ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

世界でいちばん美しい村

2017-03-22 23:28:17 | さ行


大地とともに生きる彼らの復興への道のりの、
なんとシンプルで、力強いことよ!


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「世界でいちばん美しい村」71点★★★★


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2015年4月に起こったネパール大地震。

約9000人の犠牲者を出した大震災の
震源地となった村の1年を写したドキュメンタリー。

カメラマンとして現地にいち早く入った
写真家・石川梵氏が初監督しています。


いわゆる「被災地ドキュメンタリー」とは
これもまた異なる作品で

村の少年アシュバドルと、彼の家族
そして村に尽くす一人の看護師を追うことで、
村人たちの再建への歩みを見つめている。

まず、このアシュバドル少年が、すごく魅力的。
利発そうな、でもまだ幼さも残るカワイイ男の子で
寒い朝、もぞもぞ起き出して
足元ビーサンで外に出て、コップの水で顔を洗う。

妹とじゃれ合ったり、動物たちとじゃれ合ったり、
無邪気な兄妹の様子も微笑ましく

そんな日常風景だけで
引き込まれてしまいます。


山奥にある村は
家もみなペシャンコだし、道路も寸断されているし
家族を亡くした人も大勢いて
もちろん深い傷を負っているんですが

でも、そこでの日々は
あきらかに前を向いている感じ。

男も女も子どもも、
新しい家のための建材を運んだり、とにかく一丸となって、よく働くんですね。

畑を耕し、家畜を飼い、常に家族で集い、
村中がひとつになって祭り事を楽しむ。
そんな
シンプルでプリミティブな暮らしの尊さがここにはある。

そんなふうに大地と寄り添って生きる彼らの再興への道のりは
まるで、草木が荒れ地から再び芽を吹くような力強さに満ちていて
畏敬とともに、
なんだか見ているこちらにも、力が湧いてくるんです。

これ、不思議。


政府は村を
高台に移転することを決めるんだけど、

それでも
「私はここで生まれて、死にたい」と
村に留まるお年寄りたちもいる。

そんなところも
まさに、日本の震災後の状況と重なって
いろいろ感じいるところ、ありました。


来週3/28発売の『週刊朝日』で
映画に賛同し、ボランティアでナレーションを担当されている
倍賞千恵子さんと、石川梵監督の対談を取材しました。

全国公開に先駆けて
東北の被災地での上映活動も行っていらっしゃるお二人が
「いまこの映画が、日本に何を伝えてくれるか」を
じっくり語ってくださっています。

ぜひ、映画と合わせてご一読くださいませ~。


★3/25(土)から東劇ほか全国順次公開。

「世界でいちばん美しい村」公式サイト
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タレンタイム ~優しい歌

2017-03-21 23:57:14 | た行

ヤスミン・アフマド監督、
イメージフォーラムで特集上映中!(3/24まで)


「タレンタイム ~優しい歌」74点★★★★


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マレーシアの高校で開催される
音楽コンクール「タレンタイム」。

コンクールに出るため
選ばれた生徒たちが連日、練習にやってくる。

ピアノの得意な女学生ムル―(パメラ・チョン)は
送り迎えを担当することになった
少年マヘシュ(マヘシュ・ジュガル・キショール)と恋に落ちる。

だが、インド系でヒンドゥー教のマヘシュの母は
イスラム教徒であるムル―との交際に反対する。

いっぽう
マレー系でギターのうまいハフィズ(モハマド・シャフィー・ナスウィプ)に
中華系で二胡の名手カーホウ(ハワード・ホン・カーホウ)は
ライバル心を抱き――。


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2009年に51歳で亡くなった
マレーシアのヤスミン・アフマド監督の遺作。


ヤスミン作品を見たのはこれが初めてだったのですが
とても素晴らしかった。


でもね、まず映画文法やテンポが
フツーじゃないんですよ。
いきなり病院のシーンになったり、ある家族の謎の踊りになったり。

とにかくつなぎが唐突(笑)。
で、最初はかなり戸惑ったんですが

でも、
それぞれが、登場人物たちの背景であることが徐々に明かされ
それぞれが、きちんと収束していく様子に「うまーい」と思いました。


青春群像としてのみずみずしさがあるし
それにね、とにかく優しいんです。
風景も空気も、まなざしも。


マレーシアという多民族国家ゆえ、
登場人物たちはマレー系、インド系、中国系と多彩で
交わされる言葉も、宗教もそれぞれに違う。

さらに、そこに耳の聞こえない少年も登場する。


すべての後ろに
異文化、異宗教、異民族の複雑さがあり、
それゆえの誤解や衝突、
ディスコミニケーションが内包されているんです。

そんななかで、クライマックスの「タレンタイム」を迎え、
それらを超えてゆく音楽の力が見えたとき、揺さぶられましたねえ。
特に、あの、ステージは泣けた!

異なるもの同士をつなぐのは理屈じゃなく、
心や体が素直に反応する、こんな「受容」や「寛容」に他ならないんだ!
静かに、感じいりました。


6作品を遺して、脳出血で突然亡くなってしまった
ヤスミン・アフマド監督ですが
いま、再評価がすごく高まっていて、各地で特集上映も開催されています。


ヤスミン監督と、なんと日本で映画を撮る予定だった
監督・女優の杉野希妃さんにも
『AERA』でインタビューさせていただき、ヤスミンワールドの魅力をたっぷり伺いました。
(来週、掲載予定です~)

折しも3/24(金)まで
シアター・イメージフォーラムで特集上映中。
ワシも見て来ます!


★3/25(土)からシアター・イメージフォーラムで公開。

「タレンタイム ~優しい歌」公式サイト
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娘よ

2017-03-20 23:22:40 | ま行

日本で劇場公開される
初めてのパキスタン映画。


「娘よ」70点★★★★


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パキスタンの山奥。

部族間の争いが絶えないこの地域に
若くして嫁いだアッララキ(サミア・ムムターズ)は
10歳になる娘ザイレブだけが生きがいだった。

が、そんなとき
部族間の衝突を解決するため
アララッキは敵方の年老いた部族長に
娘を嫁がせなければいけなくなってしまう。

アララッキは決死の覚悟で
娘を連れて、村から逃げ出すのだが――?!


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パキスタン出身で、アメリカで映画制作を学んだ
女性監督アフィア・ナサニエルの長編デビュー作。

テーマは社会派の面持ちですが
映画としては、けっこうしっかり
エンターテインメントとして作ってある。

母娘の逃避行に、かな~りハラハラしつつ
手に汗握りながら見ました。


パキスタンの北部っていうと
あのマララ・ユスフザイさんの出身地のほうでもあり
本当に昔ながらの「掟」に従ったような村の暮らしがある。

男たちは部族間のルールに従い、
どんな相手にも躊躇も容赦もなく、引き金を引く。
そんな様子をチラッと見せるだけで、
胃の縮むような思いにさせるのがうまく

若い母親と娘が
石を積み上げた迷路のような村のなかを逃げるシーンとか
もう「早く!早く!」のドキドキ。

そんな命がけの道行きの背景に映るのは
広大なパキスタン北部の風景で
これがすごく美しい。

ドラマを見ながら
見知らぬ土地の様子を知らせてくれるという
おもしろさもありました。


発売中の『AERA』(3/27号)
アフィア・ナサニエル監督のインタビュー記事が掲載されています~。


元々コンピューター・サイエンティストから
映画監督になったという才媛。
この物語は「実話」からインスピレーションを得ているんだそうです。

映画と合わせて、ぜひご一読を~★


★3/25(土)から岩波ホールで公開。ほか全国順次公開。

「娘よ」公式サイト
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パッセンジャー

2017-03-19 23:58:47 | は行

連休ど真ん中、
だーれも読んでない気がするけど
地道に更新(笑)


「パッセンジャー」69点★★★★


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ある惑星へ移住するため、
5千人の乗客を乗せて宇宙へ旅立った、豪華宇宙船。

目的の惑星までは120年(!)もかかるため
乗客・乗務員の全員が、到着まで冬眠ポッドで眠っていた。

だが、乗客のジム(クリス・プラット)が途中で
一人だけ、冬眠から目覚めてしまう。

みんなが起きるまで、あと90年もある!
たった一人で宇宙船のなかで暮らし、死んでいくのか――

絶望するジムの前に
もう一人の乗客オーロラ(ジェニファー・ローレンス)が現れて――?!


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これ、プロットはめちゃくちゃおもしろいよね。

みんなが冬眠中の宇宙船で
たった一人、目覚めてしまった男。
ほかの人が起きるのは90年後(!)
さあ、どうする?!という。

ワシ的には
一人ぼっちはやっぱりいやだけど
二人なら全然オッケー、という感じ。


とにかくこの映画、
無人の宇宙船を歩き回る体験がかなり楽しくて、
それだけでけっこう満足できるんですよ。


超・快適そうな宇宙船のなかは
さながら無人のショッピングモール、という様相。
そんな施設を独り占め!プールだって広々入り放題!という開放感が味わえて
とても楽しい。

前半はけっこうちょこちょこ笑いもあって、
たとえば
ジムが無人のカフェの自販機でカフェラテのボタンを押すと
「お客様はエコノミークラスなので、飲めるのは(フツーの)コーヒーのみです」とか言われる(笑)
ワシならブチ切れて、即マシン破壊だな、とか(笑)。

途中から、美女(ジェニファー・ローレンス)と二人っきりだし。

まあ
ある事実からシビアになるんですが
全体に軽やかな感じがあっていい。



しかし先に目覚めっちゃったら
いくら2人でも、ほかの5千人分の食事、食い尽くしちゃうんじゃね?!とか、
なんでも治療してくれる万能な“医療用ポッド”で
みんなが起きるまで、意外とチミチミ延命できるんじゃない?とか
まあ明るくいろいろ想像できる楽しさもありました。


「なぜ、彼が目覚めてしまったのか?」とか
お話には描き込みが足らない気もするけど
まあ、そこはオーライ!ってことで。


★3/24(金)から全国で公開。

「パッセンジャー」公式サイト
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3月のライオン

2017-03-18 17:58:26 | さ行

ぼくのりりっくのぼうよみ、を
教えてくれて感謝。


「3月のライオン」(前編3/18、後編4/22公開)70点★★★★


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17歳の桐山零(神木隆之介)は
中学生でデビューしたプロ棋士。

9歳のとき交通事故で家族を失い、
プロ棋士の幸田(豊川悦司)に引き取られたが
いまはある理由から、一人暮らしをしている。

孤独な彼には、将棋しかなかった。

ある夜、道で倒れた零は
近所に住むあかり(倉本カナ)に助けられる。

あかりの妹ひなたと、末っ子のモモの三姉妹は
零が知らなかった
あたたかな団らんをもたらしてくれる。

だが、そんな零に試練が待っていた――。


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最近、どうも前後編ものは敬遠しがちで(スイマセン)

でも
原作読んでたし、ロケ地が近所だし、
やっぱり気になって見たんですが
前後編合わせて、予想以上にキタ、という(笑)

最初はどうも暗ーいムードで(お葬式シーンからだしね・・・)
スローペースで、
うーん・・・と思いもしたんですが

桐山VS島田プロ(佐々木蔵之介)あたりから歯車がまわり出し、
がぜん、おもしろくなってきた。


原作の「ふわっ」な部分をかなり排除し、
「るろうに剣心」的な“闘い”方面に振り切っていて
「なるほど」と思った。

もしかして映画先に見た人は
原作コミックを見て、ちょっとびっくりするんじゃないか?と思うほどの
ガチ勝負で

それぞれに背負うものを持って闘う、棋士の精神性が
原作よりもつかめた気がしました。

「聖の青春」よりさらにガチ将棋見せ!なので、
何が起こってるか、どっちが勝ってるのか、置いてけぼりなんですが(苦笑)
将棋ファンには、よりおもしろいと思う。


前編は桐山少年の孤独をみっちり描き込み、

後編で、彼に関わるあかりたち三姉妹の問題――
いじめや、姉妹の父親登場などを盛り込み
そのなかで桐山少年が、人間的に成長を遂げて行く様子を描いている。

そして高校の先生役、高橋一生氏が
これまたい~いポイントになってるんだな(笑)

あと
彼が育てられた幸田家について
みっちり描いたのも、ちゃんと補完になっていた。

前編のエンドロールの曲が
桐山少年にあまりにピッタリで「うわっ」と思ったら
ぼくのりりっくのぼうよみ、というアーティストだった。
ハマリましたよ。


★3/18(土)から全国で公開。後編は4/22(土)から公開。

「3月のライオン」公式サイト
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