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「アイミタガイ」(2024年 日本映画)

2024年11月13日 | 映画の感想・批評
 式場でウェディングプランナーとして働く梓(黒木華)と、写真家である親友の叶海(藤間爽子)は大の仲良し。そんな中、叶海が海外で事故に巻き込まれ命を落とした。親友の突然の死を受け入れられない梓は、変わらず、叶海にLINEメッセージを送り続ける。一方、叶海の両親の朋子(西田尚美)と優作(田口トモロヲ)は、とある児童養護学校から娘宛てのメッセージカードが届いていることを知る。何かの間違いかと、連絡を取ってみると、生前の娘が取っていた行動に対する返信と分かり、驚きつつも、嬉しく想う。
 ある日、金婚式を担当することになった梓は、ピアノ演奏者探しに苦労していた。叔母の稲垣範子(安藤玉惠)に相談したところ、自分がヘルパーに行っている93歳の小倉こみち(草笛光子)に依頼してみようとなり、自宅に行ったところ、中学時代にいじめから救ってくれた叶海との思い出が蘇ってきた。
 前半は、別軸の話が交互に繰り広げられ、どう繋がるのかが気になっていたが、後半、すべての話が繋がり始める。こみちが弾くピアノの音色は、梓が中学時代にいじめから救ってくれた叶海が、密かに案内してくれた家から奏でられる音色だったのだ。こみちは、戦地に送る隊員を鼓舞する目的でピアノを弾かされていたことを悔やみ、それ以来、弾かなくなったことを伝える(この部分の話だけでも映画が1本出来るかも)が、梓は、自分は、隠れて聞いていたが、その音色に救われた、他の人も同じだと想うという強い気持ちを真正面からぶつけ、こみちを一歩前進させるのである。そして、自分自身も、突然のプロポーズを受け、小山澄人(中村蒼)との結婚を迷っていたところ、朋子からの後押しで、一歩前進していくのである。
 タイトルの「アイミタガイ」は、「相見互い」ということで、“持ちつ持たれつ“となるそうだ。すべての出来事がラストまで細かく繋がり、泣けて楽しめた。人の温かみを感じさせる良質の映画とはこういうことかと思った。
黒木華が役柄にピッタリ。「凛とした姿」という表現が合う。以前の出演作「日日是好日」の印象と重なった。突然のプロポーズにも一度保留し、自分の中で納得いくまで考えるその姿には軸がしっかりしているように思えた。親友の両親役の田口トモロヲと西田尚美も、滅茶苦茶上手かった。娘を突然失った悲しみを抱えつつ、少しずつでも前向きなろうとする姿が印象的だった。また、設定では93歳、実際は91歳の草笛光子の元気な姿にも感動した。未見だが、つい最近の「九十歳。何がめでたい」も観たくなった。
 鑑賞後、元々は、2020年に亡くなった佐々部清監督が準備していた作品と知った。佐々部清監督作品は、ほぼ未見だが、人に優しい監督のように思える。そうでないと、遺志を引き継いでやろうと言い出す人は現われないだろう。作品の中身以外でも、人の繋がりを感じられる作品だった。
(kenya)

監督:草野翔吾
原作:中條てい『アイミタガイ』
脚本:市井昌秀、佐々部清、草野翔吾
撮影:小松高志
出演:黒木華、中村蒼、藤間爽子、安藤玉惠、近藤華、白鳥玉季、吉岡睦雄、松本利夫、升毅、西田尚美、田口トモロヲ、風吹ジュン、草笛光子