ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

カラヴァッジョ 天才画家の光と影

2010-02-14 17:45:30 | か行


「カラヴァッジョ 天才画家の光と影」48点★★


16世紀イタリアの天才画家
カラヴァッジョの生涯を描いた作品です。

画家の生涯モノって
映画的には、正直あまり当たりに合うことがない。


この映画も133分もあるのに
話は教科書的で
あまりおもしろくない。

しかし、それでも
知ってる絵画の謎解きがされるのって
けっこうおもしろいんですよ。

「こういう状況で描かれたのか~」とか
「こんな意味が隠されていたのか~」とか。

だから見てしまうんですねえ。


カラヴァッジョはものすごく激しやすい性格で
芸術家のくせにすぐに剣を抜く
超破滅型。

キレてはケンカの繰り返しで
絶えず死の影に囚われ
38歳で亡くなってしまったのですが

そう言われて改めて絵画を見ると
宗教画なのに
首切りの描写などが
異常なまでに残酷だったりすることに気づきます。



絵を描くときに
必ずモデルを使い、そのまんまのポーズをつけて
下絵もあまり描かなかったとか



あの独得の陰影のつけかたも
実際に屋根に穴を開けてその下に立たせたり

光をコントロールして
見たままに描いていたというのがすごくおもしろい。

またイメージ通りの女性がいれば
娼婦だろうが関係なく
聖母のモデルにしたりと

依頼主の教会などに決して日和ることなく
自分を貫こうとしたんだなあということが
わかります。


さらに絵画の光と影のコントラストを
そのまま転換した映像は一見の価値あり。

「ラストエンペラー」などで
アカデミー賞を3回受賞した
撮影監督のすご技です。

それだけに
映画としてはもっと
魅力的に演出して欲しかったんですが

こういう映画を学校で見せると
がぜん美術に興味が沸くと思います。

ただ133分、どうやって工面するかが
問題ですよねえ。
2コマぶっ続けでも足りない・・・

★2/13から銀座テアトルシネマで公開中。ほか全国順次公開。

「カラヴァッジョ 天才画家の光と影」公式サイト
コメント (5)
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ライアーゲーム ザ・ファイナルステージ

2010-02-11 14:10:46 | ら行
いやー、ほんっとに頭いいですよねえ。
こういう話を考える人って。


「ライアーゲーム ザ・ファイナルステージ」74点★★★

戸田恵梨香主演でヒットした
フジテレビ作のドラマの映画化です。

話は続いてるようですが
これだけ見ても十分楽しめました。


相手を騙してゲームに勝てば
大金が手に入るという「ライアーゲーム」。

正直者の女子大生・直(戸田恵梨香)、
天才詐欺師・秋山(松田翔太)ら男女11人は
孤島に集められ、最後のゲームに挑む。

それは
金、銀、赤のリンゴのうち
ひとつを選んで13回投票するという簡単なゲーム。


全員が赤リンゴを投票すれば、全員が1億円をもらえるが
しかし、そのとき金か銀が1票でもあると
赤リンゴに入れた人はマイナス1億円になってしまう。


直は「みんなで赤リンゴを選び続けよう」というのだが
いやはや、そんなに簡単にはいかなくて・・・という話。


一見単純そうなルールだし
しかもたった一種類のゲーム。

そこに13通りの波乱を盛り込み、
133分、楽しませるのは
並大抵の頭じゃできません。


原作者と2人の脚本家の脳みそが
カタカタと何かを計算している音が
聞こえてくるようです・・・すげえなあ。


なんとかひとつでも
からくりを解いてみようと思ったんですが
ダメでしたね・・・


欲にまみれた人間たちの架空のゲームということで
「カイジ」に似てなくもないですが
あそこまで過剰な演出がない分、
頭脳ゲームに特化してスムーズに見られます。

なにより
ヒロイン戸田恵梨香と
松田翔太がルックス的にバランスよく
素直に見やすいです。ハイ。


ただ、映像のフレーム飛ばしが激しく
(正確な用語か知りませんが・・・
画像と画像の間を短くつまんで
「ヒュンッ」と飛ぶような早い流れにしてあるヤツ。
「踊る大捜査線」など最近のテレビドラマでよく見る)

馴れるまでは
目がしんどいかもしれません。

これ、テレビ版も見たい・・・

★3/6から全国東宝系で公開。

「ライアーゲーム ザ・ファイナルステージ」公式サイト
コメント (2)
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プレシャス

2010-02-09 21:32:53 | は行
プレシャス(宝物)な映画!


「プレシャス」84点★★★★



父親にレイプされ
16歳ですでに二人の子どもを妊娠、

そのうえ
母親にも虐待され、学校もクビになりと

あまりにも悲惨な主人公
プレシャス(ガボリー・シディベ)の物語。


あまりにも悲惨・・・なのに、
このおおらかな鑑賞後感はいったい何?

