ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ディーパンの闘い

2016-02-11 16:01:08 | た行

いま、まさに見たかった映画だ!


「ディーパンの闘い」80点★★★★


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内戦が続くスリランカ。

政府に対抗する<タミル・イーラム解放の虎>の兵士だった
ディーパン(アントニーターサン・ジェスターサン)は

海外に亡命するため
女性ヤリニ(カレアスワリ・スリニバサン)と
母親を亡くした少女(カラウタヤニ・ヴィバシタンビ)と
偽装家族を装って出国する。

着いた先はフランス。

だがそこで彼らは
新たな“闘い”に直面する――。


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「預言者」(09年)
「君と歩く世界」(12年)
ジャック・オディアール監督。

フランスの難民や若者の問題という社会状況と
そこにいる人物の内面描写が
しっかり噛み合って

「いま、まさに見たかった映画」
と言えると思います。

「サウル息子」
もいいけど
ワシは奥行きの深さでこっちを支持するなあ。


09年まで26年間も続いたスリランカ内戦。
そこから脱出した主人公たちはフランスに辿りつく。

なんとか難民審査を通り抜けた3人は
パリ郊外の団地に
住み込みの管理人として職を得るんですが

しかーし、さびれたその場所は
ドラックの密売人や若者たちがたむろする
不良の溜まり場だった――という展開。
うわあ、ありそうだ。

舞台は戦場ではなくフランスなのに
しかし、そこでまた新たな“闘い”が始まるわけです。あーあ。

でも、映画のほとんどはドンパチもなく
ディーパンたちの日々の暮らしと関係性に重点がおかれていて
そこがいい。

彼らの最初の“闘い”とは
異国での日常に馴染むための闘いであり、
うそっこ家族をどう持たせていくか、という闘いなんですね。

そのなかで
妻の若さゆえのわがままさとうか
ディーパンにも、少女にも、暮らしにも馴染もうとしない、
やっかいさの描写が見事。

そこでディーパンがみせる“父性”に
「おっ」となります。

で、他人どおしの3人が
だんだん本当の家族のようになっていく過程が優しい。

なのですが
やっぱりそう簡単にはいかないんですよ。


終盤、<解放の虎>の兵士だったディーパンが
まさしく孤高のトラのように牙をむくシーンは必見。
その戦闘力の高さと、必然性に圧倒されます。

ディーパン役のアントニーターサン・ジェスターサンは
実際にスリランカ内戦の元兵士だったそうで
「どうりで・・・」という説得力。
監督もよくこういう人を見つけてくるよなあ。

絶望だけじゃない、光があるところにも
救われました。


★2/12(金)から全国で公開。

「ディーパンの闘い」公式サイト
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ネコのお葬式

2016-02-10 23:58:14 | な行

このタイトルは
正直、ワシにはキビシかったんですけどね(笑)


「ネコのお葬式」68点★★★☆


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青年ドンフン(カンイン)は
かつての恋人ジェヒ(パク・セヨン)を
1年ぶりに呼び出した。

二人で飼い始め、
別れたあとドンフンが引き取っていた
猫のクルムが亡くなったのだ。

二人はクルムのお葬式をするために
ある場所へと向かう。

出会いの瞬間や、一緒に暮らし始めたときのこと
さまざまな想い出を遡りながら二人がたどり着く場所とは――?

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別れたカップルが、同棲中に一緒に飼い始めたネコ。

そのネコが亡くなってしまい
弔いをするために二人が再会し、
かつての日々を回想していく――というお話。

あくまでも二人の恋物語が主流で
ことさらネコが可哀想な描写などないので
そこは安心してよいです。


野良猫設定のネコが
「あれ?これベンガルじゃね?」な純血&美貌に成長するなど
少々の「ん?」はあるんですが
まあ、このネコ、かわいいのでよしとしよう(笑)

しかしこの主人公も
せっかく可愛い彼女をゲットしたのに
ちょっとした「疑い」に揺さぶられ

でも彼女には肝心のところを聞き出せないという
モジモジぶりが救いがたい。(苦笑)

