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「ザ・ルーム・ネクスト・ドア」(2024年 スペイン映画)

2025年02月12日 | 映画の感想・批評
 作家のイングリッド(ジュリアン・ムーア)は、新作のサイン会で、暫らく疎遠になっていた友人マーサ(ティルダ・スウィントン)が、重い病に侵され入院していると、偶然知った。早速、見舞いに行くと、長らく会っていなかったからか、マーサの娘や別れた夫の話を深く色々聞いた。そうする内に、マーサから、治療の回復が見込めなくなり、闘病の苦しみに耐えるのがつらいので、「安楽死」を望んでいることを知らされる。更に、自分が死を迎える時は、戦場カメラマンとして孤独に仕事をしてきたので、最期は、人の気配を感じていたいので、隣の部屋に居てほしいとの願いを聞かされることになる。悩んだ結果、マーサの要望を受け容れることにしたイングリッドは、マーサが借りた森の中の大きな家で暮らし始める。マーサは、「ドアを開けて寝るが、もし、ドアが閉まっていたら、“決行”したと思ってほしい」と伝え、二人の生活が始まるのである。
 「安楽死」の是非や法制度を問う作品ではない。自分の最期に向き合うことで、今までどう生きてきたのか、今この瞬間をどう生きるのかを問いかける作品だ。ふたりの女優の演者としての生き様と、一個人としての生き様が、交錯しているからなのか、凛とした佇まいが、画面からひしひしと伝わってくる。演技で創り出したものに加え、内面から湧き出るものが多いように感じた。それだけ、自分は「生きている」「生きてきた」という自負があるのだろう。他人の生き方を批判することなく、自分なりに受け止め、認め合う。この二人の立ち振る舞いは何の濁りもなく、カッコよく観えた。鑑賞する側の背筋がピンと一本の筋が通る気持ちになった。また、最期を迎える服装や化粧も、奇抜な色彩に思えたが、鮮やかで、”決行”を後押ししてくれているようにも感じた。
 ネット情報だが、海外では「安楽死」が認められている国があるようだが、劇中でも、「違法的に薬物を入手した」とあったように、認められている国でも、該当するのかどうか揺れているようでもある。因みに、日本では認められていない。個人の自己決定権が馴染んでいないのが理由の一つとあったが、確かに、マーサの娘がマーサにいった「It’s your choice」という言葉が強く印象に残った。自分がどう思う、どうしたいということが重要な海外では当たり前なのか。その行き過ぎに警鐘を鳴らす為か、元恋人で今のイングリッドの恋人であるダミアン(ジョン・タトゥーロ)に、特定の国をイメージさせる会話シーンがあった。今、その国は、4年間の大統領任期に入ったばかり。世界はどうなることやら。そのシーンも印象深く残った。
(kenya)

原題:La habitacion de al lado
監督・脚本:ペドロ・アルモドバル
撮影:エドゥ・グラウ
出演:ティルダ・スウィントン、ジュリアン・ムーア、ジョン・タトゥーロ、アレッサンドロ・ニボラ、ファン・ディエゴ・ボト、ラウル・アレバロ、ビクトリア・ルエンゴ、アレックス・ホイ・アンデルセン、エスター・マクレガー、アルビーゼ・リゴ、メリーナ・マシューズ