ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

渇き。

2014-06-24 23:01:32 | か行

この映画のエライところは
宣伝や予告編で「過激です」と
ウソなく言っているところですね。


「渇き。」57点★★★


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ある事件で警察を退職した
元刑事の藤島(役所広司)は

妻とも離婚し、
汚いアパートで酒を浴びるように飲み、
自暴自棄な日々を送っている。

そんなある日、別れた妻(黒沢あすか)から
娘の加奈子(小松菜奈)が失踪したという連絡が入る。

娘の行方を追ううちに
彼は我が子の別の顔を知ることになり――?!

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「告白」の中島哲也監督の新作。

やたら扇情する映像は
中島監督らしいというか、
「告白」にも通じるところありますね。


とにかく冒頭から主人公の元刑事(役所広司)が
「世の中のリア充を片っ端からぶっ殺す!」みたいに
世間に毒づき、唾吐き、

まあその存在自体が暴力的。

そして話も
クスリに売春に、暴行に、暴力団に殺人・・・と、そっち方面揃い踏み。


モラル崩壊、どぎつい描写に終始し、
見る人を嫌な気分にさせるのが目的じゃ!文句あっかワレ!という感じ。

まあ制作陣も役者も、よくみなさんやったよなあ、と思いますが
肝心の話の中身が
意外に浅いのが残念。

いなくなった娘を探す、とか
ミステリー方向に行くのかと思ったけれど

ひたすら“可愛い顔して
実は悪魔のような娘”って話だし

これで
根底にホントの愛とか、何かが見つかればいいのだけど
そこまでいかなかったんですよね。

ただ、演じる役所広司氏は、マジで振り切れててスゴイ。
韓国版「オールド・ボーイ」のチェ・ミンシクがダブりました。


★6/27(金)から全国で公開。

「渇き。」公式サイト
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her 世界でひとつの彼女

2014-06-23 23:01:28 | は行

こういう“ぼっち”な題材は
本来、日本が得意とするところだと思うんだ。


「her 世界でひとつの彼女」68点★★★☆


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そう遠くない未来のロサンゼルス。

妻と離婚調停中のセオドア(ホアキン・フェニックス)は、
一人茫漠とした日々を送っている。

ある日、セオドアは
「あなたの話を聞き、理解してくれる」という
最新型OSをパソコンにインストールする。

それこそが人工知能を持つOS、サマンサ(声、スカーレット・ヨハンソン)。

知識をどんどん吸収して成長する“機械”のサマンサと
どんどん親密になり、満たされていくセオドアだったが――?!

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スパイク・ジョーンズ監督・脚本。
本年度アカデミー賞オリジナル脚本賞受賞作です。


まずは
現在より、ほんのちょっと未来な感じの
不思議な空気感が印象的。

画面に必ず入る赤色(コーラルレッド)や、
インスタグラムのエフェクトのような褪せた色合いなど
めちゃくちゃ雰囲気あります。

都市の感じとかが
「フォスター卿の建築術」
未来の都市のデモ画面みたいなのも、おもしろかったー。


で、お話はというと
iPhoneの音声認識機能が数段進化したような(そういいと夢がないか・・・苦笑)
自分で学習し、進化していく人工知能(AI型)OS“サマンサ”に
恋をしてしまう男の物語で


主演のホアキン・フェニックスも
傷ついた男の空虚な「ぼっち」感を物憂げに表現してるし

“声”でしか登場しないスカーレット・ヨハンソンの存在も贅沢で
ほぼホアキン氏の一人芝居なのに惹きつけられます。

なにより
テーマといい、世界観といい、
すごーく“ジャパンメイド”な気がするんですよねー。
是枝監督の「空気人形」を思い出したもん。


しかし、人工知能(実態なき)相手との愛の結末として
ワシはもっと斬新な展開と、結果を見たかった、というのが本音。

それにさ、かすれ声のスカヨハは確かにセクシーだけど
OSにはちょっと使われないタイプだよね(それを言っちゃおしまいよって)