でもそのモジモジゆえに起こる
恋人たちの誤解やすれ違いはいかにもありそうで、
甘酸っぱく
けっこう見入ってしまいました。

こういう男の子、いかにもいそうな感じするしね。

久々に王道「韓国ボーイ・ミーツ・ガール」ものを見た感じ。


なによりワシ、ネコや動物を扱う映画は
「何か悪いことが起こるんじゃないか」のフラグが
ずっとつきまとうのが辛くて
見られなかったりすることも多いんですが

今回のような「最初から亡くなっている前提」は
まだ少しラクだったかも・・・とも思いました。


そして告知。
直前のお知らせで恐縮でございます。

明日2/11(祝・木)に下北沢のB&Bで
『ねこシネマ』(双葉社)を作られた
ねこシネマ研究会代表・猫田虎夫さんと
ワシ、中村千晶のイベントがあります。


「2016年ねこシネマブーム!? ねこシネマの魅力を語る」
~映画『ネコのお葬式』公開記念~


「ねこシネマ」について
猫田さんにいろいろ聞いちゃおうと思っていますので
どうぞお立ち寄りください~。


★2/13(土)からシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開。

「ネコのお葬式」公式サイト
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スティーブ・ジョブズ

2016-02-09 23:57:44 | さ行

「こう描いてきたか!」
たぶん、どんな想像も超えてくるだろうな。


「スティーブ・ジョブズ」74点★★★★


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1984年。Macintoshの発表会の日。

本番40分前の舞台裏で
スティーブ・ジョブズ(マイケル・ファスベンダー)は
部下アンディ(マイケル・スタールバーグ)に
「(プログラムを)直せ」と言い放っていた。

Macintoshが
「ハロー」と音声を発しないのだ。

それがなければ発表会を中止する!と怒るジョブズを
右腕であるジョアンナ(ケイト・ウィンスレット)がなだめている。

一体、発表会はどうなってしまうのか?!


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自伝本もあり、すでに映画化もされ、
誰もが知っている現代の偉人スティーブ・ジョブズを
これ以上、どう描くのか?

誰もが思ったその疑問に
ここまで「スコーン!」と気持ちよく応えてくれるとは
驚きました。

さすが
「ソーシャル・ネットワーク」の脚本家
アーロン・ソーキンの筆はすごい。

1984年、Macintoshの発表会に始まり
歴史を変えた3度の発表会の
直前の舞台裏に舞台を絞り、
ひたすら会話で繰り広げられる劇。

そのなかで彼と娘との関係、
周囲の人々の関わりがあぶり出されてくる。


思考させる映画であり、
ジョブズやこの時代をあまりよく知らない人にとって
物語として面白いかどうかは正直わかりません(笑)。

しかし、いずれにせよ
「こう作ったか!」という創造の醍醐味を
見せてくれる映画だと思います。


冷淡で、変人で
人間としては最低だったと言われるジョブズ。
しかし同時に人を動せる才能と魅力を
どう共存させていたのか?

その謎を
「発表会の本番直前」という極端に抽出された細部を
異常なまでに描き込むことで、
立ち上がらせてくるのがすごい。


ジョブズ役のマイケル・ファスベンダーも
そっくりさんではないのに、その人だ、と確信させる
演技が確かにスゴイ。


アカデミー賞主演男優賞、有力だけど
でも、この人は、また獲れる!
今回はディカプリオにあげて欲しい~!
(なんだか気分は2008年「レスラー」のミッキー・ロークのときみたいな感じ。笑)

★2/12(金)から全国で公開。

「スティーブ・ジョブズ」公式サイト
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キャロル

2016-02-07 23:41:52 | か行


これは
ため息が出るほど、美しい……!


