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「かぞくいろ -RAILWAYS 私たちの出発ー」(2018年 日本映画)

2018年12月05日 | 映画の感想・批評
地方のローカル線を舞台に、三浦友和、中井貴一を主演に2本製作された、ヒューマンドラマのRAILWAYSシリーズ。あいにく2作とも上映館が少なくて見逃してしまってきた。
第3弾の本作は若いシングルマザーの女性を主人公に。家族のありようを問う。

東京でイラストレーターをしていた夫修平(青木崇高)が急病死したため、彼の忘れ形見である少年駿也と共に、夫の故郷の鹿児島にやってくる主人公晶(有村架純)、25歳。
息子と母というには年の離れた姉弟のようにみえる。息子は「あきらちゃん」と呼んでいる。
夫の父節夫(國村隼)は留守電を聞いていなかったばかりに、息子の突然の死に驚きつつ、初対面とはいえ、淡々と二人を受け入れる。この父親は鉄道の運転士を間もなく定年退職しようと決心している。
修平の部屋にはたくさんの鉄道写真や模型が残されており、孫息子の駿也は若き日の父のにおいとぬくもりに包まれることができ、そして彼もまた鉄道オタクを受け継いでいる。
主人公の晶は悲しみに打ちひしがれている間もなく、現実に直面しながらたくましく前を向いて歩きだしている。
まず、駿也の転校手続きをし、担任教師が同い年の25歳とわかり、意気投合。
そして、「大事な人を乗せて走る電車の運転士になろう」と入社試験に突然現れ、舅を驚かせるが、彼女の意気込みを買われて無事に就職でき、運転士の研修を受けに長期間、遠く福岡へ。
父親の國村がとても渋くて良い。重大な場面ではあれこれ言わず、本人の決断を待ち、尊重し、受け止めてくれる。その信頼感と安定感は絶大なもの。大人はかくありたいという理想像。
孫息子の駿也は出生時に母親を亡くしている。そして今、父も亡くして、ぐっと堪える毎日。
小学校の「半成人式」の作文で生い立ちの記録と両親への想いを書かなければならない場面と、そのあとの慟哭は胸がつまる。初めて感情を吐き出せたとはいえ、同時に晶に突き付けられた言葉は、それもまた痛いものだった。

時折挟まれる、夫修平と主人公の出会い、夫と駿也のバッティングセンターのやり取り、家族三人の楽しい鉄道見学。
夫役の青木崇高の豪快な笑い声とたくましさに、朝ドラの「ちりとてちん」の草々さんが思い出される。彼の急死がこのドラマの引き金とはいえ、なおのこと涙を誘う。

主人公の晶自身の「ろくでもない親に育てられた」生い立ちについては触れられなかったが、彼女が自身の子供を産むことは出来なかったけれども、血は繋がっていなくても駿也を大事に愛し、家族としてともに生きていこうとする姿は、まさしく母親そのものである。
節夫という夫の父と出会うことで、彼女自身も父親の愛情に包まれるはずだった娘時代を取り返すことができたのである。
節夫も仕事上も家族からも必要とされる喜びに気づけた。運転士の仕事は「大切な人を乗せるために」という原点を思い返す事ができた。それが副題の「わたしたちの出発」。

有村架純、ちょうどいま、テレビドラマ「中学聖日記」で話題をさらっている。複雑な立場と心理を演じていて、じわじわと胸に迫る。このドラマの相手役の少年の名前が同じ「あきら」、字まで一緒の「晶」。あらまあ・・・・・
有村を一躍有名にしたのは朝ドラ「あまちゃん」だが、それ以前に映画「阪急電車」で、育ちがよくて、家族思いの誠実な高校生が印象深かった。あとで、有村と知ったのだが、とても好感の持てる少女役だった。
阪急電車に乗っていたその彼女がシングルマザーになり、そして電車を動かす側に成長したのかと思うと、時の流れを感じると同時に、今後も楽しみな女優さんの一人である。

美しい海岸沿いを走る薩摩おれんじ鉄道、鹿児島本線の名残りという。いつか鹿児島に行って、あの鉄道に乗ってみたい。鉄道オタクではないが、そう思わせてくれる、心の温まる映画だった。   (アロママ)

監督、脚本:吉田康弘

主演:有村架純、國村隼、青木崇高、筒井真理子 他