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主演のブリー・ラーソンがいきなり第88回アカデミー賞の最優秀主演女優賞と第73回ゴールデングローブ賞ドラマ部門最優秀主演女優賞を獲得し、俄然注目を集めた問題作である。
朝が訪れて母親と幼い男の子が目覚め、かれは部屋の中で机や椅子や洋服ダンスに向かって「おはよう」と次々に挨拶して行く。しかもこの男の子は髪が長いので最初は女の子かと見まがう。こういうことがすべて伏線となっていて、実はこの母子が7年間にわたって狭い部屋の中に監禁されているという「事件」を観客はやがて知ることになるのだ。先頃、東京でも女子中学生が誘拐されて2年間、監禁されていた事件が発覚して世間を騒がせた。ストーカーによる犯行ということで共通している。
その日は男の子の5歳になる誕生日で、ということは母親が監禁されて7年になるという歳月と勘定が合わないことにも気づかされる。これが、のちのち重要な意味を持つのである。母子の作戦が功を奏してふたりは例の女子中学生と同様、何とか救出されるのだが、長い年月の間、家族との絆を突然断たれた女性と、監禁されていた部屋以外の空間を見たことがない男の子が下界に解放されて、そのトラウマから逃れることは容易ではない。
とくに、衝撃的なのは女性の母と離婚している父親が遠方から救出された娘を見舞いにやってきて、涙にくれながらひしと娘を抱きしめはしても、決して孫であるはずの男の子を正視しようとしない場面だ。とうとうこの父親は娘の無事を喜べても事件の結末を許容できず、孫とはひとことも口をきかずに帰ってしまうのである。新しい伴侶と暮らす母親のほうは傷ついた娘を受け容れ、孫を慈しむのとは対照的に、だ。女親と男親の違いをうまく描いたといえよう。
ラーソンもよく健闘したが、子役のジェイコブ・トレンブレイも大いに貢献した。撮影はトロントで行われたそうで、アカデミー賞をとったことからアメリカ映画と誤解しているサイトもあるが、アカデミー賞の対象はアメリカ映画ではなく、英語作品である。因みにアカデミー賞の部門のひとつ「外国語」映画賞は英語以外の作品に与えられる賞である。(健)
原題:Room
監督:レニー・アブラハムソン
原作・脚色:エマ・ドナヒュー
撮影:ダニー・コーエン
出演:ブリー・ラーソン、ジェイコブ・トレンブレイ、ウィリアム・H・メイシー、ジョーン・アレン、ショーン・ブリジャース、トム・マッカムス