まあ、そもそもワシ
「かいじゅうたちのいるところ」(10年)も全然わからなくて(苦笑)

しかし「あれが好き!」っていう方も多いし、
この映画も、アカデミー賞オリジナル脚本賞だし、
試写室でもおばさま方が「すっごくいいのよ!」って言ってるの聞いたし。

きっとね、観ると
いいのかもしれませんよ!(オイオイ。笑)


★6/28(土)から全国で公開。

「her 世界でひとつの彼女」公式サイト
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トランセンデンス

2014-06-22 20:09:16 | た行

ワシはね、けっこうイケましたよ。


「トランセンデンス」70点★★★★


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人工知能の専門家ウィル(ジョニー・デップ)は
研究パートナーで妻のレベッカ(レベッカ・ホール)と
「飢えも貧困もない、よき未来」を目指して、研究をしている。

しかし、あるとき
彼らの研究に反発するテロ組織が
ウィルに銃弾を撃ち込む。

死にゆく夫を前に、妻は
彼の脳をコンピュータに移植する実験を試みる。

果たして、そんなことが可能なのか――?!

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「トランセンデンス」は“超越”という意味だそうで、

めちゃ賢い頭脳を持つ博士(ジョニー・デップ)が
その頭脳をコンピュータにインストールすることで
“超越”の存在となるということを表しているんだと思います。



クリストファー・ノーラン製作総指揮×
ジョニー・デップ主演、という話題作ですが

タイトルのわかりにくさがそのままというか(笑)
思考させるSFというか、やや観念的で

情感はわき起こりにくいかもしれず
評価は割れているようです。


ワシはそんな「ぶっ飛んだ」話を
なんとしてもビジュアルで見せよう、と迫る情熱に
けっこうやられましたけどね。

監督は
「メメント」以来、ほぼ全てのノーラン作品を撮影してきた
ウォーリー・フィスター氏で


ビジュアルも「インセプション」にちょっと似た印象。
思考のSFのなかで、非常にシンプルな“愛”を描こうとする点など
目指すものにも、かなり共通点がある気がしました。


序盤、水滴が象徴的に描かれるシーンなど
叙情的なムードとテンポが
およそSFらしくなく

瞬間、寝落ちしましたが

実は、この水滴に大きな意味があるんですねえ!
ラストに行くと、わかるんですねえ!

こういうしかけ、割と好きよ(笑)。


まあ
肝心の博士と妻の愛は、
もひとつピンとこないんですが(苦笑)

ただ
博士が超越な頭脳を駆使して
「細胞を復活させて、人のケガを治す」ようなことをし始めると
ああ、なんかリアルかもと思った。

これってクローン技術とかips細胞とか
もはやあるかないかわからなくなってしまった、あの細胞とかの研究が
目指しているものと、
同じことなわけですよね。

誰だって
「病気を治してほしい」「老いを止めてほしい」となるのが普通で

そうなると、神の領域に踏み込むべきか否かみたいな話になる。


身勝手な思いと、世の摂理、倫理の間で揺れ、
「人類は、このまま進むべきなのか?」を考えさせる。
そこが作品の目指すところなのかな~と感じました。


★6/28(土)から全国で公開。

「トランセンデンス」公式サイト
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人生はマラソンだ!

2014-06-20 23:24:10 | さ行

市民マラソンブームのなか
意外になかったネタ。


「人生はマラソンだ!」69点★★★★


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オランダ、ロッテルダムで
自動車修理工場を営むギーア(ステーファン・デ・ワレ)は

毎日仕事もそこそこに、
従業員である仲間たちと
ビールを飲み、カードゲームにいそしんでいる。

だが、工場はついに、借金で首が回らなくなった。

そのときギーアは思いついた。

「スポンサーをつけてマラソンを走れば、宣伝になるかも!」

オヤジ4人は工場の若者(ミムン・オアイーサ)をコーチに、
人生初のフルマラソンに挑戦することになるが――?!


