栃木県はが郡の

陶工のつぶやき

名前のない店

2014-08-23 22:06:27 | 作り話
その店はどこにあるのかわからない

たまたま飛び込む人もいれば

探して探して辿り着く人もいる

どちらにしても実はその店に入ることになっていた

今日も一人の客が入って来た

「いらっしゃいユリヤさん。」

「え?どうして私の名を・・・」

「あなたは日本語を探しにロシアからきたのではありませんか?」

「そうですけど・・・」

「それなら、もうあなたは日本語を見つけている。」

気が付くといつのまにか日本語で会話している

「何故?私は日本語が話せるようになったのかしら?」

店主はそれには答えず、こう言った

「この店の事は、誰にも教えてはいけません。良いですね。」

「どうして?教えてはいけないのですか?」

「教えると、あなたは日本語を忘れてしまう。」

「そうですか・・・でも・・・また来ても良いですか?」

「必要があれば・・・来れるかもしれません。お代はお気持ちで。」

客はバッグの中を覗き込み、少し考えて高額紙幣を数枚置いて店を出て行った

店を出ると思いついたように振り向き

写真を撮って

店の場所を確かめるようにあたりを見回し

そして夜の街に消えていった