ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

レッド・ライト

2013-02-12 23:46:36 | ら行

「リミット」にもヤラレタ!けど
これも、おもしろいっすよ。


「レッド・ライト」76点★★★★

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物理学者のマーガレット博士(シガニー・ウィバー)と
助手のトム博士(キリアン・マーフィー)は

ポルタ―ガイストや霊能力といった
超常現象を科学的に解明しようと
さまざまな事例に立ち会い、検証をしている。

そんななか
かつてスプーン曲げなどで一世を風靡した
カリスマ超能力者サイモン・シルバー(ロバート・デ・ニーロ)が
30年ぶりに復活を宣言する。

トムは彼を調査しようと言うのだが
マーガレットはなぜかおびえた様子を見せ――?!

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地中の棺桶のなかだけで95分を過ごす
「リミット」のロドリゴ・コルテス監督の新作。

超能力者VS科学者という
シンプルな題材だけどよく練られていて
やはりスペインの恐るべき才能健在!といった感じです。


いろいろネタバレになるともったいないので
あまり確信には触れないでおきますが

まあ
超能力者(デ・ニーロ)と
科学者助手(キリアン・マーフィー)に顕著なんですが

人間って一度何かを信じたり、恐怖を感じたりすると
それにとらわれて
日常すべてが怖くなってしまったりするでしょう?

結局「信じる信じないは人の心」だってこと。
それがよく描かれてるんですね。

そのあたりが、この手の話につきものの
「インチキだ」「いや、超能力だ」という論争の本質をついているのではないかと。
それが、人の心の危うさなんだと、
よーくわかりました。

実に巧妙に仕組まれているので、
途中からすっかり「すわ、サイキック合戦突入か?!」とか思ったり

自分の心が翻弄されるのもまたおもしろい。


科学者であり「ビシッ」と真実を明かしていく
シガニー・ウェバーが当たり役で、

彼女を補佐するキリアン・マーフィーも
いい役もらいましたねえ。
ちょっとクリスチャン・ベールにかぶりすぎてたからねえ。

「マーサ、あるいはマーシー・メイ」(2/23公開)も控える
エリザベス・オルセンもグッド。

ラストも「!」「?」で、少々考察が必要で
そこがまた、楽しいですよ。

★2/16金)から全国で公開。

「レッド・ライト」公式サイト
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ゼロ・ダーク・サーティー

2013-02-10 22:53:06 | さ行

2時間38分、退屈なし!
長尺では珍しい(笑)

「ゼロ・ダーク・サーティ」76点★★★★

*****************************

2003年。

CIAのパキスタン支局に
情報分析官マヤ(ジェシカ・チャステイン)が配属される。

若く天才肌の彼女は
9.11以後、姿をくらましているビンラディンの行方を追うために
派遣されたのだ。

膨大な情報と映像を分析したマヤは
ビンラディンの部下と思われる男を見つけ出すが、

なかなか真相にたどり着くことができない。

1年、3年・・・と、時間ばかりが過ぎ、
その間、相次ぐテロや襲撃の恐怖にさらされ
次第にマヤや仲間たちも疲弊していく――。

*****************************

「ハート・ロッカー」のキャスリン・ビグロー監督が
ビンラディンを追い詰めた実在のCIA女性分析官を描いた作品。


小柄で華奢で、
しかし冷血そうで粘り強い女主人公は
まさに米犯罪ミステリーのヒロインのよう。

で、ワクワクするんですが
サスペンスフルな盛り上げや展開などは皆無。

本作は
人物の背景や感情描写などをほとんど排除し、
徹底して「起こったこと」を冷徹に描いていきます。


まず、テロや事件の実際の映像が使われ、
その検証をドラマで再現していくような感じ。

そうやって
9.11からビンラディンが発見されるまでの
10年間を組み立てていくことで

主人公の不屈の執念と、
ニュースに隠れた「現実」をあぶり出そうという試みでしょう。


ホントに主人公マヤを見ていると

「地道な努力と執念こそが、
何かを成し遂げさせ、結実させるのだ――」とつくづく感じ入ります。


ビンラディン確保の際の
容赦のない作戦展開なども描かれるので

決して「アメリカすごい!万歳!」目的の映画ではなく
自分たちも状況によって
非情で非人道的なふるまいをするのだ、と明らかにしている。

そうした“引いた視線”がフェアでいいと思います。


と、まあマヤの努力と執念は
結果をもたらすわけですが、

しかしラスト
「本当に彼だったのか?」と、
疑問を残しているように番長は感じました。
どうでしょう。

ぜひ、見てご判断ください。


★2/15(金)から全国で公開。

「ゼロ・ダーク・サーティー」公式サイト
コメント (2)
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悪人に平穏なし

2013-02-08 23:09:47 | あ行

スペイン映画ですが
タイトルもビジュアルも
フレンチノワールを意識してるっぽい。


「悪人に平穏なし」53点★★☆


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スペイン、マドリード。

中年刑事サントス(ホセ・コロナド)は
ある過去の事件から、最前線を退いていた。

ある夜、サントスは酒場で3人を射殺する。

その後、彼は大規模な麻薬取引のネットワークと、
恐ろしいテロの計画を知ることになり――。


*************************

2012年スペインのアカデミー賞である
「ゴヤ賞」グランプリ受賞作

2004年3月11日に
マドリードで起こった同時多発爆破テロを
基にしたサスペンス・・・だそうです。

というのも見終わっても
なんだか、いまだに話がよくわかってなかったりするんで(苦笑)。

主人公は孤高の中年刑事。

彼がふらついた足取りでバーを訪れ、
好物らしいラム&コークをがぶ飲みし、

そしていきなり不意打ちのように立ち回りをする――。

そんな冒頭シーンから
とにかく説明排除でなかなか話が見えてこない。


彼は過去の出来事に対する復讐をしているのか?
あるいは
なりゆきで知った爆破テロを防ごうとしているのか・・・?