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これでもか、というほどに
ダルダル&ズルズルな中年オヤジたちが
いきなりフルマラソンに挑戦・・・?!というオランダ映画。

オランダは映画の舞台にもなるロッテルダムマラソンという
有名な大会のある国ですが

日本もまさに、市民マラソンが大ブーム。

ワシもフルはしてないですが
適度に日々ランするようになって5年になるという(笑)

まさにそんな時代なんで
まずは
題材の目の付け所がいいな、と感じました。


個人経営の工場主と仲間たち4人が
工場再建を賭けて、人生初のフルマラソンを走るという話で

もちろんランニングシーンは出てくるのですが
実はそんなに“ラン”がメインというわけでもない。

それよりも一人一人が抱える
しょんぼりな現実問題が、次第に浮き彫りになり
マラソンという目標に向けて、
それぞれが問題を解決しようとする、というドラマになってるんですね。

なかなかおもしろいんですが
しかしオランダ映画というのは
どうにも不思議な味わいがあるというか。

まず
おっさんたちの不真面目さが
かなりのものなんですよ(失笑)

さらにラストも
「え???」と、ちょっと変わった風味。

映画のなかで一番印象に残ったのは
コーチ役の青年がダメダメオヤジたちに言うセリフ。

「走ることとは常に
『次の一歩を行くか?』をその瞬間に自分で決めていくことなのだ」

わかる!わかるよ!
ヘボランナーのワシにもすっげ共感できました。


★6/21(土)からシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。

「人生はマラソンだ!」公式サイト
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私の、息子

2014-06-19 19:28:17 | わ行

いやあ、ラスト近くのあのシーン、
ホントにアドリブじゃないかと。
そのくらい、臨場感。


「私の、息子」72点★★★★


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ルーマニアの首都ブカレストに住む
セレブリティのコルネリア(ルミニツァ・ゲオルギウ)の悩みは

30歳すぎても自立しない
一人息子バルブ(ボクダン・ドゥミトラケ)のこと。

しかも何かと世話を焼いてくる母親がうっとうしいのか
バルブは彼女を避けている。

そんなある日、
バルブが交通事故を起し、相手の少年を死なせてしまった。

一人息子を守りたい一心で
コルネリアは奔走するが――?!

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2013年ベルリン国際映画祭で金熊賞&国際連盟批評家賞受賞作。

いや~さすが
リアリティありありのヒューマンドラマでした。

セレブとして地位も豊かさも、
意のままにしてきた50代(60代に見えるけど)の母親。

しかし子育てには明らかに失敗した残念な母親である。

彼女の息子(30代という設定。40代に見えるけど)は
自分を意のままにしようとする母親に逆らいながらも、
しかし逆らいきれない自分に腹を立て
自分をもてあましている。

金があっても、豊かさがあっても
ぜーんぜんうまくいってない親子なのに

そこに息子が交通事故を起こすという事件が発生。

母親は息子可愛さから、必死にその罪を軽くしようと
警察にちょっと顔をきかせたりするんですな。

どうにも「イヤ~な」話なんですが
見入ってしまうんですよ。

冒頭から手持ちカメラの揺れが、
人物の表情をじっと見つめる。

リアルな会話や間があり、
人物たちの関係性もサッと暴かれ、
こちらは息を潜めてそれを見守る感じ。

全体に、特にラスト、
被害者家族と母親コルネリアの対面シーンなどは
「全てアドリブじゃないの?!」と思わせるほど、臨場感と迫力がある。

原題「チャイルドポーズ」は「胎児の姿勢」。
ダメ親がダメ息子を作るのか、逆なのか。

罪を犯した子でも親だけは、味方になってあげないといけないというけれど
どうしたものなのか。

考えさせられますねえ。


発売中の『週刊朝日』おなじみ「ツウの一見」で
教育評論家の尾木ママこと尾木直樹さんに
お話を伺っています。

この話の同じ水脈上に
「いじめ加害者の親」があると聞いて
なるほどなあ!と、納得です。

ぜひ、映画と合わせてご一読を☆


★6/21(土)からBunkamura ル・シネマほか全国順次公開。

「私の、息子」公式サイト
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