たくましい、というのとも違う。

荒廃のなかで静かに光り続けた
イノセンスの勝利、ともいうべきだろうか。

そして
見終わったときの
大海に包まれたような温かさが
いつまでもいつまでも
尾を引くんですねえ。


番長は泣かなかったけど
両隣の男性は泣いていたようでした。


プレシャス演じるおデブちゃん、ガボリー・シディベも
すごい存在感なんだけど

この映画の勝因は
あえて“映画のセオリー”にはまろうとしない
監督の思考の崇高さではなかろうか。


「あれっ」と潔すぎるほどの
フェードアウト加減が
たまらなく爽快だったり

高校生が書いたような
つたないナレーションが
胸に染みたり

不安定な構図、色使いなど
予定調和など何もない
とにかく新しい感覚に満ちている。


CMを作る人などに
特に参考になる気もします。


主演女優のビッグな存在感と
それが観客を包容する力になっているという点で
「フローズン・リバー」にも少し似ているけど
最後に灯る光が
より大きく、明るいのがいいね。


しかし「17歳の肖像」とコレと
どっちが点数上か
すっごい迷ってしまう・・・

番長的アカデミー賞だと
主演女優賞は「17歳の肖像」
作品賞は「しあわせの隠れ場所」
監督賞は「プレシャス」にあげたいところだなあ。


そうそう、マライア・キャリーが
「ええぇえ?」って役で出てます。
いや、見ても絶対わからないと思う。
言われても信じられない・・・

★GW、全国で公開。

「プレシャス」公式サイト
コメント (4)
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バレンタインデー

2010-02-08 01:35:09 | は行
今年の“最高のタイミングで賞”は
この映画に。



「バレンタインデー」70点★★☆


バレンタインデーの1日に起こる
さまざま恋人たちのドラマを
同時進行で綴ったアンサンブルドラマです。


「プリティ・ウーマン」のゲイリー・マーシャル監督が

ジュリア・ロバーツ、アン・ハサウエイ、
「ニュームーン」でブレイク中のテイラー・ロートナーら
19人(!)もの
豪華キャストの恋愛を手際よくさばいている。


ちょっぴり笑えて、ロマンチックで
うまく着地しているし悪くない。


悪くないんですが、
逆にうますぎて、味気ないというか食い足りない。

「まあ、こことここがくっつだろうな」
と、すべて予想できますからねえ。


小学生から老人まで
あらゆる世代のロマンスを網羅し(ハハハ)

ハッピーなデート・ムービーとしての条件は
しっかり満たしてるので
思った通りのものは得られるし
楽しめるとは思いますが。


まあ、正直言うと
この手の「アンサンブルドラマ」にも
少々飽きがきちゃったのかな。

女優の充実ぶりに比べ
男性陣がイマイチなのも理由か。

ジュリア・ロバーツと絡む
ブラッドリー・クーパーなんて



「そんな彼なら捨てちゃえば?」
「ニューヨーク、アイラブユー」と

この手の映画に出すぎで
どうにも「底の浅いハンサム」のイメージが・・・

全般的に男性って
手短に濃く深い印象を残すのが
あまりうまくないのかしら。

★2/12から全国で公開。

「バレンタインデー」公式サイト
コメント (7)
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17歳の肖像

2010-02-06 18:07:32 | さ行
昨日見た「プレシャス」(いい映画!)といい
今年のアカデミー賞ノミネートで光っているのは
10代が主人公の作品。

そのなかでも
この映画には番長、
「やられた」と思いました。

「17歳の肖像」84点★★★


舞台は1961年のロンドン。

16歳のジェニーは成績優秀だけど
その聡明さゆえに
毎日に退屈を感じている高校生。

そんなある日、彼女は
優しい年上の男性デイヴィッドと知り合う。
ジェニーは彼と付き合うことで
好奇心や知識欲を満たしていくけれど・・・というお話。



自分の世界が広がっていくときの
目の覚めるようなあの感覚が
実に鮮明に描かれていて
かなり入り込める映画でした。

心に残るいいセリフが
いっぱいあるのもいい。


なにより「やられた」と思ったのは
映画を見ながら
自分の立ち位置
グラリグラリと揺れ動かされたことです。


年上の男と付き合って
どんどん世界を広げていくジェニーを見ながら

「ああ、いまは勉強しとけばいいのに」と
おばさん目線になりつつ

次の瞬間には
「いや、学校では教えてくれないことこそ
人生の糧だ~」と
ハジけてみたり。


お前はいったいどっちの味方なんじゃ!って(笑)


つまりこの映画には
10代の自分が感じていた
モヤモヤも、向こう見ずさも

また、その時期を通過した現在の自分
「これでよかったのか?」というモヤモヤも
どちらも映ってるんですねえ。


それをいちばん感じたのは
ジェニーと女教師の対決シーン。

勉学がおろそかになってきたと
注意されたジェニーは
かつて自分に目をかけてくれた
女教師と女校長にキバをむくんです。

「いま勉強は退屈で、苦しいものかもしれないけど」(先生)
「じゃあ、あなたたちの仕事は
退屈で苦しいものなの?」(ジェニー)

「大学に進んで、
生徒のヘタクソな論文を読む人生?
そんなのごめんだわ!」(ジェニー)

・・・反論、できますか、コレ。


生きていけば自分の足跡は確実に残り、
下の世代は実にシビアに
その価値を感じ取る。

自分は若い世代に
胸をはれる存在になっているか?(いや、なってません


見ながら自問自答して
改めて思うんですね。
自分の人生、これでいいんかなあと。


恋のときめきのみずみずしさを
存分に堪能しつつ
いろいろ考えちゃう印象深い映画です。

ちなみにこの物語の元ネタは
実在の有名辛口ジャーナリストの回顧録なのだそう。
ふふふ、そう思うと
また楽しいですよ。

★4/17からTOHOシネマズシャンテほか全国で公開。

「17歳の肖像」公式サイト
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