映画ってほとんどの場合
“説明ナシ”はよい方に作用するんだけど
本作ではどうにも“話が見えない”方向にしかいかないんですよ。

よって睡魔が強烈(苦笑)

いま改めてプレス資料を見て
「え?冒頭のバーのシーンって、偶発的なものだったの?」とか
最低限の情報を知ったりして。

うーん、これはあんまり
脚本がうまくないんじゃないかしらん。

ムードや映像は悪くなく
ハードボイルドなんですけどね。

無駄にお洒落で美人な女性刑事など
おもしろそうなキャラはいるのに

人物描写が削ぎ落とされすぎているのも、
退屈の原因かも。

もうちょいで賞。


★2/9(土)からヒューマントラストシネマ渋谷で公開。

「悪人に平穏なし」公式サイト
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命をつなぐバイオリン

2013-02-07 22:57:50 | あ行

びっくりなのは主人公が
ホンモノの天才バイオリン少年だってこと。

非凡な説得力は
そこからきていたのか――。

「命をつなぐバイオリン」70点★★★★


*******************************

1940年。

ソ連の支配下にあったウクライナに住む
裕福なドイツ人少女ハンナ(マティルダ・アダミック)は

神童として演奏会をし、活躍する
バイオリニストの少年アブラーシャ(エリン・コレフ)と
ピアニストの少女ラリッサ(イーモゲン・ブレル)に出会う。

最初、ユダヤ人であるアブラーシャたちは
ハンナを警戒するが
やがて三人は音楽を通じ、堅い友情で結ばれる。

しかし、戦争が平和な日々に影を落とし――。

*******************************

1940年代を舞台に
ユダヤ人の神童コンビとドイツ人少女の
出会いと、その悲しい運命を描いた作品です。

時代背景からして内容は想像できるものだったんだけど
それ以上に、映像が力を持ってました。

最初は
ドイツ軍がソ連に戦争をしかけたことで
ハンナたちドイツ人が危険にさらされ
ユダヤ人のアブラーシャ少年らにかくまわれる。

しかしその後、
ドイツ軍がウクライナに侵攻すると
今度は一転して「ユダヤ人狩り」が始まり、
立場がまったく逆になってしまう。

そんな恐ろしい状況のなかで
子どもたちの絆と音楽が、
大人たちを助け合わせていく――というストーリー。


運命の皮肉やハラハラ加減もうまく、

全編静かなトーンで、忍び寄る戦争の影と悲劇を
押しつけがましくなく描いていて、いい感じです。


なんたって
神童少年を演じるコリン・コレスが
12歳でカーネギー・ホールでデビューを飾った
ホンモノの天才少年だっていうんですから
スゴイじゃありませんか!

何も知らずに見ていたけれど
演奏シーンとかに漂うオーラに
ただならぬものを感じたのは確か。

実際に彼がすべて演奏しているんだそうで
なるほど、この説得力の合点がいきましたわ(笑)


ウクライナの湖や森をはじめ
映像も美しく
作りも丁寧。


森のなかで倒れた鹿に「戦争」を重ねるシーン、
映画の姿勢すべてが現れているようで、好きでした。


★2/9(土)からヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。

「命をつなぐバイオリン」公式サイト
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故郷よ

2013-02-05 21:18:33 | か行

3.11のときに、編集作業中だったそう。
あまりの符号にゾクリとします。


「故郷よ」74点★★★★


***************************

1986年4月26日。

チェルノブイリ近くの平和なプリピャチ村で
新婦アーニャ(オルガ・キュリレンコ)は
幸せな結婚式を挙げていた。

しかし、式の途中で
新郎が仕事に呼び出される。

原発技術者のアレクセイ(アンジェイ・ヒラ)は
6歳の息子と妻を避難させ、プリピャチの街に残る。

そして彼らは
戻ってはこなかった――。

それから10年後。
アーニャの、アレクセイの運命は――?

***************************


チェルノブイリ事故の前夜とその日、
そして10年後を描いた劇映画。

ドキュメンタリーではない形で
現地で撮影されたのは初めてだそうで

人々が最悪の事故によって引き裂かれる様子が、
静かに、しかし毅然としたトーンで写された力作です。


原発事故前の
平穏な日常を送る人々の様子と
その後の対比といい
静かなパニック映画であり、ホラーという感じもする。

「それ」が起こると
木が枯れ、魚や鳥が死に、
住民たちは何も知らされないまま退去させられ、
故郷に帰れなくなる――。

いやでも福島がだぶりますが
本作は3.11直前に撮影され
震災のときに編集中だったそう。

73年生まれの女性監督がこの問題に向き合い、
まさに警鐘を鳴らさんとしていたときの、このタイミングに驚きます。


その土地の動物たちが殺されるのも
見ていられないつらさだけれど
まさしく、我々の国で起こっていることと同じ。
目をそらしてはいけないこと。

さらに
この映画の本領は「事故後」にあるでしょう。

事故前の陽光溢れる美しさから
事故後に対称的にどんよりと曇っていく風景。

同じく人々の表情も
どんより晴れないもので覆われる。

10年後、そこがどうなっているのか。
それは過去からの予言かもしれない。

そして映像にはまさしく
事故により、何かを失い
「さまよってしまった」虚ろな人間の心が、映っているんです。

10年後、その土地に住み着く
意外な人々のくだりも、胸をつかれる感じ。

ドキュメンタリー映画「プリピャチ」(2/22にDVD発売)
併せてみると、さらに深まると思います。


★2/9(土)からシネスイッチ銀座ほかで公開。

「故郷よ」公式サイト
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