨む岬にある「岬カフェ」。店主・悦子は早くに夫を亡くし、一人でカフェを営んできた。そこで飲むとびきりおいしいコーヒーと、悦子との和やかな語らいが村人たちの楽しみ。“永遠のマドンナ”吉永小百合ならではのヒロイン像だ。そんな彼女をカフェの裏で「何でも屋」を営みながら見守る甥の浩司。自由気ままに生きる岬村の“問題児”だが、その純で一途な人柄は村を引っ張っていく大事な原動力でもある。阿部寛のダイナミックな身体とコミカルな演技が役にピッタリだ。常連客の代表、不動産屋のタニさんに笑福亭釣瓶。30年間カフェに通い詰め、悦子に想いを寄せているのだが、その告白シーンが何とも微笑ましい。この二人は吉永が直々にオファーしたらしいが、それに応えようと懸命の演技だ。他にも竹内結子と笹野高史が演じる出戻り娘と父親、東京から虹を追いかけてやってきたという父娘、店に忍び込んだドロボー等、様々な思いを背負った人々が登場し、悦子の入れたコーヒーに元気をもらって再生していく。
監督は「孤高のメス」「八日目の蝉」などの名作を手掛けた成島出。モチーフとなった喫茶店がある千葉の岬にオープンセットを作り、オムニバス形式でエピソードが連なる原作の温もりを大切にしながら、味わい深い作品に仕上げた。
おいしいコーヒーにはおいしい水がつきもの。この作品では舟で小さな島に渡り、湧水を汲んでくるシーンがあるが、実は自分もおいしいお茶とコーヒーが飲みたいばっかりに、余呉(長浜市)の山奥にある胡桃谷(くるみだに)まで出かけて採水している。やっぱり違います!
(HIRO)
監督:成島出
脚本:加藤正人、安倍照雄
撮影:長沼六男
出演:吉永小百合、阿部寛、竹内結子、笑福亭鶴瓶、笹野高史、米倉斉加年