ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

石川文洋を旅する

2014-06-18 19:37:03 | あ行

ベトナムと沖縄。
一人の報道写真家を通して、よくつなげたと思う。

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「石川文洋を旅する」71点★★★★


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1938年に沖縄に生まれ、
1964年から戦場カメラマンとしてベトナム戦争を撮り
いまも沖縄の基地問題などを撮り続けている
写真家・石川文洋氏のドキュメンタリーです。


拙著『“ツウ”が語る映画この一本』で
ベトナム戦争のドキュメンタリー映画「ハーツ アンド マインズ」を語っていただくなど

個人的にも大変にお世話になっている方なので
より親近感もあったんですが

客観的に見ても
なかなかよくできた映画だと思います。


著書『写真記録 ベトナム戦争』を紐解きながら
自身が当時を振り返り、いまの思いへつなぐという作りで


冒頭、講演会での映像に「プッ」と笑っちゃうように
文洋さんのおだやかで温かい人柄を写しつつ、

その奥にあるもの、
突き動かしている原動力のようなものも
しっかり描き出している。


長野県諏訪市の自宅で
戦場のすさまじさと
サイゴンの下宿での悶々とした日々を語り

米軍に侵略されるベトナムを
米軍側に同行して撮ったことのジレンマや
傍観者であるカメラマンの宿命を率直に語り

出身地である沖縄戦の悲劇と
さらに今なお続く、沖縄の問題へとつなげていくんです。


重いテーマではありますが
いやいや
文洋さんの笑顔と、柔らかい語り口につられて
スーッと、見られるから不思議。

改めて歴史の勉強になるし
なにより75歳のいまも
エネルギッシュに撮影を続けるその姿に

「人に与えられた“使命”とは」を考えずにいられません。

ワシもがんばらねば、うん。


★6/21(土)からポレポレ東中野、沖縄・桜坂劇場ほか全国順次公開。

「石川文洋を旅する」公式サイト
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サード・パーソン

2014-06-16 21:57:17 | さ行

複数の話が、絶妙に同時進行する
ハギス・テクが気持ちいい!


「サード・パーソン」71点★★★★


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パリにいる作家(リーアム・ニーソン)は
野心的な作家志望の女性(オリヴィア・ワイルド)と不倫中。

ローマで仕事中の
アメリカ人ビジネスマン(エイドリアン・ブロディ)は
バーで美しい女性(モラン・アティアス)に目を奪われる。

が、彼女はロマ族で、
ある事情を抱えていた。

ニューヨークのジュリア(ミラ・クニス)は
元夫(ジェームズ・フランコ)と
息子の親権争いをしている。

3つの都市の、3組の男女の物語は
どんな結末を迎えるのか――?!


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「クラッシュ」(04年)のポール・ハギス監の新作。

パリ、ローマ、ニューヨークと
3つの都市の、3組の男女の話が
同時進行で描かれ、

そのなめらかな「つなぎ」を堪能する作品です。

それほど「ミステリー」というわけでもなく、
描かれるのは
一様に何処かに哀しみをたたえ、傷を持つ男女の事情。

それでも137分退屈することなく、
人々の“営み”に惹きつけられます。

作家の男(リーアム・ニーソン)を主軸に、
少しづつネタが小出しにされ、
ラストに向けて集約し、

「ははん、そうだったのか」とニヤリできる。

凝った構成が好きなタイプに
特にオススメです。(ワシね。笑)

★6/20(金)からTOHOシネマズ日本橋ほか全国で公開。

「サード・パーソン」公式サイト
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ホドロフスキーのDUNE

2014-06-11 23:48:39 | は行

「エル・トポ」「ホーリー・マウンテン」、学生時代に見たなあ。
寝た気がするけど(ヤバイ!笑)


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「ホドロフスキーのDUNE」74点★★★★


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超カルト映画
「エル・トポ」(70年)「ホーリー・マウンテン」(73年)などで知られる
アレハンドロ・ホドロフスキー監督(85歳)のドキュメンタリー。

内容はホドロフスキー監督が1975年に企画し、
「映画史上最も有名な実現しなかった映画」と言われる
SF大作「DUNE」の顛末を明かにするものです。

いや~
こんな凄いことが起こっていたなんて、知らなかった!


語られるべき対象がとにかくオモシロイ!という
ドキュメンタリーの好例ですね。


その人の部屋と本棚から入る冒頭は
オーソドックスだけれど、

元々役者でもある監督だけに、
84歳にして、ものすごくアグレッシブな
その人間性に(演じてるとしても)圧倒されるんですよね。

珍妙にして奇異な(失礼!)カルト映画を作るのに、
本人がかなりの人たらしで、素敵な人物だというのも
すげえおもしろくて。

映画「DUNE」の企画を動かそうとする彼は
まず
大友克洋氏も影響されたという
フランスのコミック作家・メビウスを見つけ出して
絵コンテを書かせたり、(この絵コンテが、ネ申にすごい!

「エイリアン」前のH.R.ギーガーを見い出してデザインをさせる・・・などなど

その後、大きく羽ばたいていく
若き才能を発掘し、導く
“マスター”としての才能を発揮。

その妥協なき情熱全てが
「自分の夢の実現のため」なんだから
これまたすごい!

