弥生三月、上映館内の入口で葉書大のイラストカード(塩川いづみ作)を受けとる。二人の女性がまっすぐにこちらを見つめている画。主演の二人のようだが、監督と原作者のようにも見える。これから上映される作品への期待が高まる。
岨手(そで)由貴子監督は大阪芸術大学出身。初のオリジナル長編作品「グッド・ストライプス」で新藤兼人賞金賞を受賞している。原作者の山内マリコはこれまでに作品が何度も映画化され、映画業界から注目されている作家の一人である。共に富山県出身というのは偶然だろうか。
東京に生まれ何不自由なく育った榛原華子(門脇麦)は、20代後半になり結婚を考えていた恋人に振られる。結婚が幸せへの道と信じていた華子にとって人生の危機である。相手探しに奔走し、ついに義兄の会社の顧問弁護士青木幸一郎(高良健吾)と出会う。ハンサムで家柄もよく申し分のない相手である。相手の気持ちがよくわからないという不安を抱えながらも結婚話は進んでいく。
一方、富山県生まれの時岡美紀(水原希子)は、猛勉強の末に慶應義塾大学に合格し上京する。しかし実家からの仕送りが途絶え、夜の世界で働くも学費が払えずに中退する。地元に帰りたくはないが、東京にいる意味も見いだせずにいた。幸一郎とは大学の同期生で、付かず離れずの関係が続いている。
華子の友人相楽逸子(石橋静河)の計らいで、華子と美紀は出会うことになる。別世界に生きる二人だが、限られた狭い世界に生きてきたという意味では似ている。この邂逅により華子はある決断をし、美紀もまた新しい世界へ飛びたとうとする。
華子が初めて幸一郎の家を訪ねる場面が印象的だ。幸一郎の祖父母や両親が華子を品定めしようと待ちかまえている。和室の大広間に入る際、華子はお茶室の作法でゆっくりと皆の前に進み出る。一連の所作は家柄や育ちの象徴的表現で、やや誇張はされているが映像ならではの効果的な表現である。原作ではこの場面はあっさりと描かれている。
この作品は20代後半から30代にかけての、特に女性の生き辛さを描いている。どのような境遇にあっても、自ら問題意識を持ち行動を起こさないと自分の人生は始まらないというメッセージが伝わってくる。そして何より、女性同士の繋がりが頼もしく描かれている。華子、美紀、逸子、美紀の友人平田佳代(山下リオ)を演じる女優陣が魅力的だ。女性は連帯する生き物だと再認識させてくれる。
幸一郎はと言えば、議員の伯父の跡を継ぐために弁護士事務所を辞めて秘書になる。男性社会の居場所は確保しているが、華子たちのように翼を持たない、そこが切ない・・・。
華子と幸一郎のその後に興味のある方は、原作本の終章を読むことをおすすめする。原作と映画は別物だが、原作には映画を補完する清々しいストーリーが用意されている。(春雷)
監督:岨手由貴子
脚本:岨手由貴子
原作:山内マリコ
撮影:佐々木靖之
岨手(そで)由貴子監督は大阪芸術大学出身。初のオリジナル長編作品「グッド・ストライプス」で新藤兼人賞金賞を受賞している。原作者の山内マリコはこれまでに作品が何度も映画化され、映画業界から注目されている作家の一人である。共に富山県出身というのは偶然だろうか。
東京に生まれ何不自由なく育った榛原華子(門脇麦)は、20代後半になり結婚を考えていた恋人に振られる。結婚が幸せへの道と信じていた華子にとって人生の危機である。相手探しに奔走し、ついに義兄の会社の顧問弁護士青木幸一郎(高良健吾)と出会う。ハンサムで家柄もよく申し分のない相手である。相手の気持ちがよくわからないという不安を抱えながらも結婚話は進んでいく。
一方、富山県生まれの時岡美紀(水原希子)は、猛勉強の末に慶應義塾大学に合格し上京する。しかし実家からの仕送りが途絶え、夜の世界で働くも学費が払えずに中退する。地元に帰りたくはないが、東京にいる意味も見いだせずにいた。幸一郎とは大学の同期生で、付かず離れずの関係が続いている。
華子の友人相楽逸子(石橋静河)の計らいで、華子と美紀は出会うことになる。別世界に生きる二人だが、限られた狭い世界に生きてきたという意味では似ている。この邂逅により華子はある決断をし、美紀もまた新しい世界へ飛びたとうとする。
華子が初めて幸一郎の家を訪ねる場面が印象的だ。幸一郎の祖父母や両親が華子を品定めしようと待ちかまえている。和室の大広間に入る際、華子はお茶室の作法でゆっくりと皆の前に進み出る。一連の所作は家柄や育ちの象徴的表現で、やや誇張はされているが映像ならではの効果的な表現である。原作ではこの場面はあっさりと描かれている。
この作品は20代後半から30代にかけての、特に女性の生き辛さを描いている。どのような境遇にあっても、自ら問題意識を持ち行動を起こさないと自分の人生は始まらないというメッセージが伝わってくる。そして何より、女性同士の繋がりが頼もしく描かれている。華子、美紀、逸子、美紀の友人平田佳代(山下リオ)を演じる女優陣が魅力的だ。女性は連帯する生き物だと再認識させてくれる。
幸一郎はと言えば、議員の伯父の跡を継ぐために弁護士事務所を辞めて秘書になる。男性社会の居場所は確保しているが、華子たちのように翼を持たない、そこが切ない・・・。
華子と幸一郎のその後に興味のある方は、原作本の終章を読むことをおすすめする。原作と映画は別物だが、原作には映画を補完する清々しいストーリーが用意されている。(春雷)
監督:岨手由貴子
脚本:岨手由貴子
原作:山内マリコ
撮影:佐々木靖之