「キャロル」79点★★★★


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1952年、ニューヨーク。

クリスマスを控えたある日、
高級百貨店で働くテレーズ(ルーニー・マーラ)は
店内に入ってきた一人の女性から
目が離せなくなる。

彼女の名はキャロル(ケイト・ブランシェット)。
6歳の娘のクリスマスプレゼントを探しているという。

応対したテレーズは
キャロルと親しくなっていく。

だが
裕福な夫の妻として何不自由なくみえたキャロルには
ある秘密があった――。


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映像すべてが美しいんですが
キャロル役のケイト・ブランシェットが
とにかく美しい!


毛皮のコートをさっと羽織る様も
しっとり甘い声色も
“優美”がそこに定着させられたようで

彼女に魅了されるテレーズ(ルーニー・マーラ)がまさにそうなったように
その全てから、目が離せない。

そのことが
このラブストーリーを
説得力あるものにしているんですねえ。

二人が最初に出会う場面は、胸に刻まれる名シーン!
まあ見事だなあと思いました。


トッド・ヘインズ監督は
「エデンより彼方に」(02年)でもかなり作り込んだ
1950年代の美しさを扱っていたけれど

あれから13年を経て、
頭の中を映像に変換する技を
より磨いたんだなあと思いました。


もちろんそれに伴う中身もうまくできている。

想い合っているのに、なかなかつながらない二人の
じれったいドキドキの裏で

「げっ、あの人は、〇〇だったのか!」
「あのシーンはここにつながっているのか!」という
驚きも味わえます。

それに監督、今回は当時の“写真”を
イメージの基にしたそうで
あのヴィヴィアン・マイヤーの写真も
参考にしたそうです。うわお!


どんな人もうっとりさせる、罪な映画だと思います。


★2/11(祝・木)から全国で公開。

「キャロル」公式サイト
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オデッセイ

2016-02-01 21:01:20 | あ行

ゴールデン・グローブ賞「ミュージカル・コメディ」部門で
作品賞&主演男優賞、受賞!

・・・コメディかあ(笑)


「オデッセイ」73点★★★★


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火星で調査をしていた
NASA探査船の6人のクルーたち。

だが突然起きた猛烈な嵐に
マーク・ワトニー(マット・デイモン)が吹き飛ばされてしまう。

ルイス船長(ジェシカ・チャスティン)らは必死に捜索するが
ワトニーは見つからず
5人のクルーは仕方なく、地球への帰途に就いた。

が、しばらくして
火星の映像をチェックしていたNASAのスタッフが
驚くべきものを見つけた。

画面上を移動している「何か」があったのだ。
もしや、ワトニーは生きているのか――?!


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リドリー・スコット監督×マット・デイモン主演。
アカデミー賞でも7部門ノミネートの話題作です。


宇宙でのミッションの途中で
火星に一人ぼっちで置き去りになる男――という悲惨な題材ですが
予想より8割は明るいムードだと思います。

だってなんとも都合のよいことに(笑)
置き去りにされる主人公は植物学者で

不毛の大地と言われた火星で
植物を栽培しちゃおうっていうんですから。
やるう。

もちろん彼だって絶望するし
やけっぱちになることもあるけれど
基本的にポジティブシンキング。

常に頭脳フル回転で、前へ前へと進むんですねえ。


バックに流れる陽気なディスコ・ミュージックも
この“ぼっち”シチュエーションに
まったく似つかわしくないんだけど

この方向性は
かなり新しいし、実際そのサバイバルは
見ていておもしろい。


「火星に残されたあの人、生きてるんだって!」
彼の存在が世界中に知れて
みんなに応援されるという展開もおかしいんだけど

ふと
「こんなにみんなに知られているのに
誰も手が届かないんだ・・・」と思って
その孤独感が増すという心情的なヒネりもある。


ただ、ややナナメに見ると
予算削減など、キビシイ状況にあると聞く
宇宙開発産業へのテコ入れや応援ムードと
(日本でも聞きますが、NASAも大変らしいですもんね)

未来を切り開け!フロンティアスピリットを無くすな!という
若い世代への教育ムードも感じるんですが

うん、マット・デイモンだからハマるし
いいんですよこれで!(笑)


★2/5(金)から全国で公開。

「オデッセイ」公式サイト
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