人を口説き落とす術としても
学ぶこと多し。

美食家オーソン・ウェルズ出演を口説くのに
「お気に入りのレストランのシェフを撮影専属に雇うから」とか

ダリに提示した条件の絶妙さとか、

相手の興味を引き、自尊心をくすぐる
その口説きのテクがすごい!

相手も得することなければ動かないものね。

5月に惜しくも急逝した
ギーガーが出てくるのも素晴らしいし。

そしてこの企画を持っていかれ
後にデヴィット・リンチ監督が作った
「デューン/砂の惑星」(84年)を観た感想を語る
ホドロフスキー氏の、あの表情といったら!(笑)

さらにこのドキュメンタリーをきっかけに
23年ぶりの新作「リアリティのダンス」(7/12公開)も完成させるなど


いや~
最高にエネルギーに満ちた、チャーミングな監督に
元気をもらいました。

必見。


★6/14(土)から新宿シネマカリテ、シューマントラストシネマ有楽町、渋谷アップリンクほか公開。全国順次公開。

「ホドロフスキーのDUNE」公式サイト
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私の男

2014-06-10 22:27:05 | わ行

二階堂ふみ氏が素晴らしい。
ホント素晴らしい。


「私の男」67点★★★☆


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流氷のやってくる北海道・紋別。

10歳で家族を失った花(二階堂ふみ)は
遠い親戚と名乗る淳悟(浅野忠信)に引き取られ
一緒に暮らすことになる。

寄り添うように暮らす二人の関係は
次第に濃密になってゆく。

そして
二人を見守る遠縁の大塩(藤竜也)は
高校生になった花と淳悟の
ただならぬ関係に気づくが――?!

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「海炭市叙景」「夏の終り」の熊切和嘉監督が
桜庭一樹氏の直木賞受賞作を映画化。

いや~けっこう
濃密で濃厚な映画です。

なんたって
二階堂ふみ氏が素晴らしい。

愛に飢えるがゆえに
不遜さ、残酷さを併せ持つ少女を

甘く柔らかそうな肉体を伴って
ガッツリと表現しているのが素晴らしい。

ゆえに
父親代わりの浅野忠信氏との
インモラルな愛にも、真実みがあります。

制服姿の彼女と浅野氏の濡れ場、
けっこうキュンとしましたよ。


冒頭の海岸シーンから、
ただ事ではなさが広がり、

大規模な仕掛けをせずとも
スケールの大きさを感じさせることにも成功してる。

こっちのチラシのほうが
イメージジャストですね。


夕方に流れるチャイム音楽や
花の得意技など、
すべていびつな「子ども」を示唆しているのだなと思います。


なのにこの点数なのは
残念ながら
始めよく、終わりがすぼむパターンだったこと。

冒頭の殺人の切なる必然性に比べて
その後の展開が、もうひとつ迫ってこないんですね。


なにより
ベースの話がおもしろいだけに
破滅的な展開の合間が、サッサと端折られるのが、気になる。

気になる!

熊切監督は、ホントにこういう端折り感があるんですよねえ。
でも「夏の終り」の脚本家・宇治田隆史とのコンビでもあるので
このコンビの機能なのかもしれない。

うまく機能すればOKなんだけど、どうも気になる。

イメージとして血の雨が降ったりする演出も
好き嫌いが分かれるかもしれません。

「夏の終り」より30倍いいっすけどね。


★6/14(土)から新宿ピカデリーほか全国で公開。

「私の男」公式サイト
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春を背負って

2014-06-09 12:27:42 | は行

ヤッホ~~。
これからの季節、山はいいね!


「春を背負って」71点★★★★


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金融業界で働く亨(松山ケンイチ)のもとに
ある日、父(小林薫)の訃報が届く。

父は立山連峰で山小屋を営んでいた。

通夜で亨は、
山小屋で働いていた愛(蒼井優)など
父を偲ぶ山の仲間たちに出会い、その存在の大きさを痛感する。

そして、父の跡を継ぎ、
山小屋を継ごうと決意するが――?!


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「劔岳 点の記」を大ヒットさせた
木村大作監督の2作目。

名キャメラマンであるキャリアを生かし、
清く険しく美しい“ニッポンの山岳映画”を開拓し
ズバリ、平成の山ブームに当てた監督は

今回も山を舞台にしています。

そして
本作はホームドラマ要素が高く
若々しく、明るく朗らか。

山岳話に付きものであるき山の事故なども、
ことさらに大事件と騒がない。

そんな器の大きさが気持ちよく、
雄大な自然の風景が美しく、
大事件はなくても1時間56分があっという間に
すがすがしく過ぎてゆきました。

陰影パッキリと強い映像、清らかな男女の会話、鼻歌・・・と
現代話とは思えない“昭和の純朴さ”が満点で、

団塊世代の山岳ファンに
これまた響くんじゃないでしょうか。

「モンベル」のロゴも出てくるし、
山装備も最新なのにねー。

いまどき貴重種にみえる
山男役の豊川悦司氏の、飄々っぷりにも
笑ったなー。


★6/14(土)から全国で公開。

「春を背負って」公式サイト
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