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「ハドソン川の奇跡」(2016年アメリカ映画)

2016年10月11日 | 映画の感想・批評
 
 
 監督クリント・イーストウッド、出演トム・ハンクス。これを聞いただけでも、誰もが待ち望んだ超話題作である。大変なプレッシャーの中での製作だったであろうが、イーストウッドは難なく(本当はどうか知らないが)、そのプレッシャーを跳ね除け、1本の映画に仕上げたのである。本当にこの人は鉄人だ。
 映画は、2009年1月にニューヨークで起こった飛行機事故を題材に、その事故機を操縦していた機長の目線で描かれている。事故内容は省略するが、ハドソン川に不時着(墜落ではない)し、救助された直後に、スタッフに乗客乗員155名の全員の生存確認をしたのである。機長としては当然のことだろうが、全員無事が確認出来た時の一言「155名・・・。有難う」とあの表情に涙が止まらなかった。このシーンが、映画全体の主旨を表していると思う。この事故がどんな原因か、どこにミスがあるのか、これから先に、どんな責任が追及されようが、全員の命は救ったという機長の誇りに満ちた表情だった。そう、人は何に重心を置いて生きていくのか。それを問い掛けるのである。
 事件後、委員会からの追及が厳しくなるが、自分が経験した42年間の感覚(劇中では「タイミング」となっている)を、経験したことの無い人に理解させるのは難しい。しかも、その委員会は、委員会に有利になるように意図的にデータを作成していたのである。それも見抜いた上で、それを批判することなく、ただ、それを上回るだけの前述の「機長としての誇り」=「人としての誇り」=「何が人として一番重要なのか」を淡々と述べるのである。「数値・データ」に「人」は勝ったのである。その時、何がベストな判断なのか?それは、その時のその人にしか出来ないことなのである。
 昨今、数値で物事の善悪が判断され、「勝ち組」「負け組」という言葉が躍り、何事も論理的に効率よく物事を進めることが良いとされる時代が持てはやされるが、この映画はその流れに大きな一石を投じた意味深き映画である。原題も「SULLY」である。劇中のセリフ「あなたでなければこれは出来なかった。また、それを全力でサポートする人達がいた」にもあるように、まだまだ、「人」が主役である時代でありたいものである。
(kenya)

原題:「SULLY」
製作・監督:クリント・イーストウッド
製作:フランク・マーシャル、アリン・スチュワート、ティム・ムーア
脚本:トッド・コマーニキ
撮影:トム・スターン
編集:ブル・マーリー
出演:トム・ハンクス、アーロン・エッカート、ローラ・リニー、ジェフ
・コーパー、オータム・リーサー、サム・ハンティントン、クリス・バウアー、ジェリー・フェレーラ、ホルト・マッキャラニー、マックス・アドラー、ヴァレリー・マハフェイ