シネマ見どころ

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「アナログ」(2023年 日本映画)

2023年11月15日 | 映画の感想・批評
主人公の水島悟(二宮和也)は評判の良い建築デザイナーで、建物や部屋のイメージをデジタルでなく、手作りの模型や手描きのイラストで依頼主に応える丁寧な仕事をしている。彼がインテリアを手掛けた喫茶店ピアノで偶然に出会った女性(波瑠)は、店内の装飾品のお気に入りをいくつか彼に語る。悟は嬉しくなって、代わりに彼女の持つハンドバックを褒めると、「母の形見です。大切に使っています」
悟は女性に心を惹かれ、再会を期待して名前と連絡先を尋ねるが、「美春みゆき」と名乗る彼女は携帯を持っていないという。「では、毎週木曜日に、この喫茶店ピアノで会いましょう」
悟は私生活もとても丁寧に暮らしている。朝ご飯を炊き、焼き魚と納豆ともろもろ。私も作ってほしくなるくらい、美味しそうな食生活。時々、入院中の母(高橋惠子)を見舞う。40過ぎの息子の微妙な変化を母は見逃さない。「いい人ができたのね」
幼なじみの友人二人(桐谷健太、浜野謙太)とは居酒屋で屈託のないだぼら話で盛り上がる。
このシーンはかなりアドリブだったらしく、いかにも幼なじみのやり取りが楽しい。
みゆきと喫茶店ピアノで出会った後、居酒屋にみゆきを連れていくと、この二人も居合わせて、普段は物静かなイメージのみゆきも大いに盛り上がる。タクシーに乗せて見送る瞬間、二人はぐっと近しくなるのだが、とても40前後の男女に思えないくらい、ピュアで初々しく描かれている。
毎週必ず会えるわけでもなく、「その時は仕方がなかったのね」と、穏やかに次の週を心待ちにしている。
ある日、悟がクラシックコンサートのチケットをもらい、みゆきと出かけるが、演奏の途中でみゆきが突然に泣きながら退席してしまう。みゆきの激情をはかりかね、悟は深追いできない。
次に会うと、「海に行きたい」
糸電話でかわす言葉、大事なことを悟が言おうとしたが波の音がかき消していく。

大阪で仕事をするようになった悟は容体が急変した母を見送り、通夜の席では幼なじみたちが母の思い出を語ってくれる。その日は木曜日。
なかなか出会えないし、連絡先も知らないが、みゆきとの結婚を決意し、指輪も用意した。今日こそと思ったその週から、みゆきは現れない。

約1年後?
みゆきの経歴が思わぬ形で判明!さらに・・・・・・
大阪の悟の仕事場まで、幼なじみ二人が報告に来てくれる。実は悟が母を見送った日、喫茶店で待っていたみゆきに、そのことを伝えに行ってくれていた。なんとも温かい友情。
そこからのお話しはまさしく純愛物語。

「ラーゲリより愛をこめて」の二宮も良かったが、今作品ではとても自然で穏やかでやさしい演技だった。波瑠も謎めいた、そして気品のある女性がとても似合っている。
賑やかしの幼なじみ二人とのやり取りもとても楽しくて、やんちゃ坊がこの時だけは時間を超えていられるという雰囲気が出ていた。
久しぶりに、こてこてのラブストーリー。もはやラブストーリー物はこっぱずかしくて、観ないつもりだったのに、感動してしまった。原作がビートたけしさんであるという事も驚き。こんなピュアなラブストーリーを描いていたとは!原作を読んでみたい。

先週末、東京出張でスマホを落としてしまい、二晩、スマホのない暮らしを体験。もはやアナログ生活には戻り切れないことを痛感。便利なことが幸せなのかどうなのか、ふとこの映画を思いました。
(アロママ)

原作:ビートたけし
監督:タカハタ秀太
脚本:港岳彦
撮影:板倉陽子
出演:二宮和也、波瑠、桐谷健太、浜野謙太、高橋惠子、リリー・フランキー、板谷由夏