何とも後を引く映画だ。決してその時だけ楽しめる娯楽作品ではない。しかし「カンヌ国際映画祭パルムドール受賞」という嬉しいニュースは、この作品の興行的な価値をグンと高めたようだ。受賞後間もない時期の公開とあって、是枝裕和監督作品としては「海街diary」をはるかに凌ぐ大ヒットとなっている。家族について、血の繋がりについて、そして今の日本が抱える様々な社会のひずみについて、否応なしに考えてしまうこの作品に多くの観客がつめかけているということは、大変喜ばしいことだろう。
「誰も知らない」「そして父となる」など、様々な家族の形を見つめ続けてきた是枝監督。今回はすでに死亡している親の年金を、家族が不正に受給していた事件を知ったことが製作のきっかけとなったそうだが、「死んだとは思いたくなかった」という家族の言い訳の中に潜む背景を探り出すことが、この『犯罪でしかつながれなかった家族』の誕生の元となったようである。
目黒区で起こった幼児虐待死亡事件の記憶も新しいが、物語はいつものように街角のスーパーで鮮やかな連係プレーで万引きをし終えた父子が、その帰り道、団地の廊下で寒そうに震えている女の子を見つけ、家に連れて帰るところから始まる。高層マンションの間に建つ古い平屋には、父子の他に母とその妹、祖母が一緒に暮らしていた。女の子の体を調べてみると、そこらじゅう傷だらけ。いったんは夫婦で団地へ返しに行くのだが、ドア越しに罵り合う両親の声を聞くと、彼らの虐待から守るためにも、二人は女の子を自分の子として育てることを決意する。
息子に教えられることといえば万引きだけだと言いつつも、情が厚く憎めない父に、是枝作品は4度目となるリリー・フランキー。夫が連れ帰った女の子に愛情をかけることで自身が受けた心の傷を癒そうとする母に、実生活でも母となったばかりの安藤サクラ。祖母には今回が是枝作品最後の出演と決め、入れ歯を外し、顔つきを変えて熱演の樹木希林。この実力派三人の演技合戦を見ているだけでも十分なのだが、さらに二人の子役、城桧吏君と佐々木みゆちゃんがまた素晴らしい!!勝手な大人たちに振り回される役なのだが、その時々の表情が何とも絶妙なのだ。未来に向け、成長していく姿も救いとなる。是枝監督は子どもたちが持っている力を引き出すのが本当に上手い。
私事で恐縮だが、先日今年は出来がよく、収穫を楽しみにしていた玉ねぎをごっそりに誰かに持っていかれた。近所の人のアドバイスもあって警察に伝えたのだが、現場を検証され、住所や電話番号を聞かれながら、真っ先に思い浮かべたのがこの作品。カンヌ受賞に対する文科大臣の祝意伝達に「公権力とは距離を保ちたい」と言い放った是枝監督。そのあっぱれ振りに感心しながら、玉ねぎを盗るにも理由がある、豊作でとても食べきれなかった玉ねぎで喜んでくれた人がいてよかったのだと、思いを新たにしたのである。
(HIRO)
監督:是枝裕和
脚本:是枝裕和
撮影:近藤龍人
出演:リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡み優、城桧吏、佐々木みゆ、池松壮亮、樹木希林、柄本明、高良健吾、池脇千鶴、